医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


肝癌の診断から低侵襲治療までのすべてを網羅

肝癌の低侵襲治療 中村仁信,林紀夫 編著

《書 評》打田日出夫(奈良医大病院長・教授・放射線医学)

 日常診療に不可欠である肝癌の低侵襲治療を包括した単行本は皆無であったが,中村仁信教授と林紀夫教授のチームにより,最新の知識と考え方を豊富に取り入れた平易で簡潔な成書を発刊されたことは,医療における大きな福音である。
 低侵襲治療の考え方,肝癌のスクリーニングの確定診断の項では,必要な事項が要領よくまとめられている。また,治療法の選択基準では,TAE,PEIT,併用療法,マイクロ波凝固,動注リザーバーと多岐にわたる低侵襲治療の選択について,腫瘍結節の大きさ(3cm以上と以下)と性状(塊状型と浸潤型)に分けて,形態と機能の両面から整理して解説されている。

患者を全人的なQOLの観点から診る重要性を示唆

 低侵襲治療のテクニックの項では,TAE,CTを含むPEITなどの実際をわかりやすく解説してあり,カテーテルの使用法,TAEにおける血管造影,TAEの方法,リザーバー動注化学療法などでは,分担執筆者の個性と流儀が感じられ,興味深く読んだ。治療後のマネジメント,特に再発の診断と再治療は,肝癌の治療における忘れてはならない課題であるが,重要なポイントが記述されている。また,合併症についても便宜的に内科的と放射線科的対応に分けて整理されており,最後に患者への日常生活指導にも言及している。治療のみに終始しないで,患者を全人的なQOLの観点から診ることの重要性を示唆しており,教示されるところが大きい。
 20年以上も昔,超選択的肝血管造影やTAEの草分け時代にともに究め汗を流した朋友が,ここに成果を世に示されたことは,この上ない誇りと慶びであり,心から祝福の意を表したい。集学的治療,チーム医療による低侵襲的な医療の重要性が叫ばれている中で,肝癌の診断から低侵襲治療,さらには治療後のマネジメントに至るまで,一貫した指針に基づいて取り組んできた内科と放射線科によるチームの成果が集大成された。

時代にニーズに応えた名著

 知識や文献に走り過ぎることなく,診療に立脚して実際的にわかりやすく書かれており,本書は正しく時代のニーズに応えた名著である。また,内容の多くが普遍的であり,私の意見とも一致していることもうれしいことである。本書は肝癌の診断から低侵襲的治療までのすべてを網羅しており,放射線科,内科,外科の専門家だけでなく広く研修医を含めた臨床医の診療,研究,教育に役立つことを確信し,一読することをお推めする。
B5・頁224 定価(本体8,500円+税) 医学書院


医療従事者必携の情報ソース

治療薬マニュアル1999 CD-ROM版

《書 評》小澤 明(東海大教授・皮膚科学)

 『治療薬マニュアル』は,診療室や薬局はもとより,ナースステーション,検査室,医療事務,保険審査をはじめ,医療従事者が携わる部署では,必携の情報書として広く定着し,高く評価されている。しかし,電話帳のようなこの手の辞書的書籍の欠点は,厚く重い本となり,スペースをとり,取扱いも不自由な点である。また何よりも,その検索に戸惑うほど情報量が多いため,使い手が意図したとおりに検索しようにも効率が悪い。一方で,コンピュータの普及により,そのような書籍のCD-ROM化が進められ,新しい書籍としての地位を確立しつつある。とは言うものの,今度はコンピュータ操作の問題や不十分なプログラムのために,その利便性に問題を生じているCD-ROMも少なくはない。
 この度,『治療薬マニュアル1999』のCD-ROM版が新しく完成し,それを試用する機会を得たので,平均的ユーザーとしての使用経験から,このCD-ROM版を検討した。

(1)『治療薬マニュアル1999』の収載内容
 1998年11月27日までの薬価基準収載薬をほぼすべて収録。ただし,CD-ROM版には,同書の付録部分は収録されていない。

(2)「CD-ROM版」の操作性
コンピュータの仕様:Windows,Macintoshのいずれでも使用可能で,それらの仕様や装置もほぼ標準の機種で使える。
起動:ユーザーズガイド(説明書)を読まなくてもできる程で,ここでの挫折はない。
検索操作:一度起動すれば,画面を見ているだけで問題なく簡単にできる。実際,筆者はユーザーズガイドを見ずに操作した。
検索速度:従来の種々の書籍のCD-ROM版では,わずかな時間ではあるがその検索時間にイライラしたが,『治療薬マニュアル1999 CD-ROM版』では,ほぼ瞬時に次の画面が提示され,その速度に驚かされる。

