医学界新聞

 

第20回日本炎症学会開催

さまざまな組織レベルにおける炎症研究の進歩


 さる7月15-16日,仙台市・仙台国際センターにおいて,第20回日本炎症学会が,田上八朗会長(東北大教授,写真)のもと開催された。今回は,皮膚という特殊臓器の炎症を研究する田上会長の意向に基づき,「これまであまり取り上げられてこなかった特殊な器官,特殊な組織レベルの炎症」に焦点を当てたプログラムが特徴的であった。
 会期中は,成宮周氏(京大),菅村和夫氏(東北大)による特別講演の他,教育講演に加えてシンポジウム5題,ワークショップ23題,また一般演題なども企画され,多数の参加者を集めた。
 「皮膚のバリア,角層をめぐる炎症」(司会=東北大 京極方久氏)と題した会長講演では,皮膚の一番表面にある角層に焦点を当て,自身の研究と絡めて概説。角層の役割を(1)生体のバリア膜,(2)水保持機能,(3)起炎作用の3つに分け,(2)については,アトピー性皮膚炎などの炎症部位では水蒸気が多く排泄されることから,「角層の水分保持は現在,皮膚科学の大きなターゲットの1つ」と紹介した。また(3)について,表皮を構成するケラチノサイトは,補体成分のC3や炎症に関与するサイトカインを産生する働きを持ち,炎症性刺激によってその産生が強く認められるのが乾癬であると説明。そして,白血球が角層下に集まり,露出した角層をめがけて攻撃するなどの病態がみられることを証明し,氏は「角層が体液中の補体のalternative pathwayをどう活性化するかを解明することが問題」と指摘。また,角層が生体に接すると炎症反応がみられることから,「角層は生体にとって『異物』と考えられる。角層と生体の接する部分における炎症が重要」と述べた。

抗炎症薬としてのステロイド

 シンポジウム5「抗炎症薬としての局所ステロイド」(司会=京大 宮地良樹氏,聖マリアンナ医大 川合眞一氏)では,現在,各種炎症性疾患に局所ステロイド(以下,ステロイド)が使用されているが,アトピー性皮膚炎のみ忌避傾向にある問題を重視し,本剤使用の現状と問題点,使用上の共通の整合性と異なる点を明らかにし,本剤使用を検証する場として設定された。
 最初に宮地氏からオーバービューがなされた後,大島久二氏(藤田保衛大)は,アレルギー炎症においてステロイドは,全身に存在するグルココルチコイド受容体と結合するため,全身に効果と副作用が起こる可能性があり,またNFκBなどの炎症惹起性転写因子を抑制するなど,複雑な作用機序を概説。また氏らは,ステロイド感受性亢進転写因子(GMEP)の同定に成功し,これにより遺伝子選択的ステロイド療法の可能性を示唆した。
 続く岡本美孝氏(山梨医大)は,病態に炎症細胞の関与がみられ,炎症としての性格が注目されている鼻炎について報告。氏はアレルギー性鼻炎におけるステロイドの高い有効性を示す一方で,鼻中隔穿孔などの不可逆的副作用も認められることを提示。また小児アレルギー鼻炎への長期の安全性は不明であり,その他,非アレルギー性の薬剤性鼻炎や急性鼻炎(かぜ)に対しても機序は不明だが,有効性が報告されていることを述べた。最後に氏は,鼻炎に対するステロイドの作用は非常に多彩と述べる一方で,「まだ有効性などの評価は定まっていない部分がある」とまとめた。

ステロイド治療の功罪

 喘息については,黒沢元博氏(弘前大)が報告。1998年にFDA(米国食品医薬品局)はステロイドの処方情報に,小児の成長抑制を副作用として明記するように指示。しかしその後,メイヨクリニックなど各種団体は,喘息治療におけるステロイド使用を否定するものではないと主張し,ステロイド使用の功罪を患者に伝えること,医師との相談なく中断しないことなどの注意を促した。また気管支リモデリングに対するステロイドの効果はいまだ不明な点があること,COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する作用機序など,今後の検討課題を提示して口演を閉じた。
 続いて,石川治氏(群馬大)は,標準的治療でアトピー性皮膚炎の90%がコントロール可能と前置きし,その一方で成人の難治例の増加傾向を提示。さらに本症にステロイド治療が問題とされた背景に,マスコミ報道と「アトピービジネス」の台頭に加えて,皮膚科医の対応の遅れがあったことを指摘した。さらに日本皮膚科学会における新たな取り組みにも言及し,「本症の治療には専門医によるきめ細な対応と定期的チェックが必須」と結んだ。
 最後に,司会の川合氏がリウマチ医の立場から,最近のリウマチのステロイド治療に触れた後,「ステロイドのガイドラインができると,他領域の医師による使用機会が増える点を念頭に置いた対応が必要」と,本療法における新たな問題点を提示した。