医学界新聞

 

「秋田大学病院・医療サービスフォーラム」について

今井裕一(秋田大学第3内科・講師)


国立大学附属病院存亡の危機

 国立大学附属病院は現在,3つの改革の嵐のまっただ中にあるが,台風の目のような無風状態にあり,危機を感じている人は多くない。
 改革の1つは医療保険制度改革であり,病院の収入に直接的に影響を与える大きな問題である。Evidence-based Medicine(EBM)に基づき,包括医療,あるいは診断群別定額支払い制度(DRGs/PPS)も考慮されており,全国の国立病院等の10施設ですでに試験的に施行されている。
 もう1つは行・財政改革である。国家財政が緊迫していることから国家公務員の定員を2001年から10年間で25%削減することが計画されている。収入基盤のある附属病院を独立行政法人化とする構想もなきにしもあらずである。
 残る1つは,卒前・卒後教育改革である。近い将来卒後臨床研修の必修化が法制化され,その2-3年後には実施される公算が大きい。厚生省のガイドラインに沿わない卒後研修は認定されないことになる。その基準を満たさない施設はたとえ大学附属病院であっても研修指定病院となり得ないのである。そのためのシステム作りが急務である。
 このような時代の潮流を十分把握しながら,「良質の医療」を国民に提供する義務が国立大学附属病院職員にはある。しかし,多忙な日常診療業務に追われ対策あるいは思考を放棄したり,迷走しているのが現状であろう。
 以下に,秋田大学附属病院・看護部門委員会(委員長:加藤哲郎教授)を中心とした病院全体(院長:佐藤光三教授)の取り組みについて紹介する。


全職員へのアンケート調査と医療サービス・フォーラム1

 1998年2月に,わずか5日間の調査であったが,898名の全職員を対象としアンケート調査を行なった。
 回収数679名,回収率76%であった。看護婦95%,薬剤師・技師・事務職71%,医師59%と,医師部門の関心の低さと連絡の不十分さが指摘された。それぞれの職種の人が相手の職種に要望や意見が多く出されたが,病院内の各職種間の活発な意見交換の場が欲しいという声があがった。
 また,1998年12月2日に開催された「医療サービス・フォーラム1」では,午後5時30分の開始時から医学部臨床講堂(収容人数240名)がほぼ満席となった。
 最初に病院長が「大学病院をとりまく医療環境」について講演し,次に医師部門,看護部門,事務部門の代表2名が,それぞれの部門からみた他部門の患者サービスと職員間の連携の現状についての指摘や問題点の提起を行なった。
 そのつど,活発な質疑応答がなされ,場内が騒然となったり爆笑の渦になったりで,この問題に対する関心の高さがうかがわれた。またフォーラム終了後に,それを契機として8項目以上が直ちに改善された。

「医療サービス・フォーラム2」

医療情報の電子化と病院の機能評価

 本年6月30日に開かれた「医療サービス・フォーラム2」では,午後4時から特別医療セミナー(1時間)が開催され,亀田総合病院医療システム研究部長の今中雄一先生から「医療情報の電子化と病院機能評価」についての講演が行なわれた。
 患者基本情報・病名コード化・治療法コード化の目的は,将来的なDRGs/PPSとも関連するが,それ以外に病院組織の運営能力の評価としても使用されることが紹介された。また,病院機能評価とは,個々の医療者の能力を評価する事ではなく,病院全体としての組織システムを評価することであることも示された。その際最も重要なことは,病院長あるいは事務長(理事長)のリーダーシップであることも強調された。

外来看護業務:看護婦でなくてもできる事務的業務

 午後5時30分から,前回同様,臨床講堂に260名ほどの職員が参集した(写真)。
 テーマは「外来看護業務」であったが,看護婦本来の業務を再確認することが目的であり,システムを改善し労働の効率を上げるにはどうしたらよいかを討論することとなった。最初に, 1998年8月に看護部(看護部長:佐藤光子氏)が独自に調査した「外来看護婦業務(約540項目)」の結果を報告したが,「看護婦でなくてもできる事務的業務」が55%を占めていた。診療介助は33%であり,患者への説明などの応対は12%であった。
 しかし,この数字は項目数からの評価であり臨床現場を反映しない可能性もあり,次にビデオ撮影により,業務内容の時間解析を行なった。ここでも「看護婦でなくてもできる事務的業務」が64%を占めていた。すなわち項目数,時間数の両面で評価すると,約60%は看護婦としての専門能力が有効に利用されていないことが明らかとなった。ただし,業務分担を単純に分類することに対しての疑問が寄せられた。
 次に「看護婦が外来看護でしたいこと」についての緊急アンケート調査では,「患者との応対」が第一位であったが,これに対して「医師が看護婦に望むこと」の第一は「診療の介助」であり,医療従事者間で見解の相違がみられた。

全体討論

 ここで全体の討論となった。事務部(事務部長:佐藤安宏氏)からは,「中央診療施設の事務系職員を外注化し,また今年3月にカルテの自動搬送システムが導入されたが,3センチ以上の厚いカルテが1700冊ほど存在し,これが完全に処理された後に導入機械が有効に作動すれば,事務系外注職員を外来業務応援に回すことも可能である」と報告された。
 しかし,その時に看護部門から「新しい看護婦業務を明示・提示しなければ進展できない」という指摘があった。中央検査部に対しては,検査報告用紙のカルテへの添付が看護婦の労働過重になっており改善が要求された。これに対して医療情報部から「電子カルテが厚生省から正式に認められたことを受け,今後は検査伝票・結果を電子化し保存する工夫をしており,将来的にはこのような業務はコンピュータで間に合う」という明るい話が示された。
 また,混雑した外来での看護婦の最大のストレスは,長時間待っている患者からのクレームへの対応であるという意見が出された。この問題は,不完全な予約制度にあることが指摘され,この点の改善が必要であるという意見である。
 さらに,病院内での情報不足から生ずる他部門による仕事の停滞・妨害(例えば,外来混雑時に誤った電話連絡とか無理な検査依頼とか)があることが指摘され,職員全員に注意を喚起した。討論は予定より30分延長し午後7時に終了した。
 引き続いて特別講師の今中雄一先生が紹介され,「クリティカル・パス」について講演が行なわれた。医療情報の電子化とオーダーリング・システムと医療資源の効率的な利用について概説していただいた。
 いくつかの質問を受け,予定より40分以上遅れ,7時45分に終了した。会場に拍手が鳴りやまなかった。

まとめ:改革を実践すること

 組織が巨大化すると意見交換が不十分となり,特に組織末端の意見が無視される状態が続くことになる。現場の人間は常にシステム改良に工夫をしているのであるが,ルールを決定する上層部の人たちにはその声はなかなか届きにくい。全職員へのアンケート調査でこのような嘆きの声やあきらめの声が多かった。
 フォーラムの目的は,そのような小さな声に耳を傾け「医療サービスの質と量」を確保するための意識改革である。初めに「組織の意識改革」が行なわれ,「改革の目的」が明確になれば,システムを変更することは比較的容易である。
 秋田大学附属病院ではフォーラムを2回終了し,いくつかの改革はすでに実行されている。今後はフォーラムでの討論を踏まえ,「改革を実践すること」が重要である。そして再度システムを改善する必要がみえた時に,新しいテーマでフォーラムを開催することになろう。
 今回のこのようなプロセスは,激動の現代の医療組織における民主主義の1つのあり方である。