(3)「CD-ROM版」の特徴
検索機能:目次検索(目次を階層構造にし,どの頁を見ているかがわかる),条件検索(薬品名,適応症,副作用,薬効分類,製薬会社名の5項目で,複合検索も可能),全文検索(3つまでの検索語のand/orでも検索可能),識別コード検索(薬剤識別が容易)の4つの方法が可能で,要は使い手の思うままに,どんな形,項目からも検索が可能ということである。検索語は,「参考」ボタンをクリックすれば,関連語も含めて参照できる。さらに,検索を行なうたびに目次リストが連動して表示されるため,自分が検索している内容の位置と関連領域がわかる。
図表ウィンドウ:薬剤の構造式,一覧表などが瞬時に表示され,非常に便利である。
メモ機能:検索した内容に,自分のメモを挿入して記録することができ,また再検索も可能である。この機能を上手に使えば,CD-ROMの価値も一層上がる。
文字の表示:文字サイズが3段階に変えられるので,筆者のように老眼に悩む向きにも便利である。
検索履歴:最大30件の検索履歴が記憶されているため,再検索が容易である。
印刷/コピー:検索内容,図表,メモなどの印刷が簡単にできる。クリップボードを使えば,それらを自分なりに編集することも可能で,ファイルとしても保存でき,有用である。
 以上,筆者が実際に使ってみた『治療薬マニュアル1999 CD-ROM版』は,便利で,使い勝手もよく,このCD-ROMを起動すれば,それがよく理解できると確信する。とともに,医療に携わる現場で広く用いられ,その能率が向上することを期待したい。
Mac & Win版 定価(本体3,900円+税) 医学書院


教科書では得られない実践的な統計学の知識

論文が読める!早わかり統計学 
臨床研究データを理解するためのエッセンス
 J.R.ノーマン,他 編/中野正孝 訳

《書 評》柳井晴夫(文部省大学入試センター教授・研究開発部)

 本書はカナダ・マクマスター大学の2人の生物統計学者による『早わかり統計学』(PDQ Statistics)第2版の翻訳である。本書は4部18章からなるもので,第1部から順に,「記述統計学」,「統計的推測(パラメトリック検定の手法)」,「ノンパラメトリックな統計手法」,「多変量解析」と多くの統計学の教科書に記載されているほとんどの手法が網羅されている。特に,第4部の多変量解析には,判別分析,因子分析,クラスター分析はもちろんのこと正準相関分析までが解説されている。なお,第15章「因子分析」における因子負荷量の有意性の基準は類書にみられない価値ある記述であることを明記しておく。さらに第3部11章には生命表分析,ロジスティック回帰,対数線形モデルなど,通常の統計学の教科書には掲載されていない手法がきわめて平易に解説されている。

統計学を学ぶ副読本として有用

 本書の意図は,統計的手法の数学的原理を読者に提示することではなく,ある程度の統計的知識を持つ者が本書によって,それぞれの統計的手法の基本概念をきちんと理解し,多くの研究論文で使用されている統計的手法の適切さ,統計手法によって導かれた解釈の適切さなどを批判的に吟味することができるようになることにある。各章の後部には,統計手法の利用にあたり,多くみられがちな誤用例に警告を与えているのも,他書にはみられない斬新さが感じられる。本書で取りあげられている話題は医学に関連したものが多いため,医学部,看護学の学生や研究者に読みやすくなっているが,医学の基礎知識は必要とされていないので,生物学系,農学系,心理学,経済学などで統計学を学ぶ際の副読本として有用であろう。
 内容的な面では,第2章で標準得点を計算すれば,正規分布と直接関連づけられるような印象を与える記述は,読者に誤解を与える意味で正しくないことを指摘しておこう。紙面の都合上,詳述できないが,評者の専門である多変量解析の記述に関しては,いくつかの問題点がみられる。また,各章のタイトルを,手法の名前よりはその手法がめざしていることに絞ったほうが,読者には読みやすいように思われる。例えば,13章の「ホテリングT2と多変量分散分析」は,「多変量データの2群比較と多群比較」と変更したほうがよい。
 訳に関しては口語体で大変読みやすくなっている。4人の訳者のご努力を多としたい。誤訳はほとんどみられないが,ratio variableは「比例変数」でなく,「比変数」と訳すべきである(これについては,評者が出版した統計学の書物で同様の指摘を受けたことがある)。こういった点は本書の価値を損なうものではない。これまで統計学や多変量解析を学んだ人には,学んだ知識を整理する意味でも,この本のご一読を強く薦めたい。
A5・頁252 定価(本体3,900円+税) MEDSi


