医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床家の水先案内的な肩診療の参考書

肩診療ハンドブック 福田宏明,三笠元彦,伊藤信之 編集

《書 評》石井清一(札幌医大教授・整形外科学)

新たな知識や概念を整理

 世界に先駆けてわが国に肩関節学会が設立されたのは1974年である。その後のスポーツ医学の普及,鏡視下手術の発達,それに画像診断技術の目覚ましい進歩を背景に,肩関節外科も著しい発展を遂げてきた。その間に新たに既念が確立された疾患もいくつかあげることができる。新しく発見された診断技術や手術手技も少なくない。これらを整理し,臨床家の水先案内的な参考書としてまとめられたのが『肩診療ハンドブック』である。
 本書の編集にあたった福田宏明氏,三笠元彦氏,それに伊藤信之氏は,わが国の肩関節外科の発展に主導的役割を果たしてこられた整形外科医である。学会での福田氏の討論の進め方はきわめて科学的で,1本の明快な論理で貫かれている。推理小説の頁を1枚1枚めくっていくように物事の本質を明らかにしてくれる。三笠氏は内外のほとんどすべての関係文献を検索して得た知識を整理し,われわれに偏りのない新しい見解を示してくれる。伊藤氏の明晰な頭脳は,ややもすると曖昧さを許容してしまう臨床医学が,科学として成り立つための道筋をわれわれに教えてくれる。
 本書を一読して感じることは,3人の編者の特徴がよく表れているということである。序文では本書の編集方針として,(1)わかりやすく,(2)最新情報を盛り込み,(3)標準的治療法に加えて著者の推める方法を述べ,(4)項目は網羅するが,頻度の高い疾患を重視した,と書かれている。現在,わが国でもっとも活躍している39名の肩関節外科医の原稿に,3名の編集者が上記の編集方針に沿って手を加えて本書を完成している。

適切な診療のためのガイドライン

 本書は14の章からなるが,解剖,診断法,治療法などの総論に5つの章をあて,全体の1/3を費やしている。各論では肩関節疾患を9つの章(先天性疾患,脱臼・亜脱臼,骨折,筋腱疾患,神経疾患,変性疾患,炎症性疾患,腫瘍,それにスポーツ肩)に分類している。特にここ20年間で病態の整理が進んでいる腱板断裂,肩峰下インピンジメント症候群,腱板疎部損傷などの「筋腱疾患」と,反復性肩関節前方(亜)脱臼,習慣性肩関節後方脱臼,動揺性肩関節,随意性肩関節脱臼などの「脱臼・亜脱臼」,それに病態がまだ不明と言わざるを得ない五十肩などの「変性疾患」には,多くの頁をさいて,現時点で得られている知識が明快に解説されている。本書は肩関節外科の進歩を理解し,適切な診療を行なう場合の格好のガイドラインである。肩関節疾患を扱う専門医ばかりでなく一般整外科医,理学療法士などの座右にぜひ置いておきたい参考書である。
 最後に,本書の編者のお1人,伊藤信之氏が本年1月28日,悪性腫瘍のため54歳の命を終えられた。その才能を惜しむとともに,心よりご冥福をお祈りして本書の紹介としたい。
B5・頁348 定価(本体14,000円+税) 医学書院


胃癌検診に関与する医師や関連行政の方々に必読の成書

ペプシノゲン法 三木一正 編

《書 評》大柴三郎(仙台市医療センター顧問)

 本書は,三木一正現東邦大学教授がライフワークとして研究された胃癌のスクリーニング法であるペプシノゲン法についての成書である。
 胃液内に分泌される蛋白分解酵素であるペプシンの前駆物質ペプシノゲンは,I.M.Samloffにより1969年にグループ I とグループ II に大別された。I は体部腺領域の主細胞・副細胞より,また,II は噴門腺,体部腺,幽門腺,ブルンネル腺細胞より分泌されることが報告されている。ペプシノゲンは約1%内外が血中に入り,尿に排泄される。したがって血中のペプシノゲン値は胃の分泌状態を反映し,その組織学的変化とよく相関している。さて,日本人に多発し,現在でも年間約5万名の死因である胃癌に対しては早期発見の目的で胃癌の集団検診が国家レベルで全国的に行なわれてきた。その中で1次スクリーニング法としては,X線診断(間接も含め)によってきたが,X線機種の進歩,造影剤の改良などにより精度は大きく向上している。一方,新しいスクリーニング法の出現も期待されていた背景もある。

