医学界新聞

 

第58回日本癌学会開催にあたって

基礎研究から臨床医学への統合に向けて

田原榮一(広島大学教授・第1病理学)


「基礎と臨床との接点」

 第58回日本癌学会総会は,1999年9月29日から10月1日の3日間,広島市にて初めて開催される。本総会は,「基礎と臨床との接点」をメインテーマとし,21世紀における基礎研究と臨床医学との統合を明らかにすることによって,癌の制圧に役立てることをめざすものである。
 特別講演は,2題を企画した。A. G. Knudson博士(Fox Chase Cancer Center)は,網膜芽細胞腫の研究から2ヒットセオリーを提唱し,その後の癌研究に大きな影響を与えたが,本総会では遺伝性腫瘍についてのご講演をいただく。また,長年わが国の癌研究の舵取りとして活躍してこられた杉村隆先生(国立がんセンター名誉総長)には,「がん研究の過去・現在・未来:いくつかの落とし穴を考えつつ」と題して,今後の癌研究のあり方についてのお話をいただく。
 新しい試みとして,日米合同シンポジウム「New Tumor Suppressor Genes」を行なう。1980年代からこれまでに多くの癌抑制遺伝子が見い出され,その遺伝子異常および機能異常の蓄積によって,癌が発生し進展することが明らかになっている。その過程に多大な貢献をした日米の研究者から新しい癌抑制遺伝子についての発表がなされることは,今後の癌研究の発展に大きく寄与するものと確信している。米国からのシンポジストは,アメリカ癌学会前会長であるW. K. Cavenee博士の他,C. J. Barrett博士,E. Stanbridge博士,E. Harlow, D. Tarin博士である。
 シンポジウムは,下記の11テーマを企画した。「癌研究の創造性を求めて」,「エピジェネティクスと発がん」,「発生生物学/クロマチン・リモデリングと癌の接点」,「蛋白質分解の分子機構と癌」,「放射線発癌とその分子機構」,「がんの浸潤・転移と細胞の接着・運動」,「新しい免疫制御システムと腫瘍免疫」,「Micro-metastasisの基礎と臨床」,「がん分子標的治療-臨床へのステップアップ」,「サイコオンコロジーと精神免疫学」,「がんの化学予防」である。特に21世紀において重要な癌研究課題と考えられるエピジェネティクスと発がん,発生生物学や蛋白質分解の分子機構と癌との関連性についてのシンポジウムは,本学会では初めての企画である。
 また,被爆都市広島市で開催されることから,「放射線発癌とその分子機構」のシンポジウムもとりあげた。

臓器癌研究の集大成

 本総会のもう1つの特徴的な企画として,臓器癌についてのワークショップを行なう。脳腫瘍,頭頸部癌,肺癌,乳癌,食道癌,胃癌,大腸癌,肝癌など15の主要臓器の癌について,それぞれの生物学的個性と診断・治療の接点を主眼として,基礎と臨床の今世紀の集大成にしたいと考えている。その内容は,疫学,病因,分子発生機構/遺伝子異常,転移・浸潤,診断,治療,を網羅するものである。また,本学会で初めての「がん検診」や「遺伝子診断」,「放射線腫瘍学」,「テロメラーゼ」についてのワークショップも行なわれる。これらのワークショップは,21世紀におけるがん予防とがん医療に新しい光を与えるものと信じている。
 さらに,21のトピックスについて,教育講演としてのサンライズセミナーを行なう。加えて,ゲノムとDNAマイクロアレイの新しい展開についてのサンセットセッションも開催される。
 最終日には,伊東信行先生(名古屋市立大学長),吉田茂昭先生(国立がんセンター東病院副院長),そして私の3名による市民公開講座『環境とがん,予防と診断』を開催する。
 演題の公募はインターネットによって行なったが,新しい癌関連遺伝子,遺伝子発現の調節機構,癌の発生・進展の分子機構から診断・治療にまでおよぶハイクオリティな演題が多数寄せられた。調整の結果,一般演題は2554題となり,上記の特別企画と合わせると2816題の発表が行なわれる。活発な討論の場となることを願っている。
 なお,前日の9月28日には,第9回広島がんセミナー国際シンポジウム「Pediatric Tumors and Secondary Cancer」が広島国際会議場にて開催される。
 以上のように本総会は,ユニークでかつハイレベルのプログラムであり,21世紀の基礎研究と臨床医学との統合への方向性が示されるものと期待している。