臨床検査の適正な利用を行なうために

臨床検査データブック 1999-2000 高久史麿 監修

《書 評》横澤光博(前東京共済病院・臨床検査科技師長)

雑駁な知識を確かなものに

 医学書院から『臨床検査データブック』1999-2000年版が刊行された。装丁がよい。書物の紙質,大きさ,重さがよい。適当に掌上に載る。これらのことは座右の書とするのにふさわしい条件を満たしている。本書を手に取って,いろいろな頁をあっちこっち引っ繰り返しながら,周りの項目を読みふけったり,いつも気になる用語を探したりする。この楽しみは知的快楽を充足させる。雑駁な知識を確かなものにしてくれる。
 過日,学生からツツガムシ病のワイルフェリックス反応について質問を受けた。ウムッー……,当院の検査室では未だ誰もやった技師がいない。国家試験では結構出題されているそうな。そこで半信半疑で本書の頁を繰ってみた。アッタ,アッタ,374頁と375頁に。簡にして要を得た解説が。リケッチアと抗ツツガムシリケッチア抗体の2項目があった。まず保険適用される検査であること。基準値,測定法,検体量,検査日数などが枠組みに簡明に記載してある。そして枠外にDecision Level,異常値のでるメカニズムと臨床的意義,判読,採取保存についての説明があり,項目の最後に「山屋駿一,山本健二」と執筆者の名前が書いてある。このことは責任編集の真髄である。私はこの本によって面目を施すことができたのである。他に類書のない,新機軸をうち出している本書に,私は虜になったのである。

“考える検査”マニュアル

 以上は感染症検査についての一例であるが,本書が標榜する「“考える検査”をサポートするデータの読み方,使い方マニュアル」は,実にこの本の特色を具現している。索引も『臨床検査データブック』にふさわしく工夫されていて充実して使いやすい。特に数字・欧文索引は大変便利である。近年著しい進歩を遂げている臨床検査技術は,患者から採取した検体を測定して検討することにより,患者の正確な病態の解明に近づくことができるようになった。しかし,現在は医療経済の立場から検査項目の有効な使い方が問われている。そのことを反映して,“検査各論”はもとより,“臨床検査の考え方と注意事項”,“検査計画の進め方”,“疾患と検査”は実に有用である。
 周知のごとく,臨床検査は日進月歩変貌しつつあり,検査の“必須条件”としての質および効果的な診断と,治療のための検査の適正な利用を行なうには,常に新しい情報が必要である。そのために本書は隔年発行されている。また保険適用などの最新情報も初版以来行なってきている。私は本書を座右の書の1冊として推奨する。
B6・頁612 定価(本体4,600円+税) 医学書院


注腸検査,大腸診断学の手引書

注腸検査法マニュアル 西俣寛人,西俣嘉人 編集

《書 評》多田正大(京都がん協会副所長)

増加する大腸疾患に対応する

 大腸疾患が増加しており,診療を希望する患者が病院で列をなしているが,担当医不足が嘆かれている。特に内視鏡医不足は深刻であり,専門医のいる病院では検査予約が1-2か月先といった状態である。なぜなら大腸内視鏡は手技が難しく,しかも偶発症を起こす危険性が高いため,医師の育成がニーズに追いつかない状況にあるからである。その点,注腸検査の場合は基本的な撮影マニュアルに従うと,比較的画一的な手法で撮影できるし,フイルムを熟練医と一緒に読影すれば誤診,見逃しもカバーできる。なによりもX線被爆を除いて,重篤な偶発症が発生しないことがメリットである。大腸癌検診が軌道に乗り,精密検査件数が増加するにつけて,内視鏡医不足を注腸検査でカバーしようとする傾向は当然のことであろう。法律上のことはともかく,現実には医師に代って腕のよい放射線技師が検査を担当する施設も増えていると聞いている。
 南九州の消化器診断学を常にリードする西俣寛人,嘉人両先生-桜島のような熱いエネルギーとお人柄にはいつも敬服しているのであるが-が編集して,南風病院の放射線科スタッフである伊原孝志技師ら3名による共同執筆『注腸検査法マニュアル』を早速読ませていただいた。まえがきに西俣先生が「注腸検査法の診断能が内視鏡検査に遜色なく,またそのテクニックもそれほど難しいものではないという理解が広まることを期待して……」と記述しているが,まさに本書の出版目的がこの一文に込められており,全体のバックボーンとなっている。
 消化管X線診断学の創造と普及に多大な功績を残した故白壁彦夫先生,その門下生であった故政信太郎先生のご薫陶と指導の下に,西俣先生らの弛まぬ努力の結果確立されたのが今日の鹿児島消化管診断学である。その伝統はX線像と内視鏡像,病理所見を頑なに対比することを出発点としており,本書でもその精神は貫かれており,診断学を志す同士の1人として共鳴するところが大きい。
 表紙に掲載されたX線像はもちろん,本文の画像も抜群である。定価との兼合いもあったのであろうが,見事な写真は大きく掲載してほしかった。前処置や造影剤をどうするか,実際の撮影体位やタイミング,困った時の対応の仕方等々,具体的なテクニックに関する記述は,現場で汗を流している放射線技師だからこそ書ける貴重な体験的記述であり,読者の手技と読影に関する疑問はたちどころに氷解する。最近のX線診断に関する書籍の中では群を抜く内容であり,実に好感が持てる。文章はさらに推敲すべき箇所がいくつかみられるが,見事なX線画像と執筆者の熱い情熱に免じて,改訂版の発行まで目をつぶることにしたい。

