医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


日常臨床の現場に即した最新版臨床検査ガイドライン

臨床検査データブック1999-2000 高久史麿 監修

《書 評》渡辺清明(慶大教授・中央臨床検査部)

 臨床検査の進め方,データの読み方を書いた本は多くあるが,日常診療の現場に即した本はなかなか得がたい。
 本書はこの欠点を埋め,日常診療に大変使いやすいように構成され,内容豊富な検査書の割には小型(B6判)で,いつも手元に置けるハンディな本である。今までにない診療に役立つ臨床検査の本を作成しようとする編者の意図が伝わってくる感じである。
 今回は初版(1997-1998年版)に続く第2版(1999-2000年版)であるが,その基本コンセプトが変わっていないのが嬉しい。

効率のよい検査の選択を主眼に

 今回の改訂版では,特にむだのない効率のよい検査の選択の仕方に主眼がおかれ,適切な検査計画が一見してわかるようになっている。例えば,呼吸器系,循環器系などの疾患別に初期診療時の基本検査(第1次スクリーニング検査)が表中に示され,その結果をみて次に診断へ進む過程が図示されており,専門外の臨床医にとっても最新の適正検査が依頼できるようになっている。これは近年の保険医療制度で検査の包括化が進む中で臨床医にとって非常に重要なことである。検査を標準最小限に留めることは,患者に対してのみならず医療経済的にも大変必要なことだからである。今後の医療に求められる大切なことを,いち早く臨床検査の解説書に取り入れた点はまさに慧眼と言える。
 検査計画の中に,臨床検査のみならず画像診断なども取り入れて総合的に検査を進めるように記載されている点も大変親切である。「各論」では700以上の多くの検査項目が記載されているが,1つひとつが非常に簡潔平明に解説されており,多忙な診療中でも十分使えるようにできているのは驚きである。また,各検査につき異常値のでるメカニズムが書いてあるのがよい。
 最後の「疾患と検査」という項目で,ある疾患,例えば心筋梗塞とか甲状腺機能亢進症とかの必要検査と経過観察に必要な検査が箇条書きされているのは大変に有用である。一目でわかるように記載されており,辞書のように診療中に使えるのが大変ありがたい。
 さらに,細かい点であるが,付録に医薬品の臨床検査に及ぼす影響などの情報が記載されている点も,行き届いた配慮である。
 いずれにせよ,本書は日常診療を支援する本として,病棟のナースステーションや外来診療室の一角に欠かせない最新版臨床検査ガイドラインである。
B6・頁612 定価(本体4,600円+税) 医学書院


現在の外科臨床教育のための座右の書

新臨床外科学 第3版 森岡恭彦 監修

《書 評》嶋田 紘(横市大教授・外科学)

 医師の国家試験が2001年から大幅に見直され,これまでの知識偏重型から患者とのコミュニケーション能力や基本的な臨床能力を重視したものになるという。実地に即した幅の広い医療を提供できる医師を育成するため,臨床研修の必修化とともに将来的には実技試験も行なう予定であると厚生省は発表している。
 この方針を実施するためには基礎系の先生の協力のもとに,学部における臨床教育の早期開始やスタッフの充実とともに,内容のレベルアップを考えなければならない。医学生に対する教科書は多く出版されているが,どれも従来の知識偏重の域を出ない。実習中心の教育を充実させるための適切な教科書がないため,これまでは専門家を養成する専門書によって代用してきたのが現状である。

具体的な問題から原則へと導く

 『新臨床外科学』は,本年第3版が刊行された。今回の版では,執筆者も第一線の現場で活躍されている人を中心に選ばれ,従来の外科総論という形は廃止し,周術期患者管理,救命救急処置,基本手術手技として記載され,さらに一般外科医が日常の臨床で遭遇する他科の疾患や他科との協力下で行なう医療まで言及している。文字通り具体的な問題から原則へと導き出すよう工夫されている。
 それぞれの疾患の項目ではまず「病態理解のキーノート」に始まり「診断へのアプローチ」,そして「治療のストラテジー」が記載されている。病態診断法,治療の選択については図や表を多く取り入れ,できるだけ読者の理解が得られるように工夫されている。また治療成績も最近の結果が記載されているし,問題点のあるところは「カレントトピックス」として別に解説している。
 「肝移植」の項目をみると,なぜ普及するに至ったかを歴史的背景を交えながら病態理解のキーノートに述べ,次に適応,そして手術手技が述べられている。手術手技は全肝移植の他に,部分肝移植や最近行なわれだした補助肝移植にまで言及している。「カレントトピックス」には,現在最も注目されている免疫学的寛容についてmicrochimerismにも言及して興味を引くように要点が述べられている。そして最後にはさらに詳しく知りたい人のために文献が記載されている。