有用性を洗練された疫学手法で評価

 さて,三木らは日本人に多い萎縮性胃炎あるいは腸上皮化生粘膜を発生母地と考えられている分化型胃癌に注目し,血中ペプシノゲン値により高危険群の抽出に心血を注いできた。1991年にはペプシノゲン I,II,I 対 II 比が,胃癌のスクリーニングに有用であることをはじめて報告,1993年には国際学会でもそのことを報告し,内外に大きな反響を与えている。1997年には厚生省がん研究助成金による三木班が発足した。その班員,協力者の業績をまとめたものが本書である。
 本書はペプシノゲン法の胃癌スクリーニングにおける理論的背景や臨床的意義から始まり,地域集団検診,職域検診,人間ドック検診などにおけるペプシノゲン法と間接および直接X線検査と比較の中で,その有用性を洗練された疫学手法により評価している。さらに本法は胃癌スクリーニング法として安価で,短時間での処理能力が高い。X線診断には洗練された技術,卓越した読影力が要求されるのに比べ,本法では数値で示されることは大きいメリットがあろう。

ヘリコバクター・ピロリとの相関

 さらに近時,胃炎とくに萎縮性胃炎(腸上皮化生を含め)の原因と考えられているヘリコバクター・ピロリの感染・除菌と本法との相関についても述べられている。本法はRIA法から最近では容易に扱えるEIA法へと改良され,手軽く検索できることが述べられている。
 しかしながら方法にも多くの問題が残されている。X線診断は癌の形態学的特徴を直接診断するが,本法はあくまで胃癌の高危険群の拾い上げ法であることである。また本書でも,実際にX線でチェックされた癌と本法でチェックされ診断された癌はごく一部を除いては重複せず,別々な癌を拾い上げているにすぎないことを述べている。そして結論として現時点ではX線による画像診断と本法をどのように組合せるべきか,いくつかのモデルを考案し,詳しく述べている。
 現在あるいは今後胃癌の集団あるいは個別の検診に関与する医師や関連行政の方々を含めて本書は必読の成書と考えられる。
B5・頁288 定価(本体3,000円+税) 医学書院


教科書では得られない生きた小児診療の臨床指針

〈総合診療ブックス〉
こどもを上手にみるためのルール20
 五十嵐正紘,他編

《書 評》弘岡順子(ヒロオカクリニック)

こどものみかたの見本

 『総合診療誌JIM』(Journal of Integrated Medicine)の特集や連載をもとに,日々の臨床に特に有用で好評であったものを1冊にまとめたシリーズの第1弾である。JIMには多くの患者を真剣にみ続けてきた臨床医にしか書けない,実際に役立つ優れた臨床情報が多い。この「総合診療ブックス」は,こどもは不得意という一般内科医や研修医に,診療の現場でたびたび遭遇するこどもの症状にどう対応したらよいかを具体的に示しているだけでなく,ベテラン小児科医にもこどものみかたの基本,小児科医としての姿勢をあらためて気づかせる内容である。
 こどものみかたの基本の項では,面接時,「親子に苦痛や苦悩に対する共感を伝える」,医師は親とだけ話しがちだが「こどもとも話をする」,最後に必ず「他にお困りのことがありますか」と尋ねることなどというくだりは,忙しい外来で忘れられがちな言葉でありハッとさせられる。

こどもの外来診療に有用な知識

 診断に際しては,「いきなり嫌がるところを診察しない」,顔つき・機嫌・活発さ・食欲など「全身状態が重症度を正直に反映する」,「腸重積,髄膜炎を否定できたか」などはこどもをみる際の必須事項である。また,「親の訴えを尊重する」ことにより診断できた腸重積の例をあげている。発熱の原因で見落とされがちな「尿路感染」や「かぜにひき続いた中耳炎」への対応,よくみられる「熱性けいれん」から化膿性髄膜炎を見逃さないこと,「下痢・脱水の治療」「呼吸困難の鑑別診断」「頭部打撲」「骨折・けがへの対応」などが表,絵,症例を用いてわかりやすく解説されている。さらに,「事故予防」「予防接種」「家族の状況の把握」「育児支援のしかた」が述べられ,「小児用薬剤」の年齢・体重別一覧表がくすりの使い方とともに加えられていて有用である。
 この本のいくつかの項でわかりにくい部分は,いつ専門医に送るかという点である。例えば,「2か月未満の38℃以上の発熱は要注意」の項ではCRPの迅速診断キットによりCRPを経時的に測定し,2mg以上であれば小児科専門の入院施設を紹介すると述べている。経時的に観察している間に重症感染症が悪化する可能性がわずかでもある場合は,入院施設のある小児科へすぐ紹介するとしたほうがわかりやすいと思われる。多分この相違は,この本が一般内科医・研修医・小児科医・勤務医・開業医など異なった立場の医師たちを対象にしている,また対象にしうるものであるところからきているのであろう。
 本書は,特に,こどもの診療に携わっている多くの「内科・小児科」医の方々に,通常の教科書では得られない生きた臨床指針として日々役立つものとなろう。
A5・頁200 定価(本体3,500円+税) 医学書院


