医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


日常診療の即戦力となる小児医学のテキスト

今日の小児診断指針 第3版 前川喜平,白木和夫,安次嶺馨 編集

《書 評》河野陽一(千葉大教授・小児科学)

症候を求めて疾患の全体像を説明

 本書の第1版は,1988年に『今日の小児治療指針』の姉妹編として上梓された。『今日の小児治療指針』は広く利用されてきた教科書であり,私も若い頃当直の折などにお世話になった記憶がある。一方,治療法の決定には,疾患の明確な診断が前提となるものであり,当然治療指針に加えて優れた,そして使いやすい診断指針の出版が期待される。患者が示すさまざまな症候を前に,これらの症候を簡明にまとめて疾患の全体像をうまく説明してくれる。そのようなテキストを望んだ先生も少なくないであろう。この『今日の小児診断指針』は,この臨床医の要望によく答えたものであり,第1版から改訂の手が加えられ,斬新さを失わないテキストとして第3版もまとめられている。私は学生の外来実習などの折に,患者の症候を理解させる参考書として利用することもある。
 まず内容をみると,「正常発達のアセスメント」,「症候編」,「検査編-検査値をどう読むか」,「機能検査の選び方」,「画像診断-適応と読影」などの5つのセクションから構成されている。小児の重要な特徴は,成長・発達に伴うダイナミックな質的・量的な変化であり,当然異常の範囲もそれぞれの年齢で異なる。そこで,小児診断指針のイントロダクションとして,正常発達についての記述は,十分に役割を果たしている。また小児疾患の診断は,1つひとつの症候を丁寧に把握し,全体の情報を統合することに始まるが,この診断の基礎となる症候が,症候編に簡明にまとめられている。それぞれの症候について緊急処置,診断のためのチェックポイント,鑑別診断およびそのポイントと,診断へのアプローチも順序立てて記述されている。

各疾患の診断基準を収録

 検査値の項では,検査値の評価のみならず検査値が示す病態,疑われる疾患,そして組み合わせ検査など,次のステップへの情報も示されており,さらに別項目としてまとめられた機能検査では,検査値が示す病態が要領よく記述されている。画像診断は現在日常診療において不可欠の検査であるが,第3版で新たに適応と読影を中心に掲載された。最後に,付録として診断基準が収録されているが,このようなコンパクトにまとめられたテキストが座右にあることにより,患者を前にして診断基準を探すこともなくなる。また,例えばアトピー性皮膚炎の診断基準をみると,古くから用いられたHanifin & Rajkaの基準から,小児例を対象とした厚生省研究班の基準,日本皮膚科学会からの全年齢層を対象とした基準と併記されており,それぞれの基準の違いと意図が読みとれて疾患の理解にも参考になる。
 この小児診断指針の特徴は,以上述べたそれぞれの項目に対してきわめて簡潔に情報がまとめられていることであり,日常診療の合間にどのような情報が必要なのか,小児診療の実際を肌で捉えている編集が感じられる。研修医は言うまでもなく,指導医の先生方にも,大いに役に立つ実践的なテキストとして利用価値は高い。
B5・頁608 定価(本体14,000円+税) 医学書院


症例で診察の基本の重要性を教えてくれる1冊

ケースブック 問診と身体所見でここまでわかる!
ダニエル・L・エリオット,他 著/高久史麿,他 監修

《書 評》小濱啓次(川崎医大教授・救急医学)

 最近の医学生に「意識障害の患者が来院したときはどのようにして鑑別をするのか」とか「脳血管障害の鑑別診断はどうするのか」との質問をすると,多くの学生は「CTを撮ります」という。なぜ問診や理学的所見,神経学的な所見から鑑別診断をしようとしないのか,いつでもどこでもCTが撮れると思ってはだめだ,十分な問診,理学的な所見をとればCTを撮らなくても診断できる場合が多々ある,また十分な問診や理学的所見の後にCTを撮り,病変部位を確認するならば,次回同様な患者が来院した場合,CTを撮らなくても鑑別診断が可能になる,と話をすると,なるほどと彼らは思う。

