医学界新聞

 

第100回日本耳鼻咽喉科学会開催

着実な成果と画期的な新技術を報告


 さる5月20-22日,仙台市の仙台国際センターにおいて,第100回日本耳鼻咽喉科学会が,高坂知節会長(東北大教授)のもと開催された。学会設立100周年をを迎えた今学会では,国際シンポジウム「新世紀における耳鼻咽喉科-欧米からの視点」(司会=東医歯大名誉教授 小松崎篤氏)で海外から4名の演者を招聘したのをはじめ,記念講演「今後の日本経済と科学技術」(岩手県立大学長 西澤潤一氏)やシンポジウム「基礎耳科学からみた内耳性難聴」,パネルディスカッション「耳鼻咽喉科・頭頸部外科先進医療の現状と将来」などを企画。その他,514題の演題が発表され,最新の研究成果と今後の方向性が論議された。


内耳性難聴の基礎と臨床

 シンポジウム「基礎耳科学からみた内耳性難聴-治療への示唆を中心に」(司会=阪市大教授 中井義明氏)では,原因の特定が困難な内耳性難聴に関し,4名の演者が基礎的研究と治療への応用方法を発表した。
 最初に登壇した菊地俊彦氏(東北大)は,Gap Junction Networkとイオン輸送機構について,遺伝性難聴との関わりを中心に発表。蝸牛におけるイオン輸送の経路としてGap Junction Networkがきわめて重要であるとし,「Connexin26 mutationやBrain-4 mutationによる遺伝性難聴は,Gap Junctionを介したイオン輸送機構に負担が生じることで,内耳性難聴をきたす」と解説。また,治療に関しては「NF kappa Bを標的とした新たな治療法の開発に期待が持てる」と述べた。
 工田昌矢氏(広島大)は,内耳障害とフリーラジカルの関係を検討。「有色モルモットに内耳障害を発生させ,フリーラジカルの発現を観察した結果,強い相関を確認。また,NOS(L-アルギニンを基質とする酵素)阻害剤やスーパーオキサイド消去剤が,フリーラジカルを制御することから,治療への応用も有力」と語った。
 一方,原晃氏(筑波大)は,内耳性難聴とフリーラジカルについて,生化学的,電気生理学的,分子生物学的にアプローチし,両者の深い関わりを明示。さらに,ケタミン・デキストロメトルファンやNOS阻害剤,Poly ADP-ribose synthetase阻害剤の音響障害に対する保護効果を認めるなど,治療への可能性も強調した。
 また,強大音による内耳性障害の中でも代謝性障害に焦点を当てた山岨達也氏(東大)は,「強大音を聞くと,蝸牛に内在するグルタチオンの合成が促進され,発生したフリーラジカルを除去し,音響障害から防御する」と発表。さらに,(1)フリーラジカルの除去だけで予防は十分か,(2)予防薬は回復にも有効か,などの問題点を指摘した上で,「遺伝子治療は安全性や効率性などに問題があるものの,今後の発展が期待される」と遺伝子治療にも言及した。
 最後に特別発言として,志多享氏(洛東耳鼻咽喉科医院長)が登壇。「治療への応用をあせらず,基礎研究に対する“果てしなき探求"を続けてほしい」と,演者を含む若手研究者を激励した。

先進医療研究の成果

 また,パネルディスカッション「耳鼻咽喉科・頭頸部外科先進医療の現状と将来」(司会=北九州市立医療センター院長 上村卓也氏,千葉大名誉教授 金子敏郎氏)では,先端科学技術の発展に焦点を当てた最新の医療機器の有用性を検討した。
 國弘幸伸氏(慶大)は,現在広く使われているFrenzel眼鏡と電気眼振計の欠点を補うものとして期待される赤外線CCDカメラを,ビデオで紹介。画像が鮮明で,上下方向の眼振も観察可能な赤外線CCDカメラを用い,「眼振は一定の軸を中心とする回旋運動」という考えのもと,回旋角速度を直接求める眼球運動3次元解析を解説し,その正確性を示した。
 続いて内藤泰氏(京大)は,高い空間分解能で定量的な分析が可能なPET(ポジトロン断層法)を用い,“聞こえ”に関する脳内の神経活動を測定。「難聴が高度になると聴皮質の賦活が減少するが,人工内耳を使用すると再び活発化する。また,側頭葉においては,聴覚言語と視覚言語(読唇)が神経回路の発達に与える影響力という点で競合関係にある」と研究結果を発表した。
 嚥下に関しては,山本智哉氏(九大)が,コンピュータ制御の高圧空気と超伝導量子干渉装置を用いた診断法を紹介。作成された脳磁図によって嚥下の中枢メカニズム(感覚野は対側大脳弁蓋部にある)を解明し,「嚥下障害やリハビリ過程における知覚評価にも有用」と語った。
 また,森一功氏(久留米大)は,3次元CTの頭蓋底外科手術における有用性を検討。利点として,(1)スキャン時間が短い,(2)救急や状態不良患者でも使用可能,(3)呼吸停止位置による画像のズレを解消,(4)連続したデジタル・データが取得可能,をあげる一方,画像作成の限界なども解説した。
 さらに,内視鏡下鼻内手術を例に,ナビゲーションシステムについて口演を行なった友田幸一氏(金沢医大)は,(1)術中に解剖を確認できる,(2)残存病変を確認できる,(3)再手術時のオリエンテーションに利用できる,といったナビゲーションシステムの有用性を指摘。その上で「精度や価格などが今後の課題である」と述べた。
 そして最後に,岩井宏方氏(高度先進医療研究会長)の「高度先進医療と耳鼻咽喉科」を主題とする特別発言があり,本学会と先進医療開発の当事者たちの緊密な連携を強く求め,本パネルディスカッションを締めくくった。
 なお,第101回日本耳鼻咽喉科学会は,明(2000)年5月18-20日に,神崎仁会長(慶大教授)のもと,東京で行なわれる。