医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


目で見る食道疾患の実用的図鑑

食道疾患レアケース・アトラス
日本食道疾患研究会 編集

《書 評》掛川暉夫(国際親善総合病院長)

厳選された貴重な症例

 このたび日本食道疾患研究会編として出版された『食道疾患レアケース・アトラス』は,第52回日本食道疾患研究会を主宰した神奈川県立がんセンター院長,小泉博義先生が主題の1つに選んだ「見て良かった稀な食道疾患」全国応募118題の中より,特に興味深い症例58例を厳選し,アトラスとして出版したものである。本書を紐解いて見ると,とかくわが国におけるこの種の著書は,症例の偏りもあり止むを得ない点もあるが,癌が中心となる傾向が強い中で,きわめて特異的な特徴を示し,半世紀近く食道疾患の治療に従事してきた私にとっても,初めて目にし得ためずらしくかつ貴重な症例が集積されており,永年探し求めてきた宝物に出会ったごとき興奮を覚える。まさに幕末の学者が蘭学の書を手にした状況と言っても過言でない。

日常臨床に直ちに応用

 本書の内容を簡単にかいつまんで紹介すると,大項目が良性疾患と悪性疾患に大別され,良性疾患では先天性疾患から始まり良性腫瘍,ポリープ,特異性炎症疾患など7項目に細分され,しかもそれぞれの疾患の症例がまさに今まで目にしたことのない稀な貴重な症例の集積である。悪性腫瘍の項も,癌腫,肉腫,黒色腫など7項目に細分され,良性疾患同様,それぞれの項の中に今まで経験したことのない貴重な症例が集められている。しかも症例が厳選されているため,すべての症例において写真,組織像等のアトラスがきわめて鮮明に描写されており,本書の価値をさらに高めている。またそれぞれの症例の解説も明解に記され,単なる症例の紹介だけでなく治療,予後,さらにはそれに関連する文献まで網羅し,日常の臨床にも直ちに応用できるよう,きめ細かい配慮がなされている。まさに目で見る食道疾患の実用的図鑑である。
 したがって食道疾患の治療に従事するものにとっては必携の書であることは当然のことながら,広く医学に携わる者にとってもきわめて有用な書となり得るものと確信し,本書を強く推薦する次第である。
A4・頁240 定価(本体24,000円+税) 医学書院


人体構造を美しい写真と図で示す解剖図譜の改訂版

解剖学カラーアトラス 第4版
Johannes W. Rohen,横地千仭,Elke Lutjen-Drecoll 著

《書 評》坂井建雄(順大教授・解剖学)

 1543年のヴェサリウスの『ファブリカ』以来,解剖学の分野では,数多くの教科書や図譜が出版されてきた。その中で,歴史の審判をくぐり抜けて現在のわれわれの手に届くものには,それぞれに明確な個性と歴史的な価値がある。ちょっと大げさな言い方になるかも知れないが,この『解剖学カラーアトラス』も歴史に残っていく名著ではなかろうか。特にこの第4版を手にとって,そんな気がしてくる。

理解を助ける補助的な図や,画像診断法の写真を増強

 この『解剖学カラーアトラス』は,解剖標本の写真を用いた解剖図譜の草分けとも言うべきもので,1985年に日本語版の初版が出て以来,15年目に今回の第4版が出版された。その間,初版の時より日本語版,ドイツ語版以外の他国語版が次々と発行されてきたが,今回の第4版では,原著の英文版を含めて15か国語で出版されるという。この図譜の当初のコンセプトは,解剖標本の写真を用いた局所解剖学的な図譜であった。この第4版でもそのコンセプトは守られているが,第1章に,骨,関節,筋,神経系,脈管を概説する総論が入り,また頭頸部や四肢といった体壁を扱う章の中でも,骨,靭帯と関節,筋,動脈と静脈,神経といった系統別の扱いを冒頭において,初学者の理解を助ける工夫がなされている。写真の理解を助ける補助的な図解が充実したこと,またCTやMRIといった画像診断法の写真や解説が増強されたことも,今回の版の特色だろう。

