医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


臨床の場で知識を深め,技術を磨く

臨床看護ハンドブック
藤井徹也,橋本秀和,酒井正雄 編集

《書 評》江上菊代(名古屋第二赤十字病院・婦長)

臨床現場での問題解決をサポート

 私たち看護職の臨床での責務は,“患者さんによい看護を提供すること”である。それは,ベテランであろうと新人であろうと変わらない。
 しかし,新人や経験の浅い看護婦(士)は,まだ知識,技術などが十分でなく,不安を抱きながら業務を行なっていることが多い。そんな彼女らの抱く不安,疑問は多種多様ではあり,また,ほとんどが忙しい現場で解決を求められるものである。だが,その中で彼女らが知識を深め,技術を磨いていくことは,看護職としての自信につながり,しいては患者さんによい看護を提供できるような成長をもたらすのではないだろうか。
 本書は,そんな彼女らにとって,問題解決の大いなる手助けとなるものである。
 本書の特徴としては,次の4つがあげられよう。
臨床現場で必要とされる内容である
 臨床現場でよく目にし,疑問や問題が生じがちな主な疾患について書かれており,すぐに自分の知識の確認などに利用できる。また,概念,症状がわかりやすく記されていることで,疾患の全体像がつかみやすくなっている。さらに,付録として看護に必要な主な検査基準値とともにある略語が,系統別にまとめられているのもありがたい。同じ略語でも,疾患によって異なることがあるからである。
新人,学生の指導に役立つ
 プリセプターや臨地実習指導者が,新人や学生に教えるべき適切な知識がまとめられているので,指導にはもちろん,新人や学生自身が活用しても大変便利である。さらに,メモ部分に自分が得た知識を書き込むことによって,自分だけの参考書を作っていけるというおもしろさも持っている。
臨床現場に適したサイズである
 ハンドブックという名の通り,臨床現場に持って行って活用しやすい大きさである。
看護の視点も忘れていない
 各疾患には,看護のポイントと看護診断が記されており,ただの疾患の説明書に終わっていない。
 どんなに内容が充実している本であっても,活用しにくければ,開く気にはならない。また,困った時,調べたい時,学びたい時に身近にあってこそ,参考書としての意味がある。その点,本書はまさしくそれに値するものであり,臨床のことをよく理解している編著者の熱意が伝わってくるものである。
 新人や学生のみならず,多くの看護婦(士)に臨床現場で大いに役立ててもらいたいと願っている。
B6・頁432 定価(本体2,400円+税) 医学書院


患者さんは最高の教師である

〈総合診療ブックス〉
こどもを上手にみるためのルール20

五十嵐正紘,絹巻 宏,柳川幸重 編集

《書 評》荒井留美子(静岡県健康福祉部県立病院課・課長補佐)

看護教育の視点から

 看護学生の方々が実習に来た時,彼女たちに身近でこどもと接する機会があるか尋ねることがある。最近は,ほとんど日常生活の中でこどもと接する機会はないようで,小児実習に来てもこどもの傍らでじっと立っていることが多い。
 この本の最初の「こどものみかたの基本」には,医師のみならず,病気で入院しているこどもや親御さんと接する機会の多い看護婦(士)にも共通して知っておいていただきたい内容が書かれている。もっと昔に紹介してもらえればあんなに悩まなかったのに,と思ってしまう。
 また,症状別に診察の基本や関連した事柄をイラスト,表を用いて紹介してあり,病気のこどもと接したことのない人でも理解しやすい。中には,専門的な診察技術などが含まれているため,ここまで看護婦に必要かなと思う項目もなきにしもあらずである。しかし,病院の中では医師に連絡をするのか,そのまま様子を見るのかの判断は看護婦に委ねられているので,大いに参考にしていただきたい。

