医学界新聞

 

日米医学交流の現状と今後の方向性

野口医学研究所1999年度夏期医学交流セミナー開催


 さる8月7日,東京の国際文化会館において,野口医学研究所の主催による医学交流セミナーが「日米医学交流の現状と今後の方向性-Career Developmentの1つとしての医学交流の位置付け」をテーマに開催された。会場には,米国への臨床留学に関心をもつ多数の医師,医学生らが全国から集い,熱のこもったセミナーとなった。

米国への臨床留学に必要なものとは

 午前の部では,まず,津田武氏(同研究所専務理事)が最近の米国臨床留学の動向について概説。「近年,制度が変わり,米国以外の大学の卒業生であっても,米国大学の卒業生と共通のUSMLE(米国医師国家試験)に合格することが臨床留学のための条件となった。これに合格するのは必ずしも難しくはないが,米国人の平均得点と比較されてしまうため,単に合格するだけでなく,高得点を残すことが必要になってきた。また,全体的に研修医のポジションは少なくなってきている」など,留学を希望する者にとっては厳しい現状を指摘した。津田氏は,「しかし,あきらめる必要はまったくない。ただ,現実をしっかり見据え,アプローチを変えていかなければならない」と述べ,米国の臨床留学の状況について正しい知識を持つことと,それに対応した準備の必要性を強調した。
 続くプログラムでは米国留学のための準備について,留学経験者らが詳細に指導を行なった。その中で,CV(Curriculum Vitac;履歴書)の書き方について担当した石黒洋氏(ニューヨーク大学メディカルセンター血液腫瘍科フェロー)は,「CVは自分がプロフェッショナルであることを証明するものであり,自分が営業マンとして自分という製品を売り込むつもりで書くように」とその重要性を強調した。また,津田氏はPersonal Statementについて(1)やる気を示すこと,(2)自分の長所やユニークさを強調すること,(3)知性を示すこと,(4)話が矛盾しないように,意味が通るように書くこと,(5)わかりやすく書くこと,以上5点を特に大切なポイントとして示すなど,留学に向けて必要な準備の要点を具体的に指導した。
 一方,午後の部では,スモール・グループ・セッションが行なわれ,「インタビューの実際」や「ケース・ディスカッション」のグループ演習が行なわれた。各グループには,米国で数年以上の研修医を経験したインストラクターがつき,「自分のウィークネス(短所)の言い方が下手だ。ウィークネスをストレングス(長所)に変えるような話し方を考えてほしい」,「『なぜ,米国に行きたいのか』というありふれた質問にしっかり答えられるような準備をもっとしてほしい」など,木目細かな指導をしていた。

「Career Development」をテーマにシンポジウム

 セミナーの最後には臨床留学を経て第一線で活躍する医師たちを演者に迎え,「Career Developmentにおける臨床留学・医学交流の意義」をテーマにシンポジウム(司会=国立国際医療センター 青木眞氏,津田氏)がもたれた。
 まず,初めの演者である石黒氏は「米国留学はキャリア形成の手段だということを認識してほしい」と切りだし,「自分が臨床研修を終えたときにどうしたいのか,どんなオプションがあるか,ということを留学する前からしっかり考えてほしい」と述べた。
 つづく,赤井靖宏氏(奈良県立医大)は自らの留学を「臨床のスキル・知識を身につけるための留学だった」と振りかえり,言語での苦労やハードな当直の経験などを交えながら「米国のほうがジェネラルに疾患を診れる」など米国での研修の実際を報告した。
 富江久氏(ファイザー製薬)は米国での臨床研修にあたっては「体力(当直は厳しい)」,「精神力」,「経済力」に加え,「周囲の理解」が必要だとユニークな語り口で話した。
 一方,西野洋氏(亀田メディカルセンター)はメイヨークリニックでの臨床および研究留学の経験について述べ,苦労の末にとった神経内科専門医(ボード)へのこだわり,尊敬すべき医師たちと共にすごしたメイヨーでの日々を感概深げに語った。
 最後に口演した仁志田博司氏(東女医大)は,1969年に渡米し,ニュージャージー州立メディカルセンター等で研修医,ジョン・ホプキンスでフェローを経験した,臨床留学の大先輩だが,現在と異なる留学や医療の様子を,ユーモアを交えて紹介した。その中で,仁志田氏は「特に小児科の場合,米国でのトレーニングは日本でのそれの何倍もの効果がある。厳しい経験ではあったがそれは自分の宝だ」と振りかえった。帰国後の日本でのポストを見つけるのに苦労をした話なども披露し,「帰ってくる時に(国内に)ポジションがあったほうがいい。また,喧嘩をして行くのはやめたほうがいい」とアドバイスした。
 専門も,留学した背景もそれぞれ異なる5人のシンポジストに共通していたのは,「留学は手段だ」ということであり,現地での研修が終了した時のことを,米国へ行く前から考えておくべきだということであった。その上で,実際に現地へいってからチャンスが広がれば,それを活かせばいいという。
 本セミナーは盛況のうちに幕を閉じた。全国から集った参加者らは,「なかなか,得られない情報や,体験談が聞けてよかった」,「刺激になった」などの感想をもらしていた。野口医学研究所では,「より多くの臨床留学希望者の力になれるように,同種セミナーを今後も続けていきたい」(津田氏)としている。

 
スモール・グループ・セッション
インタビューの演習では,模擬面接が行なわれ,グループごとに相互評価,インストラクターによる指導が行なわれた
 参加者たちで埋まった会場
満席の会場は米国留学を志す医師・医学生たちで埋まり,熱気にあふれた