医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


きびしい質問に切れ味鋭い回答がならぶ

痴呆症のすべてに答える
H.ケイトン,他 著/朝田隆 監訳/(社)呆け老人をかかえる家族の会 協力

《書 評》中島紀恵子(北海道医療大学教授・看護福祉学部)

新しい介護の実用書

 本書は訳本であるが,いうところの翻訳書とはいえないユニークな構造を持った本である。ともかく,どこまでが原文なのか,どこがイギリスでどこからが日本のことなのかがわからないほどに,原文と訳文は渾然一体化しているのである。そのことでかえって原著者モードが鮮明になっているのだから不思議である。
 この種のQ&Aを書きたいと思ってきた関係者が日本にだっていなかったわけではないが,「なにかと憚られる」とか,「誤解を生む」とかの自縛的配慮があって,スカッとしない実用書になってしまうといったパターンが一般的であった。
 この本にはそれがない。原著者がイギリス人だからということではないことは,監訳者のまえがきからわかる。「いままでのアルツハイマー病の介護本とはかなり違うわよ」と原著者のノリー・グラハム氏に朝田氏が言われたように,この本はイギリスにおいても新しい介護の実用書なのだ。
 この本を手渡された朝田氏は「きびしい質問内容,同情や共感にあふれた切れ味の鋭い回答ぶりに,たちまち引き込まれ」,徹頭徹尾現実的で,それゆえの切れ味を保てる新しい訳本をつくりたいと思った。その熱意がすみずみまでしみ込んでいて,どの頁を読んでも,鋭くそして優しい。

核心をまっすぐ伝える

 第1・2・3章と第12・13章は,この疾病の特徴,診断確定,治療等に関するQ&Aである。評者の10年近い電話相談の経験からいっても,この種の質問は最も多く,「この病気は治りますか」の問いがいろいろな角度から発せられる。この問いの中には,「何が原因でどうしたら治すことができるかを聞きたい」という意味が込められているのだが,相談者は「告知」をされる者の落胆ぶりや介護を放棄する事態をおもんばかり,むしろ少数例を示してあいまいな回答になってしまいやすい。しかし本書の問答では,中心軸がぶれることなく,常識的なことをキッパリと伝えられる。
 相談者は「治らない」「ここまではわかっている」「はっきりしていない」「そういうことはない」「こうすべきだ」といったことがまっすぐに伝わり,解決のための行動を喚起されやすい。これは全章を貫ぬいているこの本の特徴である。第4章から第9章は,いわゆる介護・看護に関する内容が中心になる。「ひとり暮らしの人の安全管理」と「介護者の心的葛藤」に比較的多くの頁があてられており,介護者の休息が援助の重要なテーマであることが強調されている。
 第9章と第10章は諸サービスの情報に関するもので,近々成立するはずの成人後見制度の手続き情報を通して人権擁護のかたちが理解されるようになっている。
 本書の構成のもう1つの特徴は,専門家と「呆け老人をかかえる家族の会」会員による21のコラムと多数のコメントが随所に適宜配置され,わが国の介護と医学・医療の取り組みの実際が浮き彫りにされていることである。
 職能を問わずより大勢の人に本書を手にしていただきたいが,特に医師と行政の方々にはぜひ読んでいただきたいと思う。
A5・頁252 定価(本体2,500円+税) 医学書院


次代を担う看護管理者のために

婦長・主任のホントの仕事 ケースでみなおす組織と役割
多田徹佑,他 著

《書 評》難波末女(かとう内科並木通り病院看護部顧問・元国立呉病院看護部長)

看護管理は人間関係から

 私は,中国地区の国立病院で,婦長,総婦長,看護部長と歴任し,長い間看護部門の管理業務に携わってきました。この経験で学んだのは,看護管理というものは,いかに相手を認識して問題を調整し,ゴールまで到達できるようにするか,すなわち看護管理は人間関係から始まるということです。こうした点を,著者の多田先生は,看護の職場ならどこにでもありそうなケースを取りあげ,その解説をすることによって,読者に教えてくれます。
 私が多田先生に出会ったのは,国立三朝温泉病院の総婦長をしていた時ですから,もう17-18年も前のことになります。婦長やリーダーのためにTA(交流分析)を教えていただくためにお招きしたのが始まりです。
 当時から私は,「臨床経験を10年も積めば,看護婦としてやるべきことは一通り経験する。その段階での仕事振りの違いは,その人の人生観や生き方を含めた人柄の差からくるもので,その人柄をどう育てるかが一番の問題である」と考えていました。つまり,豊かなリーダシップを発揮して部下たちによい影響を与え,他部門との円滑な調整ができるだけのヒューマンスキルを身につけることが重要だと思っていたのです。著者もやはりこの点を踏まえて,本書を執筆されているようです。

看護婦が変革の先頭に立つ時代

 この本の中で,私が共鳴した点はもう1つあります。それは,医療改革に関することです。著者が本書の随所で指摘していることですが,今でも病院では,医師を中心とした従来の管理体制が支配的で,その旧い体制や権限の変革がなければ,“患者中心の医療”や,看護婦がやりがいを感じる職場は到底実現するのは不可能でありましょう。
 いよいよ医療界も,リストラクチャリング(再構築)の時期に来ています。こうした変革の先頭に立つのが,『婦長・主任のホントの仕事』ということになるかもしれません。本書は,そのような次代を担う中間管理職の研修会や勉強会のテキストとして使用すれば,大変役立つことと確信します。
A5・頁208 定価(本体2,500円+税) 医学書院