外来看護の実地本として

 小児看護を長く体験していても,知らないことがけっこう多くあり,知識や記憶も曖昧のままで仕事をしていることもある。本書を読んでみて,こういう意味があったのかと改めて感心したり,今まで行なっていたことの意味を確信し,自信を持ったりした。親御さんから「こんな時はどうしたらよいの」「この症状は大丈夫ですか」と問われても,すぐに返事ができないことがある。そのような時に,この本をちょっと開いてみると,専門の医師にかかったほうがよいのか,そのまま様子をみていてもよいのかの判断ができる。
 また,小児の場合は自分で正しく症状を訴えられないので,大人がいろいろな角度から関連する病気の症状を探さなくてはならない。そのような時には,他の病気との比較や年齢による違いが記載された表が手助けとなる。本書の最後に記載されている「患者さんは最高の教師である」という言葉は,医師のみならず医療に従事する者すべてが持ち続けていたい姿勢ではないだろうか。
A5・頁200 定価(本体3,500円+税) 医学書院


“明日はわが身”(?)を支えてくれる1冊

痴呆症のすべてに答える
H.ケイトン,他 著/朝田隆 監訳/(社)呆け老人をかかえる家族の会 協力

《書 評》能條多恵子(札幌麻生脳神経外科病院・看護部長)

わが国の実情を踏まえた訳出

 超高齢社会を迎えようとしているわが国においては,「自分も痴呆になるのではないか」という不安は,誰しもが将来への不安の1つとして漠然と抱いているものであろう。本書は,このような“明日はわが身”(?)の痴呆症という不安に対して,見事な“安定剤”の役割を果たしてくれるものとなっている。
 これは,イギリスで出版された原書をもとに,わが国の医療の実情に合わせ日本語訳されたものである。患者や家族の不安や疑問に対し心をこめて率直に答える「Q&A方式」で書かれており,どこからでも読めるようになっている。さらに原書にはない工夫として,痴呆症患者にかかわったことのあるわが国のベテランの専門家が,介護支援に必要な知識や知恵をコラムやコメントに盛り込み,私たちを納得と安心の世界に連れて行ってくれる。
 本書の原題名は「アルツハイマー病・座右の書」とのことであるが,序文には「アルツハイマー病は本来はもっとも多くみられる痴呆症の1つのタイプですが,……(中略)……ここに載せられた質問と回答はどのようなタイプの痴呆症であってもあてはまるものです」と記されている。また「皆様は痴呆症とは何か,あるいはどのように介護すればよいのかについて,できるかぎり多くのことを知りたいと願うことでしょう。痴呆症がもたらす災いを可能なかぎり払い,一家が健やかに生活していくためには,知識を得ることが最善の方法です」と書かれている通り,第1章から第3章には痴呆症の定義づけ,原因や要因,よく見られる症状,診断方法や治療の可能性などについて,第4章から第8章には,日常生活の中で起こってくる主な行動障害(コミュニケーション障害,排泄障害,動作障害,感情コントロール障害など)がなぜ起こり,どう対処したらよいのか,そして介護する家族の感情の受けとめ方や支援の方法について,さらに第9章から第11章には,社会的支援のさまざまな情報やアドバイスが日本の実状に置き換えられて,すぐ役に立つように書かれている。

医療・福祉従事者の「座右の書」

 このように本書は,家族介護者を読者に想定して書かれてはいるが,地域の福祉関係者や施設で働いている人,そして一般病院で働く人にとっても有益な読み物ではないかと実感できる。なぜなら,超高齢社会を迎えようとしているわが国においてはおそらく,「痴呆症に対する知識はある領域の特殊なものではなく,どの領域の医療従事者にとっても必要不可欠な知識」になるであろうと考えるからである。
 昨今,1世帯の家族構成は全国平均2.5人を切ってしまっている。特に深刻なのは,そのうちの約半分が1-2人暮しの世帯であり,さらにそのうちの4軒に1軒が65歳以上の高齢世帯であることである。このような中で患者さんとその家族を支えることは,どの領域においても大変なものになってきている。当院においても,脳血管疾患などに伴って起こってくる意識障害,痴呆症状などにより,いつ果てるともわからない看護・介護支援の必要な患者さんが後を絶たない。そのため私たちは,患者さんとそのご家族の“安心”を支えるための「社会的ネットワークづくり」を積極的に行なう必要があると切実に感じている。その意味でも,本書は原書のタイトルどおり,私たちの「座右の書」となること請け合いである。
A5・頁252 定価(本体2,500円+税) 医学書院


EBM&Nを日常の看護・医療にどう活かすか

EBM実践ガイド 福井次矢 編集

《書 評》日野原重明(聖路加看護学園理事長)

