医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


第一線の臨床・基礎研究者による新しいタイプの呼吸器学書

呼吸器疾患の分子生物学 川上義和,谷口直之,木田厚瑞 編集

《書 評》菅 守隆(熊本大教授・内科学)

 このたび,医学書院より『呼吸器疾患の分子生物学』(川上義和,谷口直之,木田厚瑞 編集)が刊行された。

今日の分子呼吸器病学の最先端をすべて網羅

 呼吸器疾患の原因,病態,診断,そして治療論は,かつては臓器単位,細胞単位で論じられていたが,現在では遺伝子を含む分子レベルでの解明が進み,その発展はめざましいものがある。しかしながら,基礎研究と臨床の現場の間に存在するギャップはきわめて大きく,最先端の研究を日々の臨床の場でも役立つようにといった視点で書かれた書籍は皆無であった。最先端の基礎的な知見にふれた文献は内容が高度に専門的で,専門外の研究者あるいは臨床家にとってその内容を理解するのは困難である。一方,臨床の教科書は10年以上も前の知見を元に書かれているものがほとんどで,若い医師にとって研究への情熱を奮い立たせるものは少ない。本書は専門化,かつ細分化しつつ発展を遂げている今日の分子呼吸器病学の最先端をすべて網羅するように,呼吸器臨床,基礎研究の第一線で活躍している研究者を中心に執筆された,全く新しいタイプの呼吸器学書である。
 本書は4つの章により構成されている。
 第1章「呼吸器疾患と分子生物学の接点」は呼吸器の各疾患ごとに,病因病態,診断,そして治療において今日の研究の焦点となっている事項について,第一線の研究者によって概説されている。また若い医師にとって役立つように今後の研究の方向性や未解決の課題についても触れてある。章末の参考文献はごく最新のものまで紹介されている。
 第2章「呼吸器疾患における分子生物学の基礎とその臨床応用」は呼吸器病学を分子レベルで理解するために必要な,生化学的,分子生物学的な知識について,最先端の研究者により概説されている。類書と異なりたえず病態との関連性を重視して書かれており,臨床家,あるいは専門外の研究者にもわかりやすく書かれている。
 第3章「分子生物学の基本手技」は現在の分子生物学の研究に用いられているさまざまな実験方法の理論と具体的な手技について解説された実験解説書である。大学院生あるいは若手研究者にとってきわめて有用であり,また医学論文のmaterials and methodsを読む際にも有用である。
 第4章「インターネットを利用した新しい情報の入手方法」は,今日飛躍的に浸透しつつあるインターネットについて具体的に概説されており,文献検索やその他の情報の入手に有用なサイトも記載されており有用である。

日々の臨床のおもしろさを認識させてくれる本

 本書は最先端に触れるため,十分なコンセンサスが得られていない内容も一部見受けられるが,これもまた今後の研究の進展が楽しみであり,邦文でこのような書籍が出版されることは大いに喜ばしいことである。研究者は,最先端の研究に携わるほど,自分の専門外の分野については疎くなりがちであるが,本書を読むことで他の研究分野との接点に気づき,新たな研究の方向性,アイデアがひらめくかもしれない。本書は従来の呼吸器学書にないユニークな特徴を備えており,臨床医,そして若手の研究者にとっても,呼吸器病学の臨床,基礎研究と日々の診療のおもしろさを認識させてくれる本である。
B5・頁468 定価(本体16,000円+税) 医学書院


細胞診断学入門と育成を意図した必携の書

細胞診を学ぶ人のために 第3版 矢谷隆一 監修

《書 評》植木 實(阪医大教授・産婦人科学)

細胞を学び熟達するための教科書

 本書の特筆すべき点は,見事に病理学と細胞診断学をマッチさせていることにあります。これは細胞を学び,熟達するための教科書として編者が初版から一貫した信念で十分な病理学を取り入れ,第2版,第3版と臨床および細胞診断学領域を充実され,その目的を達成されたことがうかがえます。
 したがって細胞診断に関する背景としての病理学的事項は,ほぼ完全に網羅されており,癌の臨床進行期や組織分類も各臓器の癌取扱い規約に準じており,加えて用語の丁寧な説明や多くのスケッチは本書を読みやすくしています。
 今回および今までに携わった執筆者をみると,8名の病理医は学会の指導的立場あるいは一流の方々で,しかも細胞診断学に造詣が深い方々です。また8名の細胞検査士も日本臨床細胞学会で活動され,多くが癌研究会附属病院に所属して,第一線で活躍されている人たちであります。これらの筆者陣が編者の意向のもとで内容が重ならないよう調和されて,病理部門と細胞診断部門の得意分野を担当されています。