X線診断学を見直す起爆剤

 最近,内視鏡関係の書籍の出版は数多いものの,X線分野は寂しい。特に上部消化管検査・診断ではこの傾向は顕著であり,若い医師のX線離れの傾向が危惧されるようになってから久しい。わが国で育成されたX線診断の流れを知る1人として,まことに嘆かわしい状況にある。そのような時流に流されることなく,西俣グループは常に「X線診断も捨てたものではない,むしろ活用すべきよい面も多い」というメッセージを発信している。その熱い思いを込めた書籍であるからこそ,本書が再びX線診断学を見直す起爆剤になるものと信じている。消化管診断学を追究する医師のみならず,放射線技師にも読破してほしい注腸検査,大腸診断学の手引書として推薦したい。
B5・頁224 定価(本体4,700円+税) 医学書院


10分野423の問題と充実した解説からなる実践的問題集

認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題と解説
第2集
 日本内科学会認定内科専門医会 編集

《書 評》大生定義(三井物産診療所長・聖路加国際病院内科)

 認定内科医・認定内科専門医の資格を得るには,一定の施設での研修を終了した後に認定試験に合格しなくてはならない。これらの試験に向けての手引きとも言える問題集には,既に改訂2版を経た第1集があるが,これに続く第2集がこのたび,内科学会認定内科専門医会の編集で出版された。総合問題,消化器,循環器など10分野からの423問の問題とその解説からなっている。患者さんを実際に診ている内科専門医会のメンバーが出題している実践的な問題集であり,かつ多岐選択の解答形式や禁忌肢の導入など実際の認定内科医・認定内科専門医試験に準拠した内容である。

生涯教育のテキストに使える1冊

 試験のためのと銘打ってあるが,生涯教育のテキストとしても使える1冊である。資格を既に得た先生のブラッシュアップや,他分野の先生には認定内科医試験の状況を垣間見るのによいかもしれないとも思う。米国内科学会(ACP)ではMedical Knowledge Self-Assessment Program(MKSAP)という生涯教育のプログラムがあり,数年ごとに改訂され現在はMKSAP11となっている。本書はレベルの上ではこれに並ぶものであると言えよう。現在では,認定内科医は毎年1700人程度誕生し,認定内科専門医は500人程度認定を受けている。内科専門医会会員も総計5000人以上となり,自前でこのような問題集を次々と出版できる状態となり,同慶の至りである。

問題はすべてオリジナル

 本書の問題はすべて内科専門医会のオリジナルで,内科専門医会誌掲載のトレーニング問題から,吟味・精選されたものが含まれていると聞いている。問題のための問題ではなく,日本の事情にあった,かなり実践的なものが多いのも頷ける。
 使い勝手もよい。キーワードインデックスがあり,関連事項をつかむのに役立つ。さらに受験の手引きや,提出すべき研修記録の1つである病歴要約作成の際の記載方法や注意点についても述べられている。
 筆者も専門医会の評議員の1人として,できるだけ多くの先生方が本書を参考にして受験され,認定を受けて,ともに日本の内科医療の向上に尽力いただきたいと強く希望するものである。
B5・頁240 定価(本体5,900円+税) 医学書院