EBMの実態とは

 今般『EBM実践ガイド』が,京都大学大学院医学研究科の福井次矢教授と教授を中心とする臨床疫学グループにより書かれ,医学書院から出版された。
 今日,日本の医学界には急にEBMという言葉がブームのようになって現れてきた。これを論じる者は必ずしもEBMの本質を十分に捉えず,ただ科学的証拠に基づいた医学(Evidence-Based Medicine)という名のみをとり,現代医学にもっとしっかりした科学性を与えることを提唱しているように思われるのである。もともとEBMというのは1860年代から始まる臨床疫学の流れの中に,1990年代になって部分的に捉えられた概念であり,臨床疫学全体の理解なしにはEBMの実態をつかむことができないと思う。
 ところで,この言葉は1991年にカナダのマックマスター大学のGordon Guyattが「ACP Journal Club」の3-4月号に取り上げて,これが流行語になったのである。日本では,1983年にハーバード大学のSchool of Public Healthに留学された福井教授らが帰国後,一般内科学の講座を日本に開くに際し,臨床疫学を医学に取り入れることが医療の有効性の評価や質の向上に大変有効であることを説いてこられた。EBMを医療に実践させると医療全体の質的レベルが高められ,また,検査や治療の有効性がハッキリとし,従来のような先輩の個人的経験に基づく臨床指導だけに負うのでなく,体系的に観察,収集された信頼性のあるデータに基づく医療が展開され,それが無駄な医療費を節約し,それが患者のQOLをも高めると考えられるに至ったのである。

臨床の前線で使用できる指針の書

 以上のことを日常の診療でどう具現化できるかというと,今まではその実践ガイドがなかったので,ただ抽象的な論議がなされることに止まることが多かったのである。本書にはEBMの医学史的背景の説明後に,EBMとは何か,その必須知識が明解に書かれ,そのあと第3章には症例を取り上げながら疑問点(problem)がどうして抽出できるか,その疑問に応えるための信用のおける文献検索方法の解説,それに次いで第4章では,EBMの診療ガイドラインの作成方法とその用い方,その有効性が述べられている。最後の第5章にはEBMの応用の実例が紹介されている。
 第3章の最初の「疑問点の抽出」の項目には,図のようなわかりやすい図式が示されている。
 Step1として,日常診療で出会う「生(なま)の疑問」がいくつもの症例で示され,次いで疑問を抽出するための方法が表で示されている。そして臨床行為を行なう際の決断のための選択方針が述べられている。次にStep2にMEDLINEなどを使っての文献の検索方法が述べられている。Step3にはエビデンスの質の評価方法が図示されている。Step4では,エビデンスの適用法の判断が示されている。


 第5章「EBMの応用例」では,診断,検査,予後,治療,臨床決断分析,リスク,経済的評価に関するエビデンスの入手法と検証とその決定が述べられている。多くは具体的な症例と図表でその解き方が示され,非常に具体的でわかりやすい。
 今まで漠然とEBMという名で頭の中に抽象的に捉えられていたことを,症例に具体的に活かす作業用の実践ガイドとして示した本書は,臨床家の頭の整理ポケットブックとして,前線で使用できる指針の書と言えよう。その意味で,本書は高く評価されてよいものと思う。
 このガイドは医学生も大学院生も,また研修医やその指導医にとっても必須の本だと思う。さらに本書は,すなわちEvidence-Based Medicineのガイドブックは,看護におけるEvidence-Based Nursingを学びたい人の入門書ともなるのだと思う。
A5・頁172 定価(本体2,800円+税) 医学書院


床現場を刺激する研究を蓄積して10年

臨床看護研究の進歩 Vol.10
『臨床看護研究の進歩』編集室 編集

《書 評》保科英子(広島大医学系研究科博士課程前期・保健学)

