医学界新聞

 

<創刊10周年>

『臨床看護研究の進歩』
私の活用法

各巻B5・頁192-224 定価(本体2,800-3,600円+税)医学書院


臨床看護研究の「頼りになる羅針盤」

土蔵愛子(山梨県立看護大・看護学)

 臨床で看護研究を志す方に推薦したい本である。看護の仕事に熱心な看護専門職者においては,日々の実践の中で必ず疑問や問題を抱える。そこで疑問の解消や問題における本質の探求のために研究を志す場合が多い。そのような時に頼りになる羅針盤となるのがこの『臨床看護研究の進歩』第1-10巻である。
 ちょうどこの第1巻が発刊される頃,看護研究は誰がするべきかという論議がなされたことがある。研究の専門家か実践者かという議論である。研究はテーマを持った人が行なえばよいのであって,いま思えば無用の議論ではあったが,そのような時期に『臨床看護研究の進歩』と命名された本書が発刊された。以後,毎年1度発刊されてついに全10巻となった。
 創刊時から本書に一貫して流れているのは,患者を中心にした実践的研究を大切にしている姿勢である。第6巻の記事の中で斎藤やよい氏も述べるように(Vol.6, 185頁),「臨床は研究テーマの宝庫」である。「ダイヤモンドの原石」をそのままにしておくか「拾い上げ,吟味し,磨いて」いくかは,それを取り扱った人に委ねられているわけだが,拾い上げる視点や,吟味し,磨く方法を,本書を通して学ぶことができる。

実践家の力強いサポーター

 取り上げる内容は嚥下障害,褥創,さまざまな状態にある患者への援助報告など臨床看護に密着したテーマの研究で占められており,研究結果が即,現場の看護に参考になる。また,REVIEWや総説ではその問題領域を的確にとらえ,研究の動向が振り返られているので,これから研究に取り組もうとする人には大いに役立つ。掲載された原著や論考などに対する短い論評が付されていて,これが研究の読み方や深め方の参考になる。さらに,研究の倫理的問題(Vol.5, 6)や問題の明確化(Vol.2),研究計画書を書くということ(Vol.4)といった実践講座的内容も見逃せない。
 こうしてみてくると,このシリーズが実践的研究にもっとも取り組みやすい立場にいる実践家への力強いサポーターであることを,改めて実感する。実にありがたいことである。学会でもなく研究者集団でもない一出版社が,臨床看護研究の進歩に対してこのような内容で熱いエールを送っているものは他に見当たらない。
 私自身,臨床に根を張った研究を志向していることもあり,ここに掲載された1つひとつの成果は興味深く,毎年その発刊を楽しみにしている。また,自分の研究経験を基にいくつかの病院で看護婦が行なう研究にかかわりを持ってきたが,そこでは必ずこの中の一部を参考にする機会があり,ついついこのシリーズ全体を紹介することになる。

貴重な10年間の蓄積

 実践家の研究に暖かい視線を持った編集者の意図が反映されている本シリーズの10年間の蓄積は貴重である。初めての読者には10巻シリーズの全体に目を通すことをお勧めする(残念ながらVol.1は絶版とのことであるが)。たぶん,自分の不足や確認したいことにいろいろ答えてくれると思う。また,このシリーズ自体の進歩も見える。研究の多様性を知り,自分のテーマ確定,研究の進め方,方法の選択といった点で得られる示唆は決して少なくないであろう。


看護を充実させる研究の手引書

堀喜久子(東海大医療技術短期大助教授・看護学)

 机の上に置かれた10冊の『臨床看護研究の進歩』の全体の厚さを測ってみたら,約11cmありました。その中からどれか1冊を取り出し,どの頁を開いても,そこには「看護」そのものがぎっしりと詰まっているのを見出すことができます。
 臨床看護の場面で,人はさまざまな症状や状況,さらには治療や検査などから生じる苦痛を感じながら療養生活を送っています。看護はそのような人々の生活しにくさや,苦痛を受けとめながら,その人と手を携え,後ろから支え,時には前に立つようにして活動を続けています。本書の論文を読むと,臨床で行なわれる看護研究は,そのような日々の活動から生まれてくる「しずく」なのだと実感できます。