patient-based medicine

 全編を読破したわけではないが,本書は実地に役立つ臨床医の基本的な知識や技能に始まり,それから導き出される理論を追求するよう配慮されている。いわゆるhospital-based medicine,またはpatient-based medicineを本書は考えて企画されたもので,厚生省の「実地に即した医師を育成する」方針とも合致するように思われる。現在のpostgraduate,これからの医学生の臨床教育のための座右の書,さらに日常の知識の整理に役立つものと思われる。
B5・頁900 定価(本体18,000円+税) 医学書院


高齢者のケアに関わるすべての人に

老年精神医学入門 柄澤昭秀 編著/水谷俊雄 著

《書 評》原田憲一(武田病院)

 視野の広い,読みやすい入門書である。
 本書の編著者柄澤博士は長い間,東京都老人総合研究所の精神医学領域で活躍され,その指導的役割を果されてきたわが国有数の老年精神医学者である。

老人のパーソナリティの問題

 編著者の研究業績を反映して,老人痴呆に関する疫学,老人の精神機能の一般的変化,パーソナリティと老年期の問題などについて示唆に富んだ記述が多い。例をあげよう。「加齢でパーソナリティの変化が一般的にみられるという流布している常識は否定されるべきである」と柄澤氏は言う。また「老人になるとストレスに弱くなるか強くなるかは未解決だが,事実として心因性精神障害が増加する傾向はみられない」と述べる。「老人のパーソナリティに関して,男女を問わず男性性特徴あるいは女性性特徴を併せもった人のほうが老年期によく適応する」という指摘など。
 老人が多くの喪失体験を重ね,かつ孤独であるにもかかわらず,「一人暮しの老人の自殺率は高くない」と同氏は言う。老人全体に自殺率の高いことははっきりしている。とすると,外からみた孤立状況と本人の心の中の空しさ淋しさとは簡単に同じではないということだろう。同氏が老人の心理的ストレスとして環境的要因,身体的要因を強調する時,それは悪い人間関係や身体的苦痛を指していると解釈できる。

社会の中の老人問題

 編著者の,社会の中の老人問題に向ける眼は優しい。老人虐待について,暴行や乱暴な取扱いは当然だが,放置や間違った介護も虐待であることを強調し,施設における老人の人権侵害について注意を喚起する。また知的障害者(精神遅滞者)の高齢化問題に,著者は鋭く論及する。老年精神医学の中でも見逃されやすい,しかし今後ますます重要性を増す問題であろう。
 本書の共著者水谷博士による老年期の脳の形態学,神経病理学の章は,それ自体は秀逸である。共著者自身の研究成果や見解が素直に述べられていて,教えられるところが多い。例えば,びまん性レヴィ小体病をアルツハイマー病に次ぐ1つの痴呆疾患とみなすことに水谷氏は否定的である。また100歳台の脳でも原線維変化や老人斑のまったくみられない例が約半数もある,と私たちの誤った常識の蒙を啓いてくれる。
 ただし形態学,神経病理学の章が本書全体の3分の1を占めており,老年精神医学にとって神経病理学が重要な基礎であることに異存はないが,入門書にしてはやや詳しすぎた感じがする。それよりも臨床的な記述のほうでいえば,記憶障害に関してより詳しい説明がほしい。短期・長期記憶,エピソード記憶と意味記憶,さらに手続き記憶などの説明は必要であろう。
 ともあれ今日のわが国で緊急の課題である高齢者のケアに関わる人たち(全科の医師,ナース,ケースワーカー,介護者,また家族)が入門としてやさしく読める新著である。老人ケアの施設のスタッフ勤務室に1冊常備しておくことも勧めたい。
A5・頁256 定価(本体3,500円+税) 医学書院


第一線医療に携わる臨床医のためのテキスト

〈総合診療ブックス〉
けが・うちみ・ねんざのfirst aid
 大場義幸,他 編集

《書 評》国分正一(東北大教授・整形外科学)