どのように症状や所見をとらえるか

 各種の新しい診断機器や検査機器の登場は,その機器の性能がよくなればなるほど,われわれ医師から診察の基本である問診や聴診,打診,触診,視診等の必要性を忘れさせてしまう。今回,翻訳上梓されたケースブック『問診と身体所見でここまでわかる!』は,われわれ医師が医療の近代化とともに忘れつつある診察の基本の重要性を十分に教えてくれる。本書は単に問診の仕方や身体所見の見方を教えてくれるだけでなく,症例をあげ,その症例を診ていく中でどのように症状や所見を捉えて分析していくのか,またそこにある症状を示すものにはどのような疾患があるのか,所見の1つひとつがどのような意味を持っているのかを教えてくれる。

適切な診断と診療を行なうために

 本書はこれから医師になろうとする医学生,これから臨床の現場で患者と接し,医師として必要な技術を磨こうとする研修医,またすでに医師になり日夜診療に従事している医師にとっても,一度は読み,問診や身体所見の重要性を確認しなければならない書物である。本書が多くの医学生や医師に読まれ,適切な診断と診療が行なわれることが望まれる。
B5・頁312 定価(本体5,700円+税) MEDSi


世界をリードする研究者が記したNo Reflow現象

No Reflow現象を斬る その病態と治療
堀正二 編集/北風政史,伊藤浩 著

《書 評》松崎益徳(山口大教授・内科学)

再灌流療法後の大きな問題

 急性心筋梗塞の治療として再灌流療法の有効性は確立され,広く施行されている。しかし,再灌流療法を施行したにも関わらず,冠血流が十分に回復しない状態が起こることがあり,予後を悪化させる原因の1つと考えられている。
 このたび,この現象に焦点をあてた,これまでにない独創的なテキストが,この分野の第一人者である2人の著者によって出版された。大阪大学医学系研究科病態情報内科学(第1内科)堀正二教授の編集により,基礎編を同内科学の北風政史博士が,また,臨床編を桜橋渡辺病院の伊藤浩博士が執筆している。
 本著書の全体的な特徴の1つは,150頁にも及ぶ著書が2人の執筆者により著されていることである。そのため,1つひとつの章のつながりや,論理の展開がスムーズで理解しやすい記述となっている。
 基礎編で冠循環の解剖生理,神経調節などの基礎的事項が必要十分な程度にまとめられている。ただ,心筋内の小細動脈の呼び方が一定せず,解剖学的定義をまず示したほうが混乱が少ないように感じた。III 章以後は虚血再灌流障害に関連する因子についてわかりやすく解説されており,初心者にもわかりやすい。V 章では,執筆者らのもっとも得意とするアデノシン理論について詳細に記述されている。そのほか,一酸化窒素やカルシウムチャネル阻害薬にも言及してある。Kチャネル開口薬についての記載がないが,この点は臨床編の VI 章に詳述されており,全体としてバランスがとれている。

臨床におけるNo Reflow現象の意義

 臨床編は著者の得意とする心筋コントラストエコー法を用いたNo Reflow現象の臨床的評価法が詳細に解説されており理解しやすく,研修医から循環器専門医までの広い範囲の者に有用である。またNo Reflow現象がその後に引き起こす左室再構築(リモデリング)などの悪影響についても解説されており,大変わかりやすい。
 さらに,ドプラflow wireを用いた,No Reflowの特徴についても詳述されている。最近用いられるようになったロータブレータの使用に伴うNo Reflowについても解説されており,最新の内容を網羅している。生存心筋の評価にドブタミン負荷テストを用い,No Reflow現象との比較について解説されており,臨床に役立つ記述に富んでいる。VI 章では現在,臨床に用いられている再灌流障害を抑制する可能性のある薬剤について試験的なものも含めて,その効果について記載されている。今後の展望では,新しいエコー造影剤の開発の現況が述べられ,No Reflow現象が非侵襲的に評価できる可能性が示され,今後の発展に期待を抱かせる。
 以上述べたように,この分野で世界をリードする著者によって書かれた本書は,臨床的に重要な1つの現象を深く掘り下げて解説した,他に類をみない専門書である。循環器専門医や再灌流療法に携わる臨床系医師は無論,虚血心筋代謝などに興味のある基礎研究者にもぜひ読んでいただきたい1冊である。
B5・頁160 定価(本体4,000円+税) 医学書院


