医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


QT間隔の全体像を1冊に

QT間隔の基礎と臨床
QT interval and dispersion
 有田眞,伊東盛夫,犀川哲典 編集

《書 評》杉本恒明(公立学校共済組合関東中央病院長)

QT間隔と「バラツキ」

 『QT間隔の基礎と臨床』を拝見した。副題に“QT interval and dispersion”とある。本来は『QT間隔とバラツキ』という書名になるはずのものであったのだろうと思った。
 QT間隔のバラツキは不整脈発症の基質の存在を意味する。QT間隔は心室筋の不応期を反映するとみなされるからである。リエントリ型不整脈の素地として心筋不応期のバラツキがあることについてはかつて,Gordon K. Moe,J. Hanらの系統的な研究があった。体表面心電図でみるQT間隔のバラツキと可能な限りに狭い範囲に植え込んだ微細な多極電極による不応期のバラツキとはいささか隔たりがあるが,マクロのバラツキはミクロのバラツキに敷衍されるとして理解できる。しかも今日,多くの病態において,QT間隔のバラツキの臨床的意義が示されるようになった。一方,QT間隔そのものも近年,大きな話題となっている。QT間隔の延長自体が致死的不整脈の要因を包含しており,さらにこれには遺伝子変異に伴うチャネル病とみられるもののあることが明らかになってきたためである。

基礎と臨床の最新の知見を集成

 本書は歴史的背景,基礎,そして臨床の3章で構成されている。基礎の章の前半はQTに関わる多様な電流系のチャネル病のそれぞれの病態と臨床像,そして薬効をわかりやすく示し,さらに虚血その他の個々の疾患例において異常を生じ得るチャネル電流を明示している。QT間隔のバラツキの基礎と歴史は章の後半で述べられている。QT間隔とそのバラツキの基礎心疾患や神経・体液性因子による動き,概日リズム変化など最近の知見の集成となっている。評者はちょうど,神経性食思不振症の若い女性の突然死を経験したところであったので,摂食異常症におけるQT間隔の観察には関心を持った。
 基礎編の明快な解説のために,臨床編で紹介される事実の解釈が大変興味深く,さながら応用問題を解く楽しさがあった。QTを構成するイオン電流を整理して理解し,関係する知見の現状を知り,今後の展望を思案する上で,本書は格好の書と言える。編集者として,また,著者として尽力された3先生には心からの敬意を表したい。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院


Q&A型式で痴呆症患者・家族の疑問に答える

痴呆症のすべてに答える
H. ケイトン,他 著/朝田隆 監訳/(社)呆け老人をかかえる家族の会 協力

《書 評》村井淳志(高知愛和病院長)

痴呆症患者とどう対するか

 痴呆症患者の理解しがたい行動が延々と続くと,家族は当惑し,やがて疲れ果て助けを求める。それでも行き詰まると虐待や遺棄や家族間の不和が起こり,恨みや罪悪感が残る。反対に心地よい環境でよいケアが行なわれると,患者は落ち着き,平穏に普通の生活を送ることができるようになる。家族を援助してこのような状況をいかにして構築するのかが,痴呆症対策の現在の課題なのである。
 本書を読んで一番に感じるのは,Q&A形式をとり,利用者(患者・家族)の立場になって書かれていることである。医療・福祉の関係者からみれば些細なことであっても,初めて経験する患者・家族にはよく理解できず,不安になることが想像以上に多いものである。本書ではそれらの疑問を丹念に取り上げ,親切に回答している。著者らの豊富な知識と経験が見事に結実したのであろう。
 本書では痴呆症の診断・治療・研究も一通り解説されているが,大部分は日常生活におけるケアの問題に当てられている。回答は利用者の立場に立ち苦悩を理解し共感しつつ,患者がなぜそうするのか,これから先どうなるのかを理解できるように,医学的あるいは神経心理学的な説明がなされている。理解すれば不安が和らげられ対策も立てやすくなるからである。
 例えばよくある「徘徊」や「怒り」や「攻撃」についても,家族が理解できるようかなりのスペースをとって,その背景を神経心理学的に説明している。また落ち着きがなくなったり金切り声をあげる時には,種々の身体的原因が考えられるので,医学的チェックを受けるよう注意している。
 回答の説明に続いて具体的で行き届いた対応策が示されている。1人ひとり違うので,唯一の対応策があるわけではない。例えば入浴を拒否したり着替えを嫌がり,清潔を保持できないことがよくある。これに対しても工夫をこらした対応策が多数紹介されていて,参考になると思われる。