 私の知るところ英国では,軽いけが,うちみ,ねんざを,腰いたや首いた,肩凝りとともにgeneral practitioner(GP)が診ている。日本では,医学部を卒業し勧誘されて入局すれば,その科が専門科になる。さらに何かの診療グループに属すれば,その領域がその医師のsubspecialtyということになる。今のところ,GPシステムの根づく土壌はない。ともあれ,何科であろうと,診療所の医師はもちろんのこと,病院の医師でも日当直が当たれば,けが,うちみ,ねんざのたぐいを避けて通れない。

第一線感覚に貫かれた内容

 先日,本書の筆頭編者から,「first aidの本を出版する。研修時代からのよしみで書評をお願いしたい」と頼まれた。彼は自治医科大学の3期生である。整形外科を志したものの,建学の精神に則って,整形外科の総合医たらんと第一線で鍛え,仲間を募り研究を積み重ねてきた。
 私の期待は裏切られなかった。彼等の臨床の思想,体験,成果が本書に顕れている。まず,対象の範囲が広い。手足にとどまらず頭部,顔面,体幹も含め,けがどころか爆創や銃創といった命に関わる大けがにも触れている。「医師の評価を下げないための診療報酬請求の知識」に及んでは,first aidを優に越え,第一線感覚の面目躍如たるものがある。
 しかも,記述法が新しい。「概念」,「症候」,「診断」……の紋切り型でない。コンピュータ時代のスタイルと言ってよい。各項目の初めに「まとめ」があり,次に「診断」,「治療」,「専門医へのコンサルトと移送」のポイントがチェックリストとして列挙されていて有用である。提示された「症例」は卑近かつ具体的である。本文の「解説」に所々挿入されたNoteが必要な知識を詳しく補い,その他に「generalistへのアドバイス」,「Q&A」など,まったく無駄がないし,不足もない。本書を傍らに置けば,理解し,納得し,自信をもって第一線医療に臨めること間違いがない。
A5・頁198 定価(本体3,700円+税) 医学書院


注腸X線検査を始める技師,医師に最適

注腸検査法マニュアル 西俣寛人,西俣嘉人 編集

《書 評》松川正明(昭和大豊洲病院教授・消化器科学)

現場に役立つテキスト

 大腸検査にはX線検査と内視鏡検査があるが,老健法では大腸癌検診の精密検査として第1に内視鏡検査をあげ,X線検査は内視鏡検査を補完するものと位置づけている。また,今後大腸癌の罹患率の増加により,大腸癌検診が普及するとともに大腸検査が増加することが予想され,内視鏡検査だけで処理することができなくなり,X線検査を積極的に導入する必要が生ずると考えられる。内視鏡検査優先の位置づけの当否はともかく,X線検査の精度を内視鏡検査に匹敵するようにしなくてはならないことは言うまでもない。しかし,現在大腸X線検査について,検査の現場で役に立つテキストがほとんどないのが実状である。このような時に待望の書が出版された。

医師とX線技師との協調

 本書からは,鹿児島大学第2内科の消化管X線診断グループを主宰された故政信太郎先生のX線検査に対する情熱と伝統が浮かんでくる。本書は同門である西俣寛人・西俣嘉人先生による編集,伊原孝志・江平俊雄・土器屋貴技師による執筆である。X線検査において,医師とX線技師が素晴らしい協調の上でよりよい検査を行なおうとする努力が本書から迸るのが感じられる。また,本書の中で指摘されているように,技師はX線所見をチェックし,診断は医師が行なうのが原則である。しかし,X線所見を的確に捉えることは,技師ばかりでなく,若い医師にとっても重要であり,撮影技術を飛躍的に向上させることになる。
 現在,若い医師はX線装置・造影剤・フィルムなどについての知識が乏しいため,よいX線検査を行なうにも,どこから手をつけてよいかわからないのが現状である。本書はこれらの点についてもわかりやすく述べられており,よいX線検査を行なうためのエッセンスが凝集されている。
 大腸の二重造影像を撮影するための体位変換・撮影体位について,多数のX線像・シェーマを用いてこれほど詳細に解説を行なっているものは本書以外にない。
 注腸X線検査を始めようとする技師,医師にとって,ぜひ検査の傍らに本書を置いて参考にすることを勧めたい。
B5・頁224 定価(本体4,700円+税) 医学書院


的確な病歴聴取と身体診察のしかたを説く

ミシガン診察診断マニュアル
高久史麿,他 監訳

《書 評》津田 司(川崎医大教授・総合診療医学)

