医学界新聞

 

〔新連載〕あなたの患者になりたい  

患者の視点で語る医療コミュニケーション

佐伯晴子


 はじめまして。私はSP(Simulated /Standardized Patient)つまり模擬患者の養成と利用に関する活動を行なっている者です。具体的には,医療の専門家が患者さんと相互理解をはかるためにはコミュニケーションをどうとればよいか,というテーマで医学部などの医療面接の実習に協力しています。
 また,最近話題のOSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力評価試験)の医療面接部門での協力は,年間10校を超えるまでになりました。医療面接に対する関心は最近特に高まりつつあるようです。
 「問診」ではなく,「医療面接」と名称が変えられている背景にも,平成7年版の厚生白書に「医療は,人が生まれるときから死ぬときまで,国民1人ひとりに密接に関連するサービスとなっております」と書かれる社会の変化があるようです。
 さて,医療面接の目的として,診断や治療のための正確な情報収集と,医師(医療者)―患者関係の構築が大きな2本柱としてあげられています。そこで,患者の側から面接を受けていて,実際にどう感じているのか,少しお話しすることで,医師―患者関係の構築という面で参考にしていただければと考えています。
 ところで,医療者にとっては,面接でいかに情報を引き出すか,聞き出すか,心を開かせるか,と主語は当然,医療者になります。一方,今日という日にこの病院を選び,ようやく順番が回ってきた患者さんにとっては,面接では何が重要になるのでしょうか。自分にとって最適な治療をしてもらいたいと,誰もが希望しています。「最適」の具体的な中身には,確かな医療技術と同時に,自分を支えてくれるという信頼が含まれているのです。信頼という目に見えないものは評価が困難ですが,初診の面接で患者さんが「次回もこの医師にかかりたい」と思うかどうかが,最初の信頼の目安になると思われます。そして,その最初の信頼の鍵を握っているのが,基本的態度と,コミュニケーション能力であることが,実習やOSCEでの模擬患者からの感想や評価からわかってきました。
 言葉づかい自体は丁寧で,患者さんを1人の人間として尊重し,落ちついた態度で,患者さんの目を見ながら,話に耳を傾けることのできる医療者であるにもかかわらず,患者さんにとってみれば,あまりコミュニケーションがうまくいったような気がしないことがあります。
 次回からは,実際に模擬患者との実習で出てきた問題をとりあげていきます。

〈さえき はるこ〉
大阪外語大ロシア語科卒。(株)インターグループで通訳派遣,研修,国際会議事務局を担当する。88年よりイタリアに渡り,ミラノの国立癌センターにあるヨーロッパ緩和ケア協会事務局でボランティアを行なう。93年帰国。95年より東京SP研究会の事務局を担当。武南学園武南高校英語科非常勤講師。