新しい動向も過不足なく

 さて,今度の第3版では「細胞像と組織像の対比」を第8章として追加しています。また編者が強調しているように,臨床各論を見直し,新しい動向を過不足なく取り入れ,またごく最近大きく改訂された「子宮頸癌及び体癌取扱い規約」も完全に収録されていることから,充実感と“トレンド”さを増しています。
 現在,細胞診に関する本邦の書物は数多くありますが,本書のように細胞検査士や細胞診指導医を対象として版を重ね,充実感のある教科書は他に類をみないものです。大変なご努力によって改訂されたこの『細胞診を学ぶ人のために』第3版を,細胞診断学に携わる方々の必携の書としてぜひお勧めしたいと思います。
B5・頁368 定価(本体9,800円+税) 医学書院


「よい薬」についての「よい本」

内科医の薬100
Minimum Requirement 第2版
 北原光夫,上野文昭 編集

《書 評》松村理司(市立舞鶴市民病院副院長)

 地域病院で一般内科の診療と教育に明け暮れている筆者にとっては,実地臨床にぴたりと役立つ本や雑誌を繙く時間は至福といえる。ところが,この種の「よい本」には最近でもなかなかお目にかかれない。医学書や雑誌の出版量自体は年々増えているように見えるのにである。診断(特に画像診断)に関する「よい本」はまだしも存在する。しかし,治療に関する「よい本」となるととんと少なくなるのだ。薬に関する「よい本」も例外ではない。たとえば肺炎の抗生剤選択について,「感受性のあるものを適当量」とか「AまたはBまたはCまたはDまたは…」としか書かれてない本は,「よい本」とはいえまい。

秀でた臨床家のセンスによる

 この本は「よい本」だ。「よい薬」についてのとても「よい本」だ。内科の「よい薬」を100種類に絞り込んだコンセプトの素晴らしさは,この第2版でももちろん継承されている。4年半の間の“進歩”は汲まれてはいるが,いたずらに「新しい薬」に目移りしているわけではない。文字通り自家薬籠中の「よい薬」ばかりが取り上げられているのは,秀でた臨床医ならではのセンスである。今回も編集に当たられた北原光夫,上野文昭両先生の見識と指導力の賜物でもあろう。

内科医の生涯教育にもうってつけ

 執筆者による個性の違いも感じられるが,全体に読みやすくまとめられている。薬物相互作用や副作用もかなり詳しい。同種薬剤への言及も説得的だ。保険適用外の指導も親切だ。必要に迫られて項目ごとに読んでも教わるところが多いが,週末に丸ごと通読するのも,内科医の生涯教育としてうってつけだ。
 筆者の勤務する病院の内科系研修医は,幸か不幸か,「よい本」の取捨選択には生意気なほどに厳しい。米国から招いているすぐれた臨床指導医の影響が大きく手伝っているのだろう。その彼らの白衣のポケットの多くにこのハンディな本が見かけられる姿は,頼もしい。
 同一出版社から依頼された書評では,できるだけ“よいしょ”しないように心がけているつもりなのに,反対の結果になってしまった。「よい本」だからだ。ますます洛陽の紙価を高めてほしい。
B6・頁254 定価(本体3,800円+税) 医学書院


小児科医がこどものみかたをあたたかく指導

〈総合診療ブックス〉
こどもを上手にみるためのルール20
 五十嵐正紘,他 編

《書 評》佐藤元美(藤沢町福祉医療センター・国保藤沢町民病院長)

日常外来におけるこどもの臨床のポイントを網羅

 本書は「総合診療誌JIM」の特集「こどもを上手にみるための15ヵ条」を増補して,20のルールを集めたルールブックとして編集された。日本では15歳以下のこどもの70%程度は,診療所や病院の「内科・小児科」医が診ていると本書で紹介されている。この特集号は,内科出身で今は毎日お年寄りから赤ちゃんまで診療している私にうってつけだった。頻度の多い症候や病気について,成人との違いを強調して解説してあり,年齢別の鑑別診断がわかりやすく解説してある。小児科専門医への紹介のタイミングなど,なるほどと思う箇所が多かった。予防接種についての項も予防接種の意義を明確に述べてあり,接種間隔の解説もわかりやすく重宝した。同じような感想を持った読者が多かったようで,今回「総合診療ブックス」として1冊の本にまとめられた。
 15ヵ条からルール20に増え,充実した内容となっている。それぞれにGeneralistへの診療アドバイスの項があり,そこを読むと内科医が小児を診る時に混乱しがちなことが整理されて明確に解説してある。印象的な具体例も挙げてあり,記憶にとどめやすい。特に参考になったのが予防と支援の仕方に関する4つのルールであった。小児の事故防止や予防注射,育児支援などについて具体的に紹介してあり,乳幼児検診や母親教室で早速活用できそうである。