他に例を見ないユニークな図解

 第1章の総論をパラパラってめくってみると,大腿骨や脛骨の断面で,骨の緻密質と海綿質の違いを見せている。膝関節や肩関節を用いて,関節包や関節軟骨など,関節の一般的な構造が示されている。骨の連結のところでは,縫合,釘植,軟骨結合,骨結合のそれぞれ,また関節のさまざまな形が,モデル写真,分解した状態の実物写真,結合した状態の実物写真の3枚組で図解されている。この写真のレイアウトそのものを見ていただかないと,実感するのは難しいが,何とも機知に富んだユニークな図解を,写真を使ってよくぞやってくれたと思う。紡錘状筋や多頭筋,多裂筋,それから鋸筋や羽状筋,板状筋といった筋の形態を,模式図ではなく実物の写真で見せてくれているのは,他には見た記憶がない。
 この本は,ありとあらゆる解剖学的構造を,写真にこだわって次から次へと見せているのだが,要所要所に補助的な模式図を配していて,写真の中の解剖学的構造の同定と理解が,容易にできるよう,心憎いばかりの配慮がなされている。

歴史的名著の風格

 さて,この『解剖学カラーアトラス』を眺めていて,私は2冊の歴史的な解剖学書のことを思い出す。1つは,1685年に出されたビドローの『人体解剖学105図』である。これは全身の局所解剖を,リアリズムの極致というほどに迫真的な解剖図で図解した図譜で,一世を風靡したものである。本書の解剖学的な部分は,まさにビドローの現代版という感がある。
 私が思い出すもう1つの解剖書は,1722年に出版されたクルムスの『解剖学図譜』である。原著はドイツ語だが,そのわかりやすさのために版を重ね,また各国語に訳され,そのオランダ語版が日本にもたらされ,『解体新書』の元本になった。この解剖書では,ありとあらゆるもの,骨,筋,血管,神経など人体を構成する素材までも,図解として示している。『解剖学カラーアトラス』の系統解剖学的な部分は,まさにクルムスの現代版である。
 歴史的な名著となるかどうかは,後世の判断に委ねるべきものであるが,この本には十分にその資格があると,私は考えている。
A4・頁516 定価(本体12,000円+税) 医学書院


分裂病治療やSST実践に携わる人に

精神分裂病の統合心理療法マニュアル
ハンス・D・ブレンナー,他 著/池沢良郎,他 訳

《書 評》安西信雄(都立松沢病院・精神科部長)

 認知機能は外界からの情報を受け取り意味づける働きであるが,分裂病ではこの機能が障害されるために特有の症状や生活上の困難がもたらされる。抗精神病薬等の薬物療法のみでは改善が不十分なことが多いので,認知行動療法などの心理社会的治療との併用が推奨される。

認知障害改善のための統合心理療法プログラム

 分裂病の基本障害の研究は,E. ブロイラー以降も営々と続けられてきたが,こうした研究成果を集大成し,認知障害を改善するための方法としてあみだされたのが「統合心理療法(IPT)プログラム」である。
 このプログラムは,(1)認知分化,(2)社会知覚,(3)言語伝達,(4)生活技能,(5)対人問題解決の5つの下位プログラムから構成される。認知分化は,さらにカードの分類練習,言語的概念練習,対象推理練習の3つの練習に分かれる。このように,分裂病の認知障害を要素に分け,注意集中や概念獲得,記憶などの基本的な技能から,より複雑で相互作用を要する技能へと系統的に構成されていることが特徴である。これらのステップごとに詳細な解説があるほか,治療者と患者さんとのやりとりの例が示されているのでわかりやすい。末尾には高井氏らにより,わが国での臨床経験が紹介されている。