細胞診断能力と習得した知識を自己評価

細胞診セルフアセスメント 坂本穆彦,都竹正文 編集

《書 評》蔵本博行(北里大・臨床細胞学)

細胞診の診断力アップに

 細胞診の勉強をこれから始める人に,また細胞検査士や細胞診指導医として第一線で活躍している方にもその診断力アップに,大変勉強しやすい本が出版された。『細胞診セルフアセスメント』である。
 本書は低倍率と高倍率の2組の細胞写真を通して細胞診断能力を試す問題と,細胞診に関する知識を試す学科問題からなっている。いずれも5者択一の解答を示すようにセットされている。それぞれ240題が用意され,ほぼすべての領域がカバーされている。細胞像の問題に,多くの細胞診の専門家が協力して,症例を提供したおかげであろう。自分の施設でこれだけ豊富な症例を経験するのは,大変難しい。それだけに,本書をひもとく読者にとっては,居ながらにして豊富な経験を身につけることができるようになっている。もちろん,「解答」が示されているが,さらに懇切丁寧な「解説」が用意されている。特に,細胞像の問題では,紙1枚めくった同じ箇所に正解と解説がセットされているのは大変ありがたい。労せずして参照でき,心憎いばかりの演出である。

細胞診の専門家としての必須の知識を問う

 学科問題には,細胞診の担当者として,基本的に知っておかねばならない内容が網羅されている。この種の問題は,医師国家試験の形式に類似しているところから,細胞診担当者にとってあまり必要でない臨床問題が作製されやすいのであるが,執筆者は長年の細胞検査士の教育を担当した実績を踏まえて,真に細胞診の専門家として必要な知識を問う問題を提供しているのが明らかである。
 このような問題集を利用する場合に,陥りやすい点がある。それは,解答し,正解を見て,一喜一憂するだけの場合である。このような勉強の仕方では,いくら多くの問題に当たってもあまり意味はないと考える。本書では,丁寧な「解説」が用意されているが,これを読むだけではなく,これから細胞診を勉強する人は特に,成書をひもとく努力を忘れてはならない。細胞診断学の系統的な知識が必要であるからである。その目的にかなった教科書として,著者らは『細胞診を学ぶ人のために』と『細胞診のベーシックサイエンスと臨床病理』を姉妹編として用意している。その上で,どれくらいの能力が得られたかを自己評価(セルフアセスメント)する方法として本書を利用し,足りない箇所を補強するのが,最も優れた利用法であると思われる。
 単なる経験の積み重ねだけではなく,本書と姉妹編を利用し,系統的な細胞診断学の知識を習得した真の細胞診の専門家が多く輩出することを期待したい。
B5・頁248 定価(本体7,000円+税) 医学書院


胃X線診断の最良の入門書兼専門書

胃X線診断の考え方と進め方 第2版
吉田裕司,市川平三郎 著

《書 評》望月福治(JR仙台病院消化器内視鏡センター長)

好評のベストセラー改訂版

 好評のベストセラー『胃X線診断の考え方と進め方』の10年ぶりの改訂版である。内容とともに写真の多くが差し替えられ見やすくなった。
 胃X線診断というと,まず,X線透視と撮影が行なわれ,次にフィルムの読影の段階を経て,最後に鑑別診断へと進むのがお定まりのコースであり,多くの成書はこれに準じている。本書の特徴はこれまでにみられない型破りの構成にある。すなわち,序論に相当する第1章の「胃X線診断の成り立ち」に引き続き,意表をついて胃X線鑑別診断の章からはじめられる。しかも,この項は説得力があり興味あふれる内容となっている。ドラマに例えれば,まず核心となる事件が紹介され,読者を一気に物語りに誘い込み,やがて登場人物の紹介,ついで物語の背景と展開という一連の手法に似ている。いずれにしろ本書が先ず鑑別診断という実践的で具体的な診断法を先行させ,内容も単刀直入に核心に入っていくのでとけ込みやすい。