細胞の構造と機能からみた日本初の細胞生物学の教科書

標準細胞生物学 石川春律,近藤尚武,柴田洋三郎 編集

《書 評》井出千束(京大医学研究科教授・生体構造医学)

 この教科書は,日本における細胞生物学の本格的な教科書として初めてのものである。広範な細胞生物学を理解するためにはまず細胞の形態から入るのが最も適した道と考えられるが,この教科書はその主旨で書かれたもので,「細胞の構造・機能から見た細胞生物学」であるところに大きな特徴がある。

細胞生物学のスタンダード

 多くの大学では,医学部の専門課程に進んだ学生に解剖学・組織学を教える前に,まず細胞生物学・分子生物学を教えるというカリキュラムになっていると思う。限られた時間内で,膨大な細胞生物学の講義を体系的にしなければならないわけで,大部な英語の教科書はあっても,日本語のよい教科書は見当たらなかった。最近の医学部の入学生には,大学入試制度の偏向と高校生物の軽視のために,生物学の知識がほとんどないままに入学して来る学生が多い。そのような学生相手に細胞生物学の知識を理解させるのはなかなか難しいところである。細胞生物学の授業では,最初に細胞の構造・機能の講義から入らなければならないが,教える側としてはどれぐらいのレベルの講義をしたらいいのかという不安があり,学生からは,あまりに広い範囲にわたる講義で理解が難しいという苦情が相次いでいる。このように,細胞生物学のスタンダードとなるべき教科書の必要性が切実に叫ばれる中でこの教科書が出された。

細胞から分子生物学の基本を理解

 この教科書は細胞の構造と機能を中心に据えて,分子生物学の基本知識を整理しているので,初学者にはわかりやすいと思う。第一線で活躍する26名の執筆陣によって,広範な内容が盛り込まれている。執筆者の大部分が形態学領域の専門家であり,最初に記したように,形態学から始めて細胞生物学を理解させようとする目的で書かれている。学生にとってはこれが細胞生物学を学ぶのに最もよい方法であろう。学生はこの教科書で細胞生物学の大筋を理解することができるであろう。
 内容は,細胞の概説,細胞膜,細胞内小器官(小胞体,ゴルジ体,ミトコンドリア等),細胞の分泌と吸収,細胞骨格といった細胞の基本構造とそれに関連する機能の解説から,核と遺伝情報,細胞の情報伝達,増殖とがん化,分化・老化・死,生殖と発生,免疫と生体防御という分子生物学・発生学,さらに臨床的な面にまで及んでいる。それぞれの領域の基本がわかりやすく解説されているので,学問の骨組みを理解するのに大いに役立つと思われる。学生はこの教科書で,細胞生物学と分子生物学の基本を理解し,知識体系のオリエンテーションを得ることができると思う。本文の他に,研究方法についても要を得た説明がついている。研究方法は細胞生物学・分子生物学を理解するのに重要であるので,親切な配慮といえる。また,わかりやすい図が多くつけられており,電子顕微鏡写真はきれいで,原図が多いのも目立つところである。ただ,この本では「細胞間質」については4-5頁程度であるが,細胞間質の重要性から見て,今後は1つの大きな項目として扱かってもいいのではないかと思う。
 学生はこの教科書で細胞生物学の概要を理解することによって,遺伝子や細胞の情報伝達といった分子生物学の本格的な勉強に進むことができるであろう。
B5・頁376 定価(本体5,200円+税) 医学書院


内科外来で患者さんのニーズに応えるアートを学べる1冊

内科外来診療マニュアル 第2版 吉岡成人 編集

《書 評》宮崎 仁(藤田保衛大・内科学)

