医学界新聞

 

 ミシガン発最新看護便「いまアメリカで」

 「ナースクリニック」の内容
 [第10回]

 余 善愛 (Associate Professor, Univ. of Michigan School of Nursing)


 前回(4月26日付,2336号),ナースクリニックについてお話ししたところ多くの読者から,「どういうことが看護婦にできるのか。どのように運営しているのかを知りたい」という問合せをいただきました。
 日本では,明年4月からの介護保険の実施にともなって,特に高齢者に対して適切な看護を確保していくのに,地域または国のレベルで新しいモデルを模索していると聞きます。アメリカでの事情が,どの程度日本の現状に役立つかはさておき,再度ナースプラクティショナーとナースクリニックについてお伝えしたいと思います。

ナースプラクティショナーの機能と役割

 アメリカでナースプラクティショナー(以下NP)という場合,この人は看護婦(Registered Nurse;RN)で,その専門分野での修士レベルの教育と臨床経験を有している人をさします。さらにほとんどの場合,各々の専門分野の機関によって公認されています。そして,それぞれのNPが働く州の設置する看護法に基づいて「看護行為」をします。NPは全米50州どこでもその実施を認められており,質の高いケアが比較的割安で患者に与えられ,患者の満足度も高いという研究結果が過去20年以上にわたって報告されています。
 各々専門分野ごとに認可されたNPは,全体としては胎児から寝たきり老人まで,すべての年代の人々を男女の区別なく対象として,その「看護行為」の実行にあたります。現在認定されているのは,(1)急性看護(Acute Care),(2)成人看護(Adult Care),(3)救急看護(Emergency Care),(4)家族看護(Family Care),(5)老人保健(Gerontologic/Elder Health),(6)新生児および周産期看護(Neonatal/Perinatal Care),(7)職業/産業保健(Occupational Health),(8)小児保健(Pediatric/Child Health),(9)精神保健(Psychiatric/Mental Health),(10)学校保健(School/College Health),(11)女性保健(Women's Health)の11分野。
 例えば,女性保健の分野でNPになったRNは,10代から更年期,さらに閉経後までの女性を対象として看護するのに対して,家族看護分野のNPは赤ちゃんから老人まで,男女ともにみます。
 これらの専門分野のNPが,看護婦によって維持されているナースクリニック(全米に200から250あると言われている)や従来の診療所,保健所,訪問看護ステーション,病院で,どのようなことを実践しているのかを大まかに箇条書きします。
●既往を取りphysical examinationを実施する
●感染やけが等の急性疾患の診断,治療
●糖尿病や高血圧等の慢性疾患の診断,治療,ならびに管理
●必要な診断のためのテストや臨床検査,ならびに放射線検査の指示,実行,そして検査結果の適切な解釈
●薬ならびに治療の処方
●妊婦検診,家族計画に関する処方/診断
●スクリーニングおよび予防接種を含む乳幼児検診
●成人の定期検診
●健康教育ならびにカウンセリング
●医師や他の医療保健従事者との必要に応じての連携  

ミシガン大「家族保健センター」の内容

 さて,ミシガン大学のナースクリニックはどう運営され,どのようなことを実施しているのかを次に述べます。
 前回紹介しました,ミシガン大学の看護学部が大学病院と共同して出資運営しているナースクリニックは,NPが2人,家庭医が1人,臨床検査技師が1人,そして受けつけおよび事務員で構成されています。
 NPのグレゴリーさんとケレンバーグさんは,ともに看護学部の助手も兼任されています。2人とも公認専門家族看護婦で,上記の「看護行為」を全般にわたって実施しています。これらのNPに加えて,アイラーさんという家族医学を専門にしている女医さんが――この方もやはりミシガン大学の医学部の職員を兼任していますが――医療顧問として関わっています。2年半前にこの診療所ができた時は,約1500名を地域の潜在的な利用者として計算しました。そして,予定では5年後(2001年)までに利用者を2500人まで増やし,経済的に自立できることを目的としました。
 しかしながら現在の利用者は年間1200名程度で,思ったようにことは運んでいません。過去20年間の全国の統計資料によると,約半分のナースクリニックは採算がとれずにつぶれていくとのこと。安価なサービスを提供するのに,なぜつぶれていくのかというと,やはり政治的にまだまだアメリカでも看護の1人立ちを喜ばない人々がたくさんいるからだそうです。市場原理に揺れるアメリカ医療を物語る,もう1つの側面と言えるでしょう。
 ここで取り扱っている健康問題の主なものは,喘息,風邪,上気道感染,中耳炎,頭痛,高血圧,精神問題,肥満,中毒,胃痛,潰瘍,膣炎等の軽い婦人科疾患等です。
 さらに,ここで実施しているスクリーニングは,癌,うつ病,糖尿病,心疾患,高血圧,高コレステロール,HIV,妊娠,性病,薬物中毒等です。
 健康教育として実際にどのようなことをしているかですが,幼児の安全教育,母親学級,カウンセリング/サポートグループ,歯科検診,エクササイズ,栄養指導,禁煙指導,ストレス管理,思春期保健指導,そして家庭内暴力予防等のクラスや指導を随時行なっているのです。
 日本の古い感覚でいうと(ひょっとしたら未だにそうかもしれませんが),町の診療所に保健所の機能を足したものと考えてもらえばよいのだと思います。また,ナースクリニックといっても,場所により,州によってもさまざまです。
 前回を含めて2回に分けて説明したミシガン大学看護学部のクリニックは,これらの中の単なる一例であることを,ここで再度強調しておきます。