X線診断の基本事項を明快に解説

 さらに,この章の胃疾患各論では,随所に佐野の分類を中心にした鑑別診断の方法論が展開されている。この分類は肉眼所見を重視したものであり,今日でもなおX線および内視鏡診断の基本になっていることが少なくない。例えば,IIa+IIc型早期胃癌については,この分類を基本に早期胃癌の肉眼的所見と,これを反映するX線像がわかりやすく示されている。また,IIc型早期胃癌の鑑別のポイントについても形,大きさ,深さをはじめ,蚕食像などの辺縁の変化,アレアの変化と顆粒不揃い度などの内面の変化,converging foldの読みなど,X線診断の基礎的な事項について明快な解説がほどこされている。X線ばかりか内視鏡診断の基礎にもなりえるものである。初心者には新しい知識として,消化器を専攻するものにとってもこれまでの知識を整理する上でも大変参考になるであろう。
 次の「読影の基本」では,著者らの言うX線診断の理論的分析である読影に必要な病変と対応するX線画像の成り立ちと現れ方が克明に述べられている。「胃X線撮影法」の項ではルーチン技術,精密撮影技術とに分けて述べられ,二重造影法の背臥位の正面・第1斜位・第2斜位,半立位造影法などの撮影の際に,体のローリングの仕方,それに伴う胃の中のバリウムの移動の違いと画像の成り立ちなどが具体的に示され実際的である。
 私はだいぶ前の論文の中で,「X線診断は難しく検査に汗を流し取り組む若きドクターがこれからでるだろうか」と予見してきた。しかし,消化管のX線診断については消化器病学会(1997,福岡)でパネルとして取りあげられ,「胃と腸」誌でも「胃癌の診断にX線検査は不要か」という特集が組まれている。X線診断に対する関心度は未だ根強いとものと思われる。本書は基本に忠実で,理論的な分析を軸としたX線診断の最良の入門書でもあり専門書でもある。消化器病に携わる1人でも多くのドクターに一読をおすすめしたい。
B5・頁346 定価(本体12,000円+税) 医学書院


泌尿器外科手術を学ぶのに最高のテキスト

Glenn's Urologic Surgery 第5版
S.Graham Jr, J.F.Glenn 著

《書 評》小磯謙吉(茨城県立医療大学長)

 GlennのUrologic Surgeryの第5版が昨年出版された。この本は泌尿器科という外科系の臨床,特に手術の教科書ともいうべき本で,第1版は1969年に出版されて以来今日に至るまで好評裡のうちに版を重ねてきている。私たちが泌尿器外科手術に初心者であったころ,この本を片手に手術の大要を学んだことをなつかしく思い出している。
 さて第5版は,1991年の第4版に次ぐものとして,Glenn教授の弟子であるGraham Jr. 教授の編集の下,世界各国のエキスパートの手によって記載され,上梓された。

疾患の教科書と手術書を合体

 この本はUrologic Surgeryの題名のごとく手術を中心に記載されているが,手術手技のみ中心に書かれているのではない。疾患の概要を述べ,次いでなぜこのような手術が必要か,その手術をどう行なうか,またその手術の結果による成果の評価,合併症などについても詳細に書かれている。すなわち本書は疾患の教科書と手術書が見事に合体しているところに大変すばらしい点があると考えられる。この点は他の手術書や教科書にはない点で,本書の一大特徴といえよう。
 第2の特徴は,各章の構成が臓器別になされており,その項を見れば大要を把握することができるようになっている点である。副腎,腎,腎盂,尿管,膀胱,前立腺,精嚢,精巣,精巣上体,精管尿道,陰茎などに分かれて手術を中心に書かれている。
 一方,このような縦分類に加えて,横分類ともいうべき方法がとられている。すなわち尿路変向術,内視鏡手術,腹腔鏡手術および体外衝撃波療法などを中心に,臓器別以外の分類方法をとっている。尿路変向術は近年泌尿器外科手術の中でも最も発達した分野で,Kockのパウチに始まったこの分野は禁制保持排尿機構を構築する上で貴重な財産となっている。本書はこの分野にも十分な頁を割いており,本書の特徴となっている。またこれに加えて尿失禁の手術,特に女性の尿失禁の手術に関しても詳しい記載がなされており,今後高齢化社会に向かっての対応が迫られている折り,時宜を得た企画といえよう。その他内視鏡手術や腹腔鏡手術にも言及しており,最近の手術のすべての分野をカバーしていると言ってよい。

世界のエキスパートが集結

 第3の特徴は,本書が米国の著者のみでなく,広く世界中の手術のエキスパート92名も加わって書かれている点で,ドイツ8名,カナダ5名などである。本邦からも北里大学の小柴,内田両先生がこれに名を連ねていることは大変嬉しく,本邦の泌尿器外科のレベルの高さを示すものと評価したい。
 第4の特徴は,手術書としてのすばらしい挿画が満載されている点で,術者になったつもりで次から次へと見ていっても十分理解できる点である。
 以上,本書はGlennの泌尿器外科手術書の第5版として十分世の期待に沿いうる優れた教科書と考えられる。初心者ばかりでなく,すでにでき上がった泌尿器外科医にとっても一読に値する良書と考え,巷間にお勧めする次第である。
1149頁 38,290円 Lippincott Williams-Willkins社