医学界新聞

 

第36回日本リハビリテーション医学会開催

医療制度改革の中でのリハビリテーション


 さる5月20-22日,第36回日本リハビリテーション医学会が,田中信行会長(鹿児島大)のもと,「21世紀への飛翔-共生のための科学と文化を求めて」をメインテーマに,鹿児島市の鹿児島市民文化ホール,他において開催された。
 本学会では「リハビリテーション(以下,リハ)医学への展望と課題」と題した会長講演をはじめ,井形昭弘氏(あいち健康の森・健康科学総合センター)と久保田競氏(日本福祉大)による特別講演が行なわれた他,シンポジウム3題,パネルディスカッション4題,一般演題,ポスターセッションなどが企画され,多数の参加者を集めた(関連記事)。

介護保険とリハビリテーション

 パネルディスカッション1「介護保険におけるリハの位置付け」(司会=弘前大 福田道隆氏,日医大 竹内孝仁氏)では,日本リハ医学会が厚生省や日本医師会へ提出した,「(1)介護以前に十分な医学的リハを(「リハの前置主義」),(2)要介護認定後もリハ医療が必要」等を盛り込んだ要請書を再確認し,いかにリハ医が介護保険へのアプローチするかを議論する場となった。
 最初に,関英一氏(厚生省)が登壇し,介護保険施行に向けてのさまざまなスケジュールを明らかにした。要介護認定の一次判定における基準や,本年7月には,在宅サービスの委託指定事業者の届け出が開始されるなど,最近の動向を解説。また,「介護報酬」については,7月に報告書が提出されるが,その設定方法の大まかな考え方を披露した。さらに,「地域リハ広域支援センター」設立や,厚生省内に機能訓練事業として「高齢者保健事業のあり方に関する専門委員会」設置について触れ,その基本的な考え方に「高齢者を介護にまでいかせない(介護が必要になる前にくいとめる)」とあることを紹介。介護保険下の高齢者医療・保健におけるリハの重要性を示唆する口演となった。

老健施設と療養型病床群

 続いて米満弘之氏(熊本機能病院)は,老健施設と療養型病床群の立場から,氏が実践する地域リハ活動を中心に報告。はじめに「老健施設では対応が困難な医療の比率の大きい患者への維持期リハが課題」と問題提起し,療養型病床群には,医療保険対応型と介護保険対応型の2つが存在するが,後者を中心とする流れができつつあることを指摘した。その上で,老健施設には十分なリハスタッフの配置が必要として,「PT,OTスタッフは100床に対して3-4人が適切」と提言。老健施設でのリハ医療の方向性として,(1)本来の老健施設の理念にそったリハ医療の確立,(2)療養型病床群との連携強化,(3)社会復帰,家庭復帰を前提としたリハ医療体制の確立,(4)人員配置の充実,などをあげた。また,「地域リハ広域支援センターのあり方は今後非常に重要になる」と述べ,口演を結んだ。
 一方,畑野栄治氏(はたのリハビリ整形外科)は,介護保険施行後は「デイケア」が「通所リハ」となる中で懸念される問題として,(1)早期退院後に利用できない,(2)デイケア施設の認定基準が甘い,(3)機能予後を正しく認識できる体制か,(4)デイサービスとの競争,の4点を指摘。特に(2)については,OT,PTの常勤を義務づけずに,経験のある看護婦であればデイケアを開設できることに疑問を呈し,「これではデイサービスと同じ。デイケアの特徴である医療的管理やリハ医療が提供できない」と危惧を呈した。最後に山内繁氏(国立身体障害者リハセンター研)は,介護保険下の福祉機器は,福祉用具貸与と購入費支給の2つに分けられ,原則として貸与が基本と紹介。今後対処すべき問題点として,(1)福祉用具のquality assuarence,(2)現行のPL法対応で十分か,(3)レンタルのための体制,(4)福祉器具の標準化,の4点をあげた。
 最後に司会の竹内氏は,「介護保険において,今後は,(1)かかりつけ医意見書にいかにリハの要素を盛り込むか,(2)ケアマネジャーにリハ的な背景をどう浸透させるかが課題」とし,結びの言葉とした。


DRG/PPSとリハビリテーション医療

第36回日本リハビリテーション医学会から


 学会3日目には,シンポジウム「診断群別包括支払制度(DRG/PPS)とリハビリテーション医療」(防衛医大 石神重信氏,慈恵医大 宮野佐年氏)が企画された。
 現在,医療改革の必要性が叫ばれる中,日本でも国公立など10病院でDRG/PPS試行が開始されている。DRG(Diagnosis Related Groups)は診断群別に患者分類すること,PPS(Prospective Payment System)は,一定の診断名や状態に応じたひとまとまりの医療行為に対して,一定の診療費が支払われる仕組みを意味し,DRG/PPSとは,ある患者にかかった医療費を診断群別の医療コストに振り分けることをさす。