SSTとの共通点

 入院生活技能訓練療法として診療報酬化され普及している社会生活技能訓練(SST)と比べると,いずれも認知行動療法に位置づけられるもので共通点が多い。訳文では各章の原著者名が省かれているが,本書の第8章はSSTの中心人物であるリバーマンの執筆によるもので,患者さんの感情的負荷を避けつつ障害改善から出発するIPTと,実生活上の課題の解決から出発するSSTとの視点と技法の違い,共同で行なわれたIPTプログラムの修正が述べられており興味深い。訳文はこなれており読みやすい。分裂病の認知障害改善の方法を求めている方やSSTを実践しておられる方にぜひ一読をお勧めしたい。
B5・頁184 定価(本体4,500円+税) MEDSi


ぶどう膜炎における現在最高の記述

ぶどう膜炎 増田寛次郎,他 編集

《書 評》玉井 信(東北大教授・眼科学)

 眼科学は臨床医学の中でも際立った特徴を持っていると思う。その1つは,例えば炎症による変化が中間透光体や黄斑部に出る場合,われわれにとって最も重要な機能である視力が脅かされるため,患者が病気の早期から異常を訴えること,一方それ以外の部位の変化では,逆に新生血管がのびたり広汎な変化があっても眼科受診が遅れることが少なくない。2つ目の特徴は,細隙燈顕微鏡を用いれば前房や硝子体の細胞1個がわかるばかりでなく,房水に含まれる蛋白濃度の上昇,フィブリン析出などの変化をとらえる。さらに蛍光眼底造影検査によって,毛細血管にいたる血管の透過性の亢進,網膜色素上皮細胞の機能障害によるわずかな血液網膜柵の破綻をとらえられるばかりでなく,最近の画像診断機器を駆使すれば,網膜内の浮腫,ブルッフ膜や脈絡膜の変化などもいくつかの断面での変化として知ることができる。

臨床家を意識した構成

 本書はこのような特徴を持つ臨床眼科学の中で,その大きな分野を占める疾患群であるぶどう膜炎について,余すところなく記述された本格的な成書である。前書きでも述べておられるとおり,ぶどう膜炎研究会から発展した日本眼炎症学会の総力をあげて編集されたものだけに,各章はそのまま現在の最高の記述になっている。臨床家を意識されたのか基礎編を最後に配し,本書を読みやすくしている。以前はぶどう膜炎の50%は分類不能とよく言われてきたが,それが30%にまで減少したと述べられているだけあって,最近の分子生物学的な手法など最近の診断法も詳述されている。
 東北大学に残された小柳教授とその当時の医局員が記載したカルテをみると,80年前,細隙燈顕微鏡はもちろんボンノスコープも,双眼倒像鏡もなかった時代に,しかも炎症で観察しにくかったであろうと推察される患者の眼底を余すところなく記載し,スケッチし,そして報告されている。その努力が現在Vogt-小柳-原田病と呼ばれるに至っているわけであるが,本書が出版されたのを機に,これを精読し,先輩の努力に恥じないよう,正確な診断と的確な治療を行なうよう努めなければならないと改めて感じた次第である。
B5・頁410 定価(本体29,000円+税) 医学書院


医療の質改善の有益なガイドライン

JCAHO医療における質改善入門 山内豊明 訳

《書 評》大道 久(日大教授・医療管理学)

医療における質改善の手順

 本書は米国の病院認定組織として有名なJCAHOの医療の質に関する基本的な考え方と,その改善に向けた取り組みの手順を述べた入門書の邦訳である。わが国でもようやく医療の質に関する関心が高まり,病院機能評価事業も開始されている折から,まことに時宜を得た刊行である。
 JCAHOは成立後40年あまりの歴史を持つが,病院認定のための基準(Standards)を設定する考え方はいくつかの変遷をたどっている。特に,1990年代に入ってからの方向は本書でいう「変革への段取り」(Agenda for Change)として明確にされており,それは端的に言えば継続的な質改善の取り組みを推奨することである。本書はまずこの質改善に至った経緯を述べた後,そもそも質改善とは何かについてデミング等による品質の管理の手法を紹介して概念を整理するとともに,医療への適用の有用性を説いている。

