医学界新聞

 

創立100年目のICN大会に参加して

勝原裕美子(兵庫県立看護大学)


お祭り騒ぎの開会式

 今年は,1899年にICN(世界看護婦協会)が創立されて100年目にあたる。本年6月27日-7月1日に,ロンドンで開催されたICN100周年記念会議は,世界100か国近くから集まった看護職の熱気であふれていた。なお,ICNの正式な加盟国は現在122か国におよぶ。
 開会式が行なわれたロイヤル・アルバートホールは,世界の有名なミュージシャンやオーケストラが舞台に立つことで名高い。ドーム型のホールに入ると,4階の桟敷席までもが民族衣装をまとったり,自国の国旗を手にしたICNの会員たちで埋め尽くされていた。そして,これからの5日間を楽しもうと,一様ににこやかな表情で隣席の人に声をかけたり,記念撮影をしていた。
 開会式では,新たにICNに加盟したいくつかの国での看護の様子が紹介され,さらに100周年を記念して作られたICNのテーマ曲が披露された。ICNの公用語は英語・フランス語・スペイン語であり,通訳を介さなければ意志疎通がうまくいかないことも多い。しかし,音楽は通訳なしでもコミュニケーションがとれる。大型スクリーンにICNのこれまでの歩みが次々と映し出される中,そのテーマ曲は,世界中の看護職の未来への希望を感じさせるさわやかな響きを奏でていた。
 Kirsten Stallknecht ICN会長は基調講演で,「21世紀を間近かに控え,高度技術がこれまで以上に進む中にあっても,看護は人間を多方向からとらえてケアをするという本質を見失ってはならない」とのメッセージを送った。その後の会場はお祭りの場と化し,舞台の上ではバグパイプ,男性合唱団,舞踏団,ブラスバンドなどのパフォーマンスが続いた。
 そして,極めつけはビートルズのそっくりさん登場。懐かしのビートルズナンバーの演奏に会場は総立ち状態で,私もサンフランシスコから来たという隣のナースに,「ツイストはこうやるのよ」と教えられながら飛び跳ねた。終幕には会場内に花火があがり,「Happy Birthday」の文字がスクリーンに大写しになり,会場中が大はしゃぎとなった開会式だった。

発表会場が保育所に

 さて,2日目から始まったセッションは,看護史,プライマリ医療,看護のリーダーシップ,倫理,看護実践,看護管理,看護研究,メディアとパブリック・イメージなどのテーマに分かれて行なわれた。これらのセッションが,会場内のあちらこちらで同時進行しているため,すべてに参加することはできない。分厚いプログラムを持ちながら,お目当てのセッション会場を探し出すのも一苦労。やっとそこにたどりついたと思ったら,満席で,地べたに座り込んで参加するということもしばしばだった。
 ある時,私が1つの会場に到着すると張り紙がしてあり,「この会場は今日から保育所に変わりました。本会場で予定していたセッションは○○ルームに変更です」とある。そっと中をのぞくと,床には色とりどりのゴムボールが転がっており,それを追って子どもたちが走り回っていた。変更後の部屋は,当初予定されていた会場の10分の1程度の広さしかない狭い場所だ。日本では,学会場に小さな子どもを連れてくることなど考えられない。もっと言えば,発表会場を保育所に変え,会場を狭い所に移すなどといった柔軟性は皆無だろう。女性が多くを占める看護職が,プロフェッショナルとしてのキャリアを歩んでいくためには,これくらいの配慮があって当然なのだろうなと感じ入った。

文化によって違う倫理観

 各セッションでの発表内容は,学術的な研究発表というよりは,発表者がこれから起こそうとしているプロジェクトの説明であったり,日頃から取り組んでいる研究の紹介・報告が主であった。そして,自国で行なっているプロジェクトや研究が,他国でも応用可能であるかどうかを探ったり,他の文化圏からの意見をとり入れたりする積極的な姿勢などが共通してみられた点である。
 例えば,香港理工大学の彭美慈副教授は,ICNの倫理規定が中国の倫理観と合わないこと,中国国内でも異なる文化が混在しており,今後は統一された倫理観が必要であることなどを発表した。すると,会場にいたエクアドルの看護教員からは,アフリカでも欧米の倫理観を反映した看護のテキストしかないため,教育にかなりの工夫を必要としているとの意見が述べられた。また,それらの意見交換を聞いていた「Nursing Ethics」の編集者は,「ぜひ,各国の看護倫理教育の現状や倫理観等を投稿してほしい」と呼びかけていた。
 世界各国の看護婦職者が興味のあるセッションに集い,考え,意見を述べ,ネットワークを広げていく。それは,わくわくするような体験であった。そして,国が違い,文化が違い,言葉が違っていても,世界中の看護職者が,お互いを看護婦・士として尊敬し合っている空気の一部に自分がいることは,実に大きな喜びであった。自国語のアクセントが強い英語で話をしていても,その場にいる誰もがその人の意見を一生懸命に聞こうとする。そして,必ずなんらかのリアクションが会場の中で起こる。それは,地球上のどこにいても自分たち看護職が共通の使命を担っているという一体感・同僚感があるからだと感じた。
 次回のICN大会は,2年後にコペンハーゲンで開催される。今度は,私も世界中の看護職とともにディスカッションできるようなたくさんのネタを持って参加しようと思う。