医学界新聞

 

近代医学との調和をめざして

第50回日本東洋医学会開催される


 さる5月28-30日に,東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて,第50回日本東洋医学会(会頭=漢方研松田医院長 松田邦夫氏)が開催された。前日から行なわれていた第10回国際東洋医学会(会頭=松田氏)との同時開催となった今学会は,50回という大きな節目を迎え,「21世紀の新しい医療-伝統医学と近代医学の調和をめざして」というテーマが掲げられた。
 第10回国際東洋医学会では,強風のため韓国からの参加者が遅れるというハプニングもあったが,2つのシンポジウム「高齢者のQOLを高めるために」「鍼灸の現状と将来」をはじめ,招待講演や特別講演などが順次行なわれた。
 また第50回日本東洋医学会では,会頭講演,招待講演,特別講演の他に,4題のシンポジウムなど,多岐にわたる発表や討論が繰り広げられたが,開会式直後の第12回伝統医学臨床セミナー「私の好きな処方」には,多く参加者がつめかけ耳を傾けた。


 第50回日本東洋医学会の会頭講演『医のこころ』で,松田会頭は,江戸時代随一と言われた名医,和田東郭の医療に対する心構えに触れ,「東郭は『重病と思えば自分の腕に限界があることをありのまま家族に説明……』と一種のインフォームド・コンセントも実施しており,彼の“誠を尽くす医学”には学ぶ点が多い」と口演。保険適用除外など,多くの問題を抱える現在の東洋医学が発展していくための,本学会の基本的な姿勢ともいえる考えを示した。

保険制度の動向が報告される

 また招待講演では,尾嵜新平氏(厚生省)が「保険医療改革について」と題して口演。一昨年の健康保険制度改正以来問題となっている,1)医療提供体制の見直し,2)高齢者医療制度の見直し,3)薬価基準制度の見直し,4)診療報酬体系の見直しの4点に関し,特に診療報酬などの東洋医学と関わりの深い点に重点を置いて,厚生省の関係審議会の検討状況が報告された。
 1)に関しては,病床の急性・慢性の区分,情報開示の方法,卒後臨床研修必修化などを,2)では,老人保険制度の抜本的な改革などを主な検討事項としてあげ,それぞれの進行状況をわかりやすく解説。3)では薬価差益の解消へ向けて「今国会中に案を示す」としたものの,日本医師会や海外からの圧力もある上,「新薬開発の妨げになるのも避けたい」と述べ,当初検討していた参照価格制度を白紙に戻した経緯を説明。新案提示の難しさを強調した。
 さらに,4)については,「診療報酬の適正化に向けて,(1)医療情報の基盤整備,(2)技術重視の体系化(モノと技術の分離),(3)支払い方式の確立,(4)医療機関の機能分担と連携強化,(5)投資的経費の評価,(6)老人医療と介護保険,などを整理している」とし,見直しへ向けた調整の遅れを認めた上で,行政の適切かつ慎重な姿勢を強調した。

高齢化社会における漢方の役割

 シンポジウム「長寿と漢方」(座長=愛知県健康科学総合センター 井形昭弘氏)では,4人の演者が,高齢者医療に対する漢方薬の効果を発表した。
 最初に口演を行なった板倉弘重氏(東大先端科学技術研究センター)は,日本人が高コレステロール血症者になりつつあることから,脂質代謝に焦点を当て,「大柴胡湯や八味地黄丸などは,血清脂質レベルや血清過酸化脂質レベルによい影響を与える」とし,動脈硬化症や高脂血症への効果を示唆。フェノール酸やフラボノイドといった植物性食品の微量成分にも,長寿に関わる成分が多いこともつけ加えた。
 続く代田文彦氏(東女医大東洋医学研)は,自ら体験した急性虚証の症状から,「外邪の侵入を拒み,正気を養うことが病から身を守る」と発言。「人体が虚していると病になる。老化は正気が虚していくことだ」とし,未病への対処が老化防止と病気予防につながると語った。
 一方,高齢者医療に対する漢方の大きな役割を指摘した折茂肇氏(都老人医療センター)は,まず「21世紀の高齢者医療は,QOL,全人的包括医療,Evidence-based Medicine,予防医学,の4点を重視すべき」と指摘。その役割として(1)個体差に対応できる,(2)免疫賦活作用がある,(3)1つの薬剤で複数の薬効を有し,副作用も少ない,(4)診断がつかない場合でも対応できる(随証療法),を提示。QOLを第1に考えた全人的包括医療が主流になる高齢者医療においては,補剤などを中心とした漢方の特徴を理解し,西洋医学と補完し合うべき」とし,経済的な効果も認めた。
 また,最後に登壇した大澤仲昭氏(阪医大)も,「随証療法」の有用性を指摘。「東洋医学と西洋医学の接点は患者にある」とし,全人的医療をめざした両者の融合の可能性を示唆した。
 総合討論では,東西医学の利用スタンスが話題にのぼり,「患者の意見を尊重」(板倉氏),「まず東洋医学で」(代田氏),「診断は西洋医学で」(折茂氏),「最初に西洋,そして東洋」(大澤氏)と意見もさまざま。その他,診療計画の立て方やその評価,予防に対する行政の姿勢など,フロアの参加者も含めて活発な討論が行なわれた。