質改善への過程を逐一解説

 医療における質改善は目標設定とリーダーシップ,プロセスの明確化と定量化などの基本的手順が紹介された後,1990年代に入ってからのJCAHOの基準(Standards)の改定の流れを紹介しながら,質改善の活動を実施していく上での行動計画を立てる手順について述べている。そして,本書のもっとも重要な部分は「モニタリング,アセスメントならびに改善」の章であり,10段階で構成された質改善の過程を逐一解説している。
 責任の割り当て,サービスの範囲,課題の設定,指標の同定,手法の確立,データの収集,アセスメントの開始,改善行動の実施,有効性の評価,結果の連絡の10段階は,医療の質の改善に取り組もうとする病院にとって,非常に有益なガイドラインとなるであろう。特に,診療・看護・事務の各管理者にとって,質改善に向けたさまざまな対応の理論的な位置づけを示している点で役に立つものと思われる。
 米国の病院認定事業の中から得られた医療の評価と改善に向けた理論と実践には,きわめて貴重な経験が含まれており,医療の質を評価しようとする立場からは常にその動向を検討してきたところである。そのようなJCAHOの活動とコンセプトが,本書によって広く病院人に読まれることは大変喜ばしい。米国の病院とわが国の病院はその成り立ちが基本的に異なってはいるが,病院認定における質改善の方向は共通である。関係者の一読を期待したい。
B5・頁104 定価(本体2,200円+税) 医学書院


不整脈診療に携わるすべての医師に

心房細動・粗動・頻拍 早川弘一,笠貫宏 編集

《書 評》五十嵐正男(五十嵐クリニック院長)

 400頁あまりの本書を一気に通読した。これだけの大部の専門書を通読するのは決して生やさしいことではないが,本書にはそれをさせるだけの魅力があったことをまず強調したい。
 このところ心原性脳塞栓症をはじめとして,心房細動の臨床的意味合いが再認識され,それに伴ってこの不整脈の基礎や臨床に関する研究論文の数が,国内でも海外でも毎年倍増している。このような時期に本書が上梓されたことは誠に時宜を得た適切な出版である。
 本書は早川教授と笠貫教授とが編集され,114名ものわが国の第一線の不整脈研究者を動員して,心房細動,心房粗動,心房頻拍にのみ限って書かれた専門書である。国内の研究者のみでこのような高いレベルの本を出版できるようになったことで,わが国の不整脈研究のレベルもここまで来たかとひとしお感慨深い。

心房細動の最新情報を1冊に

 本書は決して堅苦しい専門書ではない。心房細動の基礎と臨床についてすべての分野の最新の情報が,7章56節の項目に分けられ,432頁にびっしりと述べられている。多くの執筆者による分担執筆では,内容に凹凸があるのが通例であるが,本書にはそれが少なく,編集がうまくいっており,内容の水準が高い。
 40年あまりも不整脈を中心とした循環器の臨床に携わってきた筆者は,心房細動については大抵のことは知っていたつもりであったが,本書を読んでいる間に,心房細動の基礎にも臨床にも,筆者の知らないことが数多くあり,さらに年ごとに新しい知見が増え,いかに考え方が変わりつつあるかわかり,目から鱗の落ちる思いがした。
 また本書の魅力の1つであるが,最先端の話題を33も取りあげ,1-3頁以内でわかりやすく簡単に解説している「トピックス」という欄が設けられている。割合気楽に最新の研究情報を読めるという点で優れた編集方針に感心させられる。
 書評の通例として何か1つ2つ注文を付けなければいけないが,それがあまりない。強いて言えば治療方針を述べる際に,最近関心を集めているSicilian Gambit的アプローチを採用し,その不整脈のアキレス腱ともいうべきVulnerable parameterをあげ,そこを有効に攻撃するためにこのような作用のあるこの薬剤を使うのが有効であるというような表現を共通にしたら,もっと魅力的になったかもしれない。
 今や心房細動は不整脈の中で最も注目されているものの1つである。したがって,循環器を専門としている医師のみでなく,この不整脈患者を取り扱うであろうすべての内科医に本書を薦めたい。
B5・頁432 定価(本体15,000円+税) 医学書院