医学界新聞

 

第40回日本神経学会が開かれる


 第40回という節目を迎えた日本神経学会が,木下眞男会長(東邦大教授)のもとで,さる5月19-21日,東京の国際フォーラムにおいて開催。「新しい世紀への入り口に辿り着き,これまでに神経学はどの程度のことを行なって,どこまで到達できたのか,そして,今後は何を目標に,どう努力していくべきかに思いをめぐらすのも,ちょうど時宜を得たことではないかと考えられる」という木下会長の意図のもとに,招待講演2題,教育講演2題,国際シンポジウム10題などが企画された。


会長講演;ミトコンドリア病

 会長講演「ミトコンドリア病:21世紀への展望」で木下氏は,「ミトコンドリア病の発見は20世紀の特筆すべきできごとの1つであり,臨床医学の各領域における今日のミトコンドリア病の概念の広がりを考え,かつ医学のみならず生物学全体の研究の進歩を刺激している事実を考慮すれば,この発見は,科学全体に贈る臨床神経学の誇るべき業績とみることができる」と述べ,(1)Phenotypes,(2)Genotypes,(3)Phenotype/Genotype Linkage,(4)Pathogenetic Mechanismにおける問題点,(5)臨床上の問題点,の5点に分けてミトコンドリア病を次のように概説した。
 「Phenotypes」においては,「症候群型」では,KSS(Kearns-Sayre;慢性進行性外眼筋麻痺症候群),MELAS(mitochondorial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes),MERRF(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers,)というような境界は現在ではあまり確固としたものでなく,種々の移行型,重複型が知られており,疾病概念というよりも病像の違いと考えられる。一方「非症候群型」としては,症候群型の中のすべての症候が,時期によってそれぞれ単独で出現すると考えられる。これらのうち,症例数の多さでは糖尿病が最大と思われるが,現在言われている糖尿病全体の約1%という数字が確実な数値であるのかどうかはやや疑問が残る。
 また木下氏は,「DNA変異による症候の発現機序」を整理し,その要因として,(1)変異のDNA上の位置,(2)細胞内の変異ミトコンドリアDNAの量,(3)細胞機能のミトコンドリア依存性,(4)細胞の種類,細胞分裂の有無,を指摘した。
 近年ミトコンドリアは,老化やアポトーシスとも深い関係があることが注目されるようになっているが,木下氏はAgingおよび老化現象とミトコンドリアDNA変異との関係に言及。
 さらに,今後の問題点として,germ-line 変異とsomatic変異との関連,非特異的ミトコンドリアDNAの変異に関する問題,無症状群,種々の神経変性疾患における出現の意義,など21世紀のミトコンドリア研究の方向性を示唆した。