欧米にあって日本にないもの

 わが国では従来から臨床実習はポリクリと呼ばれてきたが,その後bed-side teaching(BST)に変わり,そしてbed-side learning(BSL)へと考え方が発展してきた。しかし,これらのいずれをとっても実習とは名ばかりで,見学に終始しているのが実情であろう。
 これに比べて欧米先進諸国では,さらに一歩進んでクリニカルクラークシップを行なっている。これは学生を医療チームの中に組み込んで見習い(クラーク)として使い,医師としての知識・技能・態度を実体験を通して効果的に学ばせようとする仕組みである。そこでは指導医の監督下で実際の診療を行なわなければならないので,コミュニケーション技能や病歴のとり方,あるいは身体診察のみならず,注射などの簡単な処置や検査手技までもが要求される。したがって,このような基本的臨床技能はクリニカルクラークシップに入る前の段階で修得しておく必要があり,欧米では医学部入学と同時にこれらの教育を開始している。わが国では最近になってやっと,このことが理解され始め,医療面接や身体診察の卒前教育に取り組む大学が増えてきた。
 また一方では,経済の低成長時代を反映して,医療費の支払いは出来高払い制から定額払い制へ移行することは間違いないと予想される。その場合,的確な病歴聴取と身体診察ができ,それらを適切に解釈できることが臨床医にとって非常に重要な技能となる。

いかにコスト・エフェクティブな医療を行なうか

 このような状況を考えると,本書は医学生のみならず,研修医やある程度経験を積んだ医師にもぜひ薦めたい1冊である。なぜなら,本書では的確な病歴聴取と身体診察のしかたが説かれており,それらを基にして論理的に臨床判断を下すことによって,いかにコスト・エフェクティブな医療をするかが述べられているからである。特に,身体診察所見から論理的に推論し,臨床判断を下し,さらにどのような臨床検査によって確定診断を下すか(clinical reasoning)が具体的に示されている点は,本書の特色である。この点において,本書は今後大いに活用すべき本であると言えよう。翻訳文も日本語らしい日本語で仕上げられている。
A5変・頁456 定価(本体6,000円+税) MEDSi


日本の医学教育を考えるための1冊

よき医師養成を考える 橋本信也 編集/日本医師会 企画監修

《書 評》荒川正昭(新潟大学長)

よい医師とは何か

 橋本信也先生は,東京慈恵会医科大学第3内科教授をつとめられ,臨床免疫学(膠原病学)の泰斗として広く活躍されています。同時に,医学教育にも並々ならぬ情熱を持たれ,わが国の医学教育について積極的かつ建設的な提言をされておられます。日頃,先生は,「よい医師」とは,「優れた臨床能力と患者に共感する心を兼ね備えた医師」であるとのお考えから,医学教育の目標は良医を育てることであると説いておられます。また,ご自身でも,率先して臨床医学教育に当たり,有言実行の医学教育者であられます。

大学における総合診療科の必要性

 このたび,日本医師会企画による座談会,先生ご自身の医学教育に係わるエッセイなどをまとめて,『よき医師養成を考える』を篠原出版から出版されました。前半は,医学教育学会のリーダーの方々との対談でありますが,いずれの方もわが国の医学教育の発展に多大な貢献をされておられます。したがって,対談の内容も,現時点の評価と将来への展望について,余すところなく語られています。後半のエッセイでも,先生の医学教育への熱い思いがひしひしと伝わってきます。医師を志望する高校生の進路指導に始まって,医師の適性,入試,基礎・社会・臨床医学の教育,国家試験,卒後臨床研修,臨床研究(学位)に至るまで,わが国の医学教育が抱えるほとんどすべての問題について,熱っぽく語っておられます。
 先生が理想とする臨床医は,恩師阿部正和先生がおっしゃっている「臨床医学は学と術と道より成る」の如く,知識,技術,態度の三者が十分備わった,患者さんを1人の人間として理解できる医師であり,私もまったく同じ考えを持っております。私は,高度専門医療を担う,特定機能病院である大学病院における総合診療科(総合内科)の必要性について,京大の福井教授との対談に特に注目しています。全国の国立大学に設置されつつある現状を喜ぶとともに,健全な発展を心から願っています。
 医学教育に携わる方々はもちろん,若い研修医の皆さんにもぜひ一読してほしい1冊であります。
A5・頁278 定価(本体2,800円+税) 篠原出版