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横浜市立「脳血管医療センター」オープン

全国初の急性期からリハビリまでの治療施設


 脳梗塞,脳出血,くも膜下出血等の脳血管疾患を対象疾患として,365日24時間体制で救急患者を受け入れる,横浜市立脳血管医療センターが,さる8月1日に,全国で初めての治療からリハビリテーション(以下,リハビリ)までを一貫して行なう脳血管疾患の専門病院としてオープンした。

早期治療の重要性

 脳血管疾患は,悪性新生物(癌)や心疾患とともに3大死亡原因とされ,1998年の死亡数(93万6480人)の14.7%(癌は30.3%,心疾患は15.3%)を占める。また,脳血管疾患は高齢になるほど発生率も増加し,寝たきりや痴呆の原因となることから,社会的にも問題とされている。これらに対しては,早期の治療が有効とされ,本紙ではこれまでに「鼎談:ブレインアタックと『脳卒中学』(1998年6月22日付,2294号)」や「ストロークケアユニット(SCU)のあり方(1998年10月5日付,2308号)」などで,脳血管疾患(脳卒中)の早期治療,早期リハビリの必要性を強調してきた。
 横浜市立脳血管医療センターは,最新の高度医療機器やリハビリ設備を導入し,迅速かつ的確な診断を行ない,質の高い医療を提供するとともに,専門病院として脳血管疾患の予防や治療に関する研究を進め,地域医療の向上に努めることを目的として設立された。寝たきりの最大原因である脳血管疾患について,内科的・外科的治療を行なうとともに,発症直後からの早期リハビリを重点的に行ない,後遺症を最小限に抑えること,再発を防ぎ廃用(寝たきり)を防止すること,患者・家族にとって日常生活の質が向上することをめざす施設であり,さらに脳ドックの実施や啓発運動を通して脳血管疾患の予防にも取り組む。
 また,老人保健施設を併設。センターを退院した患者を中心に受け入れ,在宅へ向けた機能訓練や医療的なケアサービスも行なうとしている。
 なお,同センターの病床数は300床だが,当初は215床でスタートし,2000年6月に全面開所(4人室62室,個室46室,ICU 6室)する。診療科目は神経内科,脳神経外科,リハビリ科,内科,放射線科,麻酔科の6科で,医療スタッフは医師32名,看護職220名,理学療法士23名,作業療法士21名,言語聴覚士4人,臨床心理士2名の体制。また救急は365日24時間の対応をするが,外来は地域医療機関からの紹介制をとり,一般市民のための医療相談室も4室確保されている。

可能性への挑戦

 同センターの運営目標は,(1)質の高い医療を提供するとともに,高度で先進的な取組みを行なう,(2)専門病院としての機能を生かし,他の保健・医療機関などと連携を図り,地域の保健・医療の発展に貢献する,(3)チーム医療を行なう専門スタッフが患者や家族と心を1つにして,生活の質的向上をめざす,の3本。発症直後からの治療とともに,一貫したリハビリに積極的に取組み,その可能性に挑戦をすることを究極の目的にしている。

ゆとりと安らぎをめざして
 建物自体は,各病室への採光を考慮して,病棟の形をY字型にし,病室は4人室を基本に1床あたりが10m2,各室には洗面所やトイレを設置。また,個室も46室と多く,トイレは右麻痺,左麻痺いずれの患者にも使いやすいように配慮されている。さらに廊下は車いすが楽にすれ違えるよう,十分な広さを確保。患者の自立を高めるために,病棟各階にはデイルームや食堂を配置している。Y字型の要には東西のナースステーションを置き,それぞれの導線にはナースコーナーを設置している。

質の高い医療を提供
 リハビリ施設は,採光を配慮したスペースを十分に確保し,患者が明るい雰囲気で機能回復訓練に取り組めるようにしている。自然の坂道を利用した屋外リハビリスペースは,歩行訓練を目的とした200mのアップダウンの散歩道であり,天候のよい日には屋外での訓練も実施可能だ。また,リハビリ室には患者の歩行訓練をビデオで録画し,身体機能の分析もできる設備もある。さらにCT,MRI,SPECT(単光子断層撮影装置)をはじめ,PET(陽電子断層撮影装置),サイクロトロン(速中性子線)装置など,最新の医療機器が神奈川県内に初めて導入された。