法律・経済面のアドバイスも

 車の運転をどうするのか,今後深刻になると予想されるこの問題も取り上げられている。また来年度,介護保険に合わせて施行が予定されている成年後見人制度をはじめ,法律と経済面へのアドバイスも,時宜にかなった貴重な情報になるであろう。
 痴呆症に伴う性的問題は少なくないが,わが国ではオープンに語られることが少ないので,貴重な記述である。日英両国民の違いとしてもう1つ感じたことは,臨床治験への参加やブレインバンク(脳銀行)への脳の提供など,アルツハイマー病研究への積極的な協力姿勢である。研究が進歩すれば,利用者は当然その恩恵を受けることになる。この当然の関係がわが国では形成されがたいのは何故か,考えさせる。
 本書は英語版からの翻訳である。しかし制度・法律などわが国の状況と異なる部分については新規に書き下ろされた由である。また最新の医学的知見や追加が望まれる部分についてはコラムで補完するという新しい手法で作られている。医療・福祉の専門家だけでなく法律家,消防関係者,「呆け老人をかかえる家族の会」の皆さんが協力されただけあって,訳文はわかりやすく内容は充実し,この新しい試みは成功している。現時点では痴呆症のケアのすべてを網羅し,そして実際に役立つ最良の参考書と言えよう。
 患者・家族が本書を読んでも理解し役立つことであろうが,患者・家族に毎日接し相談を受ける立場にある保健・医療・福祉の関係者も本書を身近に置いて参考にしてほしいと思う。この内容が世間一般の常識になれば,痴呆症患者が普通に暮らせる社会の実現も夢ではなくなることであろう。
A5・頁252 定価(本体2,500円+税) 医学書院


内科診療のバイブル的存在

ワシントン・マニュアル 第8版 高久史麿,和田攻 監訳

《書 評》川西秀徳(福岡徳洲会病院副院長,教育研修センター長)

初期研修中はいつも白衣のポケットに

 米国の数多くのマニュアルの中で際立っているのが,1934年の初版以来29回改訂をみる原書“Washington Manual”である。米国の高学年医学生,内科レジデントのまさに座右の書であり,私も約30年前の米国ノースウェスタン大学附属病院での内科初期研修中は,いつもポケットに入れていた。何度も読み返し,自分でも読めなくなるほど追加メモを加え,アンダーラインを引き,新しい文献情報の載った小さな用紙を挟み込むので,次の版が出る頃にはポケットに入らないほどのボリュームになる。表紙はとれてボロボロ,脱落した頁をテープで貼り,なんとかその体裁を整えていた。このマニュアルには,私の米国内科レジデント時代の青春があり,その後新しい版が出るごとに手に取り,感触を確かめ,このマニュアルが病棟・外来での患者のケアに存分に役立ってくれたことに感謝した。今回の原書29版も発刊されて間もなく米国旅行中に購入し,一気に通読した。

グローバル医療のレベルを知る

 日本語版『ワシントン・マニュアル』も今回の改訂で8版を重ねており,日本の研修医にとっても,特に内科治療に関して,少なくともこれだけは知っておかなければならないことが記載されている。グローバル医療のレベルを知り,それに参加するのによい入門書として,日本のすべての内科系医師・研修医に推薦する次第である。翻訳は忠実になされておりたいへんに読みやすく,薬剤もわが国で使用されていないものは英語で表されていて便利である。このマニュアルを「咀嚼」し,そして頭の中に入れ込んでほしい。噛めば噛むほど味が出,それを深く掘り下げたくなるマニュアルでもある。
 また,『ワシントン・マニュアル第8版』と同時に,私がファカルティメンバーとして働いたミシガン大学のスタッフによる『ミシガン診察診断マニュアル』が刊行された。これも長い歴史を誇る診断マニュアルで,医学生・初期研修医の方々にぜひ読んでほしい。ともに米国の大学の伝統と実績に裏づけられた信頼性の高いマニュアルであり,確かな診察・診断が良質の治療につながることを日本の読者に改めて教えてくれる。
A5変・頁820 定価(本体8,000円+税) MEDSi