「Clinical Pearls」

 また,ルールのほかに「Clinical Pearls」と名づけられたコラムがある。「共感を伝える」や「賛辞を伝える」などがそれである。共感や賛辞を伝える具体的な言葉がつづられている。こどもに潜む病気をえぐり出そうとするのではなく,病気に直面してとまどい悲観しているこどもを支えるための言葉である。1人の人間を診るときに病気の危険性のある存在としてみるだけでなく,より幸福に健やかになれる可能性を持った存在としてみる視点は,小児医療だけでなく地域医療全体にとって切実な課題だと思う。
 小児科医が「内科・小児科」医をあたたかく指導してくれる本ができたことに感謝しています。
A5・頁200 定価(本体3,500円+税) 医学書院


Video-endoscopeによる大腸内視鏡の集大成

Colonoscopic Interpretation Kou Nagasako 著

《書 評》板井悠二(筑波大教授・臨床医学系)

 畏友長廻紘君が“Colonoscopic Interpretation”という著書を出版した。単著である。和文ではかなり多作の彼も“Differential Diagnosis of Colorectal Diseases"以来2冊目の英文本である(なお,編集に関わった本としては新刊のAtlasがある)。前回はcolonofiberscopyが臨床に定着し,開発以来12年程の成果をまとめ世に問うた書であったが,今回は16年を経てvideo-endoscopeによる大腸内視鏡の集大成である。
 主に表面を観察する内視鏡も,生体の内部構造を知る画像医学もよってたつところは形態であり,良好な画像が得られて,はじめてより確かな診断が得られる。
 新しい手法の画像は今までにない何かを示しており,単に何かがよく見えるだけでなく,その奥にある何物かを示唆し得る。すなわち著者が序文に引いているEinsteinの言葉「Imagination is more important than knowledge」のimaginationを与えてくれる。しかし,月を見て兎の餅つきを連想してもこれはscienceにはならない。それまでの知識を程よくsurveyし,さらに自分のobservationに基づき未知のものをimagineし,その可能性を何らかの手法で証明してはじめて内視鏡も画像医学もmedical scienceになる。

観察の要点,重視すべき点など小気味よく記載

 Video-endoscopeは優れた高空間分解能を達成し,肉眼病理から実体顕微鏡のレベルに精度を近づけ得る。正常では血管が常に見えるならば,それが見難いことは病変の存在を意味する。正常では一定の血管やpitのpatternを認めるなら,これと異なるものは異常であり,正常,異常の判定,疾患の鑑別もできるかもしれない。
 きれいに細部の見える精細な内視鏡像はさまざまな情報をもたらし,単に異常を見つけ出し,組織を得る手段ではなく,画像所見を分析し,統計的蓄積も加え,interpretできるものになる。
 このinterpretationを合理的に行なうには,いかなる点に着目すればよいかが,本書に体系だって記されている。Introductionにcolonoscopyの一般的事項が手短かに書かれ,次いでtumor, inflammatory bowel diseases and othersで構成される。それぞれ初めに腫瘍,炎症の内視鏡より見た鑑別の要点が記され,各論に連なる。観察の要点,重視すべき所見,腫瘍形態の発生が小気味よく記され,また各疾患の臨床病理,所見の定義が各論で簡潔に記述されている。
 本邦のcolonoscopistの果たした最大の成果はfibercolonoscopy の実用化であり,平坦型腫瘍の診断・臨床病理と思う。各章の終わりにはかなりの数の文献が引かれている。flat neoplasmの章のみ日本人のものが過半を占めるが,この項ですら英文論文はその半分を一寸越えるのみである。わが国の消化器診断のレベルはきわめて高いが,胃癌,肝癌は頻度が異なり小病変,早期癌を論じても欧米とはかみ合わぬところが少なくない。

大腸にかかわるすべての人に

 大腸ポリープ癌もm癌を癌と見なすか見なさぬか,欧米との議論がつきずflat neoplasmも同じ問題を抱える。本書のごときバランスのよい書が少しでも多く世界で読まれ,理解が深まることを期待したい。
 美麗な内視鏡像に必要最小限の病理像と要領のよい内視鏡所見,臨床病理の記述を持つ本書は大腸にかかわるすべての人に,そのレベルと関心に応じ与える物の多い書である。院長職と内視鏡医の二足のわらじをはく著者の努力を多とし,広く内外で読まれることを切望する。
B5・頁320 定価(本体25,000円+税) 医学書院