『臨床看護研究の進歩』との出会い

 この雑誌が創刊された10年前とは,臨床においても「研究,研究」と言われはじめていた時代だったように思う。そのころの私は何かの問題意識を持っていて研究をしようとしていたのではなく,「研究をする」ということにあこがれて,研究をするために何かをしたいという思いが強かった。研究と名のつく本を片っぱしから買い,研究と名のつく研修に手当たりしだいに参加していた。研究したいという思いだけで,何かを明らかにしたいというものではなかったため,そんな本を読んでも,研修を受けても身に付かなかったし,理解できなかった。「臨床は研究の宝庫」と講師の方が口をそろえて言われるが,私は,何を研究したら研究になるのかという立場でしか研究というものを考えられなかった。そのために,当時の私は研究のまねごとのようなことしかできず,いつも欲求不満と,自己嫌悪の状態であった。
 また,この頃から私は,ちょっと背伸びをして「看護研究」(医学書院発行)の定期購読も始めている。しかし,その当時の私には「看護研究」は難しく,読んでもよくわからないことが多かった。そんなときに出会ったのが『臨床看護研究の進歩』だった。雑誌名に「進歩」とついているのも未来を感じて興味深かった。
 年に1回の発行で,忘れた頃に発行される。別に予約をしているわけではないが,発売になったころ本屋に行くと「買って!」と言わんばかりに私の視界に飛び込んでくる。そうしていつの間にか本棚には10冊そろってしまった。

私の『臨床看護研究の進歩』活用法

 この雑誌の中には臨床看護に密着した研究が載っている。毎号私の興味のある分野の研究,明日からでも実践できそうな研究論文が載っている。臨床の現場で何かしらヒントになるようなことが書いてある。
 事例研究がたくさん採用されているのも特徴である。これは事例をまとめる上で大いに参考になった。すなわち,ケーススタディから事例研究にもっていく時のまとめ方,進め方の指標とすることができる。そして,とても興味深いのが同じ号に掲載されている「短評」である。自分とは違った事例の解釈をしている評者。「ああ,そんなふうにも読みとれるのか」「ここをもう少しこうしたら,深まるのか」などと学ぶことが多い。事例がなかなか思うようにまとめられない,事例を通して伝えたいことが伝わらないといつも思っていた私にとってはいいお手本となった。
 もう1つ私が大いに活用したのは,REVIEWと総説である。臨床にいて,あまり文献検索に時間を費やせなかった時,これは非常に役立った。自分の興味のある分野のREVIEWは,今まで何が明らかにされており,これからどんなことを明らかにしていったらいいかということが示してあり,さらには最新の情報もあり,自分の研究を進めていく上での大きな道標となった。特に活用させていただいた論文は,『臨床における口腔ケア』(竹内登美子他,VOL.5)。これを元に文献検索をさらに進め,グループで研究を行なっていった。また,最新号(VOL.10)に総説として掲載された「手術侵襲の大きな手術を受けた患者の回復過程の構造」(村上香,他)は,私が長年,手術を受ける患者を対象とした看護を明らかにしたかった,まさにそのことを研究されている。今後,これを参考に,私自身の研究の分野も確立していきたいなどと大それたことを考えている。
 この雑誌に臨床の看護婦が多く投稿しているのをみるとうれしいし,なんだか勇気がわいてくる。じっくりと研究されたものが多く,読み応えがある。私もいつかは投稿してみたいという気持ちになってくる。

『臨床看護研究の進歩』に期待すること

 『臨床看護研究の進歩』に期待することは,今後も臨床でできる研究にこだわってほしい。「ああ,こんなふうにすれば,私たちが今やっていることも研究としてまとめられるよね」「同じことを問題に思っているんだね」「私たちが困っていることをここではこんなふうに取り組んでいるよ。私たちも試してみようよ」「あの患者さんの事例,こんな風にまとめたら,もっとよく理解できそうね」と言う声が聞こえてくる,そんな雑誌をこれからも提供し続けてほしいと思う。
 さらに,読者がそんな研究論文を読んで,「私たちのところでもやってみました。そうするとこんなことがさらにわかりました」「ここをこう変えるとこういう効果もあります」などという,追試の特集みたいなものを企画してほしい。そうすると,今号の座談会でも言われていたことだが,臨床の現場の変革につながるような1つの研究の結果が,臨床で追試されることにより広がり,成熟し,一研究結果から臨床看護の原理・方法へと発展していくのではないかと考える。
 今後も,この『臨床看護研究の進歩』を私の看護の,そして研究の手引き書として手元において大いに活用していきたい。
B5・頁200 定価(本体3,600円+税) 医学書院