介護保険に対する医師のあり方を教える1冊

介護保険ハンドブック
かかりつけ医のために
 橋本信也,前沢政次 編集

《書 評》小林之誠(日本プライマリ・ケア学会長)

介護保険に医師はどう対応すべきか

 高齢時代とともに,寝たきり,痴呆,虚弱など何らかの援助を必要とする高齢者も増えていく。介護の問題は高齢者にとって大きな不安要因となっている。
 従来,医師は医療制度の中での社会的入院あるいは外来での福祉医療によって,福祉の一端を担っていると考えてきた。しかし,公的介護保険制度が施行される現時点では,どう対処すべきか迷っている面が少なくない。
 本書は,これら医師のために企画編纂されたものである。
 本書は,まず高齢時代における高齢者ケアに求められる理念を述べ,従来の医療のあり方と高齢者ケアの考え方の相違点を明らかにしている点が目立つ。
 次いで,医師が常識として知るべき介護保険制度の概要と介護支援専門員について簡明にまとめている。
 介護保険にかかわる医師にとって,介護認定審査会に提出するかかりつけ医の意見書と審査委員の役割が特に大切である。介護認定の2次判定に際して,意見書は重要な意義を持つほか,ケアマネジャーがケアプランを策定するに当たってもその意見が反映されるとされているため,十分念を入れて書く必要がある。本書はこの点について懇切丁寧に説明している。ことに介護に関する意見の書き方を記載していることに注目されたい。

要介護高齢者のリハビリテーション

 また,介護認定審査会委員としての医師が留意すべき点についてもよく書かれており,大変参考になる。
 ケアプラン作成については,要介護認定を受けた要援護者も,自分の手でケアプランを作成できるが,その場合,ケアマネジャーの資格がないかかりつけ医でも協力を要請されることがあろう。医師もケアプラン作成の手順やケアマネジャーの役割ぐらいは知っておかなければならない。
 高齢者のケアニーズは多様であるから,ケアサービスには保健・医療・福祉従事者のチームアプローチが必要となる。チームアプローチにかかわる職種の役割がそれぞれによく理解できるように説明されている。
 要介護高齢者に対する主要疾患の医学的管理については,介護面を含めてよく記載されている。なお,要介護高齢者のリハビリテーションについては,認定作業上重要な意味を持つと思われるが,その評価のポイントが述べられていることは重視できよう。
 本書は,介護保険制度に対する医師のあり方を誠にわかりやすく教えてくれる良書であり,ハンドブックとして座右に置かれることをお薦めしたい。
A5・頁200 定価(本体2,400円+税) 医学書院


食道・胃静脈瘤治療の一里塚

静脈瘤治療のための門脈血行アトラス 高瀬靖広 監修

《書 評》奥田邦雄(千葉大名誉教授)

食道・胃静脈瘤治療に欠かせないアトラス

 このたび医学書院より『静脈瘤治療のための門脈血行アトラス』が内視鏡的食道静脈瘤造影研究会のメンバーにより編集出版された。この方面の日本での草分けである高瀬靖広先生(前筑波大)の監修の下,國分茂博,小原勝敏,渋谷進,近森文夫,松谷正一,村島直哉先生が直接編集され,計30名の方々の執筆になる写真とアトラスを中心にした書である。また推薦の序は内視鏡学会理事の福富久之先生と北里大の西元寺克禮教授が書かれている。
 内容は,まず高瀬先生が第1章としてイントロダクション,すなわち食道・胃静脈瘤の治療法の変遷,硬化療法の登場,普及度,各種治療法の選択上の問題点および側副血行路の把握が不十分であったために起こる重篤な副作用について述べられ,その予防のためにも側副血行路の地図(マップ)が最高のアドバイザーであるという認識の下に,このアトラスが編集されたと理解される。
 第2章は門脈血行パターンをわかりやすく解析した解剖学的アトラスと副血行路の分類,また造影法による副血行路のとらえ方,すなわちPTP,EVIS,逆行性カテーテル的静脈造影それぞれによるシャント,静脈瘤を実際の症例についてその描出された画像を解説している。EVISはendoscopic varicealography during injection sclerotherapyの略であるが,第3章は本法を含めて経皮経肝門脈造影,経動脈性門脈造影,経脾門脈造影,バルーン閉塞下逆行性カテーテル的静脈造影それぞれの技術,方法が詳しく述べられている。第4章では胃静脈瘤の分類とそれぞれの特徴が述べられている。第5章では現在までの国際的な門脈圧亢進症の概念と分類の変遷,成因についての考え方の変化,血行動態に関する情報の増加,さらには肝硬変症の場合の全身循環亢進,末梢血管抵抗の低下,肝内局所の循環動態,局所の血液分析に基づく静脈瘤の成因の研究などが詳しく述べられている。最後の章では食道・胃静脈瘤に対する治療法のperspetiveが論じられている。

