医学界新聞

 

糖尿病療養指導士制度誕生へ


 第42回日本糖尿病学会が,さる5月13-15日の3日間,松岡健平会長(都済生会糖尿病臨床研究センター)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された(本紙23412342号にて既報)。同学会では,「糖尿病の分類と診断基準」が示された特別講演や,実地医家に必要な糖尿病の「治療ガイドライン」,急増する糖尿病の合併症であり,人工透析を余儀なくされ医療費高騰の一因ともなっている糖尿病性腎症の「最新治療ガイドライン」の検討が行なわれたパネルディスカッションが注目を集めた。
 一方,看護関連企画としては,公募ワークショップ「地域や職場における患者管理システムの新しい試み」や,日本糖尿病学会・日本糖尿病協会の合同パネルディスカッション「医師および療養指導スタッフの研修」が行なわれた。前者では糖尿病の1次,2次および3次予防に有効とされる新しい患者管理システムが論じ合われ,後者では糖尿病療養指導士の養成をめぐる問題が議論された。

糖尿病療養指導士認定制度

 1997年に実施した厚生省の糖尿病実態調査によると,糖尿病患者は690万人,予備軍を含めると1370万人と推計されている。同調査では,「これらの糖尿病患者のうち55%が医療機関を受診していない」と指摘しており,今後も患者の増加,合併症の進展が予想されている。
 この急増する糖尿病患者への対応として,日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は1995年から合同で「糖尿病療養指導スタッフの質・量,両面での育成」をめざす,日本糖尿病療養指導士制度の検討を開始。その検討が終了したとして本学会で「日本糖尿病療養指導士認定機構」の設立を表明するに至った。
 なお,このような背景の中で行なわれた合同パネルディスカッション「医師および療養指導スタッフの研修」(座長=日本糖尿病協会理事長 後藤由夫氏,日本栄養士全国病院栄養士協議会長 立川倶子氏)は,「糖尿病の治療はあらゆる角度からのアプローチが必要であり,治療にかかわる職種も多様。医師・医療スタッフすべての知識は向上しているが,糖尿病人口の増加を減少させることができないのが実情。今後は,糖尿病療養指導士のマンパワーによって糖尿病と合併症の増加が阻止されることへの期待は大きい」として,糖尿病療養指導士制度を前提に,糖尿病診療における医療職者のあり方,今後の糖尿病診療のあるべき姿を探ることを目的としたもので,6名が登壇し意見を述べた。

専門性を加味した看護職の必要性

 北村信一氏(東京都済生会向島病院内科・日本糖尿病指導士合同検討委員会委員長)は,6年にわたり検討を進めた結果として,学会と協会の協定による第三者認定機構としてスタートを切る「日本糖尿病療養指導士認定制度」の概要を報告。認定試験の受験資格者に(1)医療に関する国家資格所有,(2)認定教育医療施設に2年の勤務,療養指導従事1000時間,(3)受験時に学会または協会員であるとし,認定は5年ごとの更新制であることを明らかにした。
 次いで野口美和子氏(千葉大)は,看護の立場から発言。糖尿病教育に関して,「日進月歩の糖尿病の治療に合わせた,患者を理解するための薬理作用の知識や食事療法,合併症の知識などは看護婦にも必要」と指摘し,「長期経過を余儀なくされる糖尿病患者,および患者に付添う家族の生活負担を支える方策を追究することが看護の役目」と示唆した。また,野口氏は糖尿病療養指導士の必要性を強調した上で,「糖尿病領域における専門知識を持った看護職育成を考えている」と述べ,他の看護職のモデルとなり,糖尿病医療チームに専門的に貢献できる看護職としての「糖尿病教育指導認定看護師」の必要性を訴えた。
 また,中谷瑾子氏(慶大名誉教授・弁護士)は患者の立場から意見。臓器移植やインフォームドコンセントの問題に触れるとともに,糖尿病の遺伝子治療の可能性にも言及し,「医療者やそれを支える看護職には,十分すぎる説明とともに,十分なケアが望まれている」と指摘した。
 後藤氏は最後に,「患者が増加する中,内科医だけでなく他領域医も糖尿病を診るようになった。医学教育を含めて,チーム医療は今後ますます重要」とまとめた。