 本書は研修医や一般内科医が,病歴の聴取と簡単な診察,必要最小限の検査をもとに,効率のよい内科外来診療を行なうための指針を記載したマニュアルの改訂版である。日常の外来診療において遭遇する頻度の高い,どちらかと言えば軽症の疾患にフォーカスをあて,「患者さんの訴えからどのような疾患を想起し治療にあたるべきか」,「Common Diseaseの基本的な処方」,「健診によって検査値に異常を発見された場合の対処」の3部から構成されている。
 「医師の仕事は,患者さんの問題を拾い上げ,その解決に手を貸すことである。単に診断することが,医師の仕事というわけではない。患者さんが何を望んでいるか診断名か,治療か,安心かを探り,患者さんのニーズに応えることが大切である」
 これは冒頭におかれた「外来診療にあたって」という文章中にある,「診察の心構え」の項からの引用である。本書はこのような志のもとに編集,執筆されているため,単に鑑別診断や処方例を羅列しただけのマニュアルとは,本質的に異なっている。

患者と医師は「大人と大人」の関係

 例えば,第1章「主訴から診断へ」から,「疲労感,倦怠感」のセクションをみてみよう。外来をはじめたばかりの若い医師にとって,漠然としただるさや疲れやすさを訴え続ける患者さんの扱いは,最も頭を悩ませる問題ではないだろうか。本書では,「内分泌疾患を見逃すな」という注意の喚起や,過不足のない検査オーダーの見本を提示するだけではなく,初診時の患者さんへの対応,説明として,(1)病歴,診察所見から器質的疾患がないと思われる場合であっても,十分な説明が必要,(2)倦怠感や疲労感はさまざまな病気で起こり得るが,多くの場合は器質的疾患を伴うものではないことを説明する,(3)必要十分な検査を行なって,診断を下すことを説明し,患者に安心してもらう,(4)患者がセカンド・オピニオンを求めたい時は,いつでも他医を紹介する用意があることも説明しておく,の4項目をあげている。ここには,重大な疾患が隠れていないかと,不安を抱いて来院された患者さんを,短時間の診察時間の間に,いかにして納得させ,安心を与えるかについての,具体的な技術(アート)が述べられている。このマニュアルの魅力的な個性は,「外来診療における患者さんと医師の関係は“大人と大人”の関係である」という観点から生まれた,このような「外来患者対応術」が随所に盛り込まれていることである。

日常診療へのEBMの導入

 また,今回の改訂にあたり,医療現場へのEvidence-Based Medicine(EBM)の導入という潮流に対応し,「日常臨床と臨床疫学」,「臨床疫学を診断に生かす」,「臨床疫学を治療に生かす」の項目が加えられ,内科外来診療におけるEBM入門として読んでも興味深い。さらに,糖尿病や高脂血症の治療の項にも,臨床疫学的なアプローチが取り入れられた。
 編集された吉岡成人先生をはじめ,執筆者の大部分は聖路加国際病院で内科臨床のトレーニングを受け,『内科レジデントマニュアル』を世に送り出し,その後もスタッフとして内科臨床教育に従事された経歴を有する方々である。「なにぶん個性の強い執筆者」と記されている諸先生は,患者さんの問題を解決する能力の高い,すぐれた臨床医であり,かつて直接教育を受けたレジデントの1人であるわたしは,爾来深い敬意と憧憬を抱き続けている。
 「70点の外来診療を行なうためには,80点,90点の診療をめざした不断の努力が大切である」という言葉そのままに,より質の高い患者ケアをめざして,誠実に努力を続けて来られた執筆者たちが,その診察室でのアートを惜しげもなく公開したのが本書である。このマニュアルを日々の診療に活用すれば,『内科レジデントマニュアル』を卒業し,これから外来に向かうシニアレジデントはもちろん,熟練した内科専門医はなおのこと,本書の「ありがたみ」が実感できるに違いない。
B6変・頁368 定価(本体4,100円+税) 医学書院