用語の解説や文献も充実

 所々にメモとして用語の解説があり,画像に図説が加えられており,文献も十分引用されており,内容はきわめて高いレベルである。国際的にこれに類する出版はなく,これが国際出版であれば世界の研究者を益することになろう。本書を食道・胃静脈瘤の治療に携わるすべての方々に推薦するとともに,医学書院に本書の英語版の企画をぜひお願いしたいと思う。
B5・頁164 定価(本体13,000円+税) 医学書院


「信頼と創造」を医療と福祉社会に!

病院早わかり読本 飯田修平 編集

《書 評》伊賀六一(日本医療機能評価機構専務理事)

医療福祉社会に生きるために必要な問題を横断的に

 『病院早わかり読本』という題名のとおり,この本は“医療(病院)とは何か”,わが国の“医療・福祉制度や費用の仕組み”,“医療の質の向上”,“患者の権利について”など,私たちが現在,そして将来に向けて医療福祉社会に生きるために必要な大切な問題を横断的に取り上げ,要点をわかりやすく解説している。しかも,医療に職を持つ人たちによってはもちろん,医療を受ける人たちにも,日常出会う身近な問題,さらには,めまぐるしく変化する医療社会の現状に遅れないための新しいテーマがきめ細かく選択されている。目次に目を通しただけでも,私たちが本来知っておくべきことなのに漠然としか把握していないような事柄について,この書が答えてくれることに気がつくはずである。

医療を提供する側と受ける側相互の理解を

 著者が日々の診療生活を通して「患者さんたちが何を望んでいるか」,あるいは「患者さんたちに何を知ってほしいか」,また医療に従事している人たちが「専門職として何を心得ておくべきか」,「何を知っていなければならないか」を自らに問いかけ,自らが求めた答えを1人でも多くの人たちに知ってほしいという願いがこの書にこめられているように思う。著者の言葉を借りるならば,まさしく「信頼と創造」の関係を,医療を提供する側と受ける側との相互の間に芽生えさせたいという心である。
 そもそも「医」は人類の起源以来,人々が生きるために,あるいは生命を守るために欠かせないものとして自分たちの生活の中から生まれたものである。医学・医療が発展する過程で生命科学・環境科学として専門分化の道に踏み込み,政治,経済,社会の仕組みと密接に関わりを持つにつれて内容が高度になり,仕組みが複雑化し,医学・医療が本来意味するものから離れたところで1人歩きする社会になってしまった。これは医療に限ったことではなく,政治,経済,科学,そして宗教,倫理,教育など,現代のあらゆる社会に見られる現象である。
 崩壊の危機感が漂う人間社会に命を与えるには自らが創り出した文化・文明の果実に生命の息吹を吹き込む人が必要である。

医療の専門性にかかわる問題を世に問う

 著者は医療人の1人として,あるいは人間の1人として現代の医療社会に灯をともす役割を自覚したに違いない。初版から今回の最新版に至る道程を知っている私には著者のその心が伝わってくる。この書は「信頼と創造」を単に理念としてだけでなく,具体的に人々の生命・生活の質の中に呼び込むために,まず医療の専門性がかかわる難しい問題をできるだけ咀嚼し,わかりやすく表現し,『病院早わかり読本』として世に問うたものである。
 必要とする問題が生じた時々に,折に触れて書庫から取り出し,それを具体的に解く鍵として活用する座右の書として推薦したい。
B5・頁132 定価(本体1,800円+税) 医学書院