DRG,FRGとクリティカルパス

 最初に,安藤徳彦氏(横市大)が,「DRGとFRGについて」と題して登壇。高齢者医療制度の見直しの中で,医学的リハ(急性期から回復期)のあり方が問い直され,障害を正確に把握する統一的な評価法が必要であるとした。一方,国内でのDRG/PPS試行ではリハ医療にかかわる疾患は欠如しているため,診断群分類に整合性を持つ障害別分類法を確立して,その効果の確認を目的に,厚生省DRG研究リハ医学研究班が組織されたことを報告。
 また氏は,リハ医学の成果を図るには,障害を適切に評価する尺度が必要とした上で,WHOの国際障害分類(ICIDH)と,機能障害分類FIM(functional independence measure)を紹介。StinemanらによるFIMを用いた研究結果等から,上記研究班では「患者の機能障害を評価する方法としてFIMが最も望ましい」という結論に達し,また機能障害分類(FRGFIMに基づく分類)を検討中であることを明らかにした。最後に氏は,共通する医学的リハの指標の必要性を訴え,「障害分類にはFIMが最もよいが,国内でも頻用されるBarthel IndexやICIDHを視野に入れた検討が必要」と結んだ。
 続いて石田暉氏(東海大)は,リハ医療におけるクリティカルパス(CP)を紹介。米国で開発されたCPは,DRG/PPSを補うものとして導入されたが,その効果として,在院日数短縮やコスト削減,患者の満足度向上等があげられる。氏はそのベースに検査・治療の一定化,早期リハの導入,予後予測の明確化等があってはじめて効果があがることを強調した。さらに日本版クリティカルパス作成研究班の活動を紹介。プロトコル作成に,(1)多職種の早期参加,(2)リハ医が各職種の役割を明確化する,(3)早期でインテンシブなリハを,(4)訓練内容明記,(5)場所,(6)到達目標,(7)重篤な合併症は対象としない(外科疾患は代表的なもののみ)などを盛込み,脳血管障害,脊髄損傷,切断など12の疾患群について,CPを作成,報告書を提出したことを明らかにした。氏は,医療の質を上げるのにCPは必要であると結論づけ,「DRG/PPS導入がなくても,CPは残るのでは」と述べた。

米国の医療改革が与えた影響

 続いて,DRG/PPS導入をはじめとする米国の医療改革がリハ医療に与えた影響について,吉田清和氏(米国・ウイスコンシン医大)が概説。米国では1983年からDRG/PPSが施行され,DRGには当初,リハや小児科領域等は除外されていたが,1998年10月にDRG/PPSの中に組み入れられた。その結果,リハ科への転科数や収入の減少,入院期間短縮が進み,ナーシングホームでSNF(Skilled Nursing Facility)リハ(急性期と維持期リハの中間に相当)を受ける患者が増加。しかしSNFに日額制のPPSが導入され,治療時間短縮やPT・OTの大量解雇が進むなど,「さらなる医療の質の低下が危惧される」とした。さらに今年1月,外来リハに年間1500ドルの支払限度額がつき,APCG(外来専用の診断群)によるPPS導入は確実視され,また在宅リハにもPPS導入が決定したことを述べた。また,最近米国議会は,HCFA(The Health Care Financing Administration;米国医療財務局)に,リハ医療に対するFRGの採用を進言したことを報告。日々刻々と変化する米国のリハ医療を取り巻く状況を語った。

日本版DRG/PPSの動向

 最後に,行政の立場から梅田勝氏(厚生省保険局)が「DRG/PPS研究の現状」と題して登壇。氏は,現在行なわれているDRG/PPSの試行は「今後の医療制度・保険制度改革の基礎資料であることが前提で,必ずしも導入が目的ではない」と前置き。白内障を例に,診療報酬体系の方法論を解説した。また入院料,看護料などは定額報酬に,手術料,麻酔料,1000点以上の措置料等は出来高報酬としており,定額報酬の算出法は「基礎償還点数(全データの平均点数)×相対係数(診断群分類ごとの医療費の使われ方の差)+調整点数」。
 氏は,日本版DRGにおける診療報酬の設定方法は,事前に集めた3万5000例のデータから,症例数20例以下の疾患や施設ごとに医療費・入院日数のばらつきが大きい疾患を省き,8か月で183疾患群を設定したとし,今後は「試行によるデータを加算し,DRGを改訂したい」と述べた。また,「現在のDRGは国公立病院のデータをもとに作成しており,全国すべての医療機関への適応は不可能」と述べ,将来DRG実施となっても現在の値は使用されないとの見解を示した。さらに今後の方向性として,「導入はAll or Nothingではなく,『DRGに向く疾患には導入,向かないものは出来高払い』との考え方もある」とし,また事務処理の簡素化を狙った導入の可能性もあると述べ,現在進められている論議の内容を報告した。