「その人」を見つめる看護のまなざし

 実践した看護を事例から振り返り,もっとよい看護をするために必要な何かを探る論文,あるいは,現在行なわれている看護の方法を点検し,より安全で安楽な技術を考えるもの,さらには,看護場面での事象の理由(根拠)を明らかにすることを試みた論文など,その出発の時点は異なっていても,生み出された「しずく」には病んでいる人々への「もっと安楽に,もっと安全に……」という願いが根底にあることが読みとれます。『臨床看護研究の進歩』に掲載されているどの論文にも,「その人」を見つめる看護のまなざしを感じることができるのです。Vol.10に掲載された座談会で登坂有子氏が述べておられるように「個から出て,そしてまた個の患者さんにきちっと還ってくるもの」(175頁)という姿勢が貫かれているのを感じます。
 また,本書は私たちに臨床で看護研究を行なう場合の視点や方法,記述の仕方などを伝えてくれます。「臨床看護研究の進歩のために」と付されている短評集を個々の掲載論文と照らして読むと,論文を読む視点を養ったり,研究に着手する場合の留意点を知るのに役立ちます。その意味でも,日々の実践を研究的に取り組みたい,あるいは事例を素材に研究したいと考えておられる方々に,実践的な指導書として大いに役立つはずです。論文の直後に短評を置かずに,巻末にまとめているのも本書の特徴と言えるでしょう。まず,自分で読んで自分なりの感想を持ち,その後に短評を読むと自分の考えや視点を吟味することができるからです。
 私は,1990年に創刊号(Vol.1)の書評を書く機会を与えられ「読後感は,一口で言うならば『重い雑誌』である。1つひとつの報告に要した研究者の時間と患者への熱意が,本誌を重いと感じさせたのだろう」と述べたことを思い出します。その気持ちを10年間変わらずに持ち続けられたことを幸せに感じています。語られることばは消えても,綴られたことばは消えないのです。そして,1つの研究論文が次の発展を生み出し,臨床看護研究の進歩がそのまま“臨床看護の進歩”となることを期待しています。


「使われる」ことを意図した貴重な雑誌

小板橋喜久代(群馬大助教授・看護学)

 科学的根拠のある実践例の紹介をしたいと思うとき,まず手にするのがこの『臨床看護研究の進歩』である。雑誌としてはめずらしく,研究紀要なみに毎年1冊だけ発行され,1989年の創刊以来10冊(Vol.1-10)を数えるに至った。

看護の発展に不可欠な臨床実践と研究教育間の循環経路

 本誌の創刊号に寄せられた言葉に,この雑誌の趣旨が凝縮されている。実践者だからできる研究,臨床だからこそやらなければならない研究を育てることの重要性(岡部氏),個の看護ケアに帰る研究を積み重ねることの必要性(登坂氏)である。改めて言うまでもないことであるが,臨床から教育・研究へ,教育・研究から臨床実践へ,確実にキャッチされ,それぞれの立場で有効に使われるための循環経路がなくては,看護の発展はあり得ない。研究の成果を実践に活かす,とはよく言われることであるが,同様に欠かせないのが,実践の成果を教育に取り上げることの重要性であろう。
 過去10年間には多少構成上の変化は見られるものの,本書は現在,大きく4部構成になっている。1部は「REVIEW」,2部は「総説&原著」,3部は「Nursing Report&論考」,4部は「臨床看護研究の進歩のために」と題され,そこには掲載論文に対する短評集が含まれている。上記の趣旨を念頭に,過去10巻の内容を概観して改めて気づくことは,本誌が,実際に使われることを意図した貴重な雑誌であるということである。特に次の2点を評価したい。

広くディスカッションの場を提供

 まず,研究テーマとして,臨床実践の成果を積極的に取り上げている点は言うまでもないことであるが,研究成果の紹介に止まらず,その短評を通して,臨床的な位置づけ,研究の限界や残された課題を明らかにすることで,広くディスカッションの場を提供していることである。さらなる進歩を願って,投稿者,論評者,活用しようとする読者(実践者・教育研究者・加えて学生)が一体となって白熱論議できる場である。論文は精読・査読して終わりではなく,そこから自らの抱えている課題を発展させるためにこそ読むものである。このディスカッションの素材として「Nursing Report&論考」に取り上げられている論文が興味深い。臨床の看護婦(士)にとってはたいへん身近で,必ずしも<上手くいかなかった>実践も紹介されていて,ともに考えさせられる内容になっている。
 もう1点は,Vol.5以降,REVIEW記事を充実させている点である。先行研究について知ることの重要性をわかってはいても,1つのテーマでREVIEWをすることはたいへん労力のいる作業である。このREVIEWは,あるテーマについて動向を知りたい時,より適切にテーマを絞り込んで,目的にかなった研究方法を選択していく時の助けになる。
 医学ならずとも看護研究においても5年以上前のものは古いといわれる時代である。臨床研究の成果が教育の場を活性化する。up-to-dateな課題の提供によって将来性を議論したいものである。最新の情報や動向を感じ取った学生は,看護(学)をエキサイティングだと言う。彼らは,次世代の看護実践において,自分たちがどのようにチャレンジしていったらよいか,チャレンジできる可能性が残されているか見つめているのである。
 これから望みたいのは,研究成果の実践応用,追試の成果が報告されることである。さらなる活用の可能性を期待する。