安全性と環境への配慮
 施設全体が災害時に対応できるように工夫が施されている。災害時の安全対策として,低層部屋上に一時避難広場(平常時は屋上庭園として使用)を設け,病棟各階にはベランダを設置,避難通路としても使用可能。また,屋外リハビリ施設やテラスはテント敷設対応に設計され,機能リハビリ室や食堂(老人保健施設含む)には移動ベッドの搬入が可能なように酸素ラインなども付設されている。さらに,電気,水などのライフライン切断時には,非常用発電機や緊急給水濾過装置を設置し7日間程度の供給は可能だ。一方,敷地内の緑化率は20%以上を確保。近隣民家への日陰の影響を考えた設計の他,環境にやさしい電熱供給システムを設置,駐車場も215台分ある。

脳血管疾患への研究へ向けて

 同センターにはこの他にも,手術室と直結するICUに,低体温療法を主に行なう陰陽圧室も配備。また,ANGIO(血管撮影装置)から,CT,MRI,SPECT,そしてPETの導入で,脳の疾患に対し多面的に診断を可能にしたことで,今後の脳血管疾患の研究へかける期待も大きい。
 一方,治療と一貫して行なうリハビリ施設も国内を代表するだけの充実さがある。ADL訓練室では日常生活体験ができるように,キッチン,浴室,和室などが配してある。また,各階には「梅の湯」,「桜の湯」など,症状期別の風呂場を設置している。
 早期治療が必要な脳血管疾患患者にとって,急性期からリハビリまでを一貫した治療が可能な施設の誕生は,これからの医療の新しい提供方法として注目されよう。
 なお,併設する老人保健施設は,入所者80名(当初は40名。明年4月より80名),通所者12名の施設だが,センター同様の広さを誇る4人室が16室,2人室は4室,個室8室の規模で,センターの退院患者を中心に受け入れるとしている。
(1999年7月14日取材)

回復期にある患者のためのADL訓練室。
奥は浴室
水中歩行訓練を行なうための水治療室
広い空間を持つ多機能のリハビリ室(理学療法部門)

県内初の最新医療機器
PET(上)と始動したら見ることのできないサイクロトロン装置の内部(下)。
放射性同位元素を利用するため,管理は厳重を極めている

PTによる看護職への排痰(タッピング)訓練指導
1階センターテラスのモニュメント

外来待合室と正面玄関案内板(上)
まだ椅子が配置されておらず,広い空間のままの外来待合室(中)。
左は10室ある外来診察室の内部で,各診察室からのオーダーは内部から回される

症状期別に利用される各種の浴室
上は,5階の「梅の湯」。1人で入浴が可能な安定期の患者が利用できる。中は4階の「桃の湯」。リフト浴も可能な急性期からの機械浴室。下は5階の「桜の湯」。高さの違う2つの浴槽で,自宅復帰に向けた訓練を行なうことができる

4人部屋
1床10m2と,広い空間を持つ 4人室(上)。採光だけでなく,サイドボード(床頭台)や収納スペースにも配慮が行き届いている。
また,各室の入り口にはトイレと洗面所を設置している(下)

顕微鏡手術機器を装備する手術室。
この日は,まだ手術台がない
隣接する老健施設の4人室からみる庭と隣家

横浜市立脳血管医療センター〔概要〕
センター長:本多虔夫
看護部長:滝童内浩子

住所:〒235-0012 横浜市磯子区滝頭1-2-1
   TEL(045)753-2500/FAX(045)753-2859
病床数:300床(急性期111床,安定期189床)
診療科目:神経内科,脳神経外科,リハビリテーション科,内科,放射線科,麻酔科
対象疾患:脳梗塞,脳出血,くも膜下出血等の脳血管疾患
職員:医師32名,看護職220名,PT23名,OT21名,ST4名,臨床心理士2名,他