医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


すぐに役立つ内科医のための小児外来診療指南の書

〈総合診療ブックス〉
こどもを上手にみるためのルール20

《書 評》生坂政臣(聖マリアンナ医大・総合診療内科)

 昨今,小児科医の不足が社会問題になっている。常駐小児科医がいないために救急病院をたらい回しされ手遅れになった乳児や,過重労働によって死亡したある小児科医に過労死が認定されるなどの報道が相次いだ。小児科医の充足をただちに望めない状況では,内科医が小児の初期診療の一端を担うことにより,小児科専門医の負担を減らす解決方法も積極的に検討されるべきであろう。
 小児のプライマリケアの一翼を担うためには,相応の研修を受けるのが理想であるが,再研修が困難な内科開業医で,すでに小児診療を行なっている医師には,よりよい診療を行なうための良書が必要である。このような開業医にとって,本書には“なるほど”とうならせる箇所は少なくないはずであり,通読しただけでもワンランク上の診療を実現できるであろう。
 また,当直で小児の診療を余儀なくされる研修医などには,虎の巻としても使えるコンパクトさと読みやすさも兼ね備えている。

小児外来診療で忘れてならない20のルール

 本書は,小児外来診療で忘れてはならない点を,20のルールとして簡潔にまとめてある。しかし内科医が陥りやすい小児診療のピットフォールに対しては,イラスト,枠囲みなどで詳しく解説されており,メリハリのある構成となっている。著者はすべて第一線で活躍する医師であり,日常診療のなかで苦労して得たに違いない診察のコツが惜しげもなく公開されている。

小児の総合的プライマリケア

 この20のルールは,内科医が敬遠したくなる,子供の中耳炎,成長痛,熱性けいれん,おむつについた血尿らしき染み,血便,頭部打撲などの日常よく遭遇する小児特有の問題だけでなく,小児の予防医学や育児支援などもカバーしており,まさに今求められている小児の総合的プライマリケアの指南書として,小児診療にたずさわるすべての内科医に読んでいただきたい1冊である。
 この「総合診療ブックス」シリーズの第2弾である整形外科版『けが・うちみ・ねんざのfirst aid』(既刊)も合わせてお勧めしたい。
A5・頁200 定価(本体3,500円+税) 医学書院


日常診療に役立つ定評ある最新治療年鑑

今日の治療指針1999年版 多賀須幸男,尾形悦郎 総編集

《書 評》赤塚祝子(赤塚病院)

up to dateの治療法を第一線の専門家が解説

 1959年の創刊以来,臨床医の絶大な支持を受けてきた『今日の治療指針』。その1999年版を手に取り,改めて情報量の多さに驚くとともに,up to dateの治療法を,第一線の専門家がやさしく解説していることに,心からうれしく思った。
 私が勤務していた公立病院の図書室には,新年度には必ず,新しい『今日の治療指針』が書棚に並び,内科外来や外科の病棟にも,2-3年ごとに新しいこの年鑑がお目見えするのが普通だった(著者の寄贈によるものだったのだろう)。全国の病院や診療所で,『今日の治療指針』ほどポピュラーに置いてある本は他にないと思われる。

目の前の患者をどうすべきかすぐわかる

 診療机の傍らにあると,いかに役立つかをお示ししよう。2週間ほど前,中年の男性が「精液に血が混じるのですが…」という訴えで来院した。わが診療所の標榜は「内科・消化器科」で,「泌尿器科」ではないのにな,と思いつつ,仕方ないので診察をした。生殖器に,別に異常はない。でも,もしかして前立腺や精巣に癌ができていたら大変なので,一応腫瘍マーカーを調べることとし,私は「まさか,載っているはずがない」と,半ば諦めつつ,おもむろに『今日の治療指針』を開いた。ところが,あったのです。「血精液症」という項目が。青い顔をしていた患者さんは,千葉大泌尿器科教授が執筆された最後の文章である「それほど心配はいらない」というのを見て,みるみる元気になって帰っていった。腫瘍マーカーが陰性であったのは,言うまでもない。残念だったのは,カルテに添付しようと,この項目のコピーを取ったのだが,わが医院の小さなコピー機には,荷が重すぎた。あまりの厚さに,内側が掠れてしまったのが,難点と言えばいえる。
 また,イクラ弁当を食べて,数時間後に発症した腸炎ビブリオの患者さんの処置や,成人のハシカ(麻疹)の患者さんの対処にも,この本は威力を発揮した。専門書をひもとく前に,まずどうにかしなくてはいけない患者さんが目の前にいる場合,すぐに治療法がわかるのは,何と言ってもありがたい。
 1998年版に比べ,項目は972から977へ,執筆者は935人から947人へと増加し,内容はさらにパワー・アップしている。特に,抗癌剤の投与法については詳細に述べられており,ベッド数の不足から,悪性リンパ腫や乳癌の患者さんの化学療法が,開業医の手に委ねられるようになった昨今,大いに参考になるのではないだろうか。
デスク判:B5・頁1542 定価(本体18,000円+税)
ポケット判:B6・頁1542 定価(本体14,500円+税) 医学書院


最新の知識を盛り込んだ微生物学の標準的テキスト

標準微生物学 第7版 平松啓一,山西弘一 編集

《書 評》山田雅夫(岡山大教授・ウイルス学)

執筆陣は医学教育の第一線が担当

 医学書院刊行の『標準微生物学』第7版は,価格からいっても頁数からいっても,医学部の学生が教科書として1冊ずつ購入するとすれば,標準的なサイズと言えよう。そこで,内容的には標準以上かどうかというところが大いに問題となろう。私が拝見したウイルス学の項についていえば,その通りということができる。総勢19名に及ぶ執筆陣は,わが国のウイルス学会を代表する方々で,それぞれの専門分野を担当している。しかも多くの方々が医学教育の第一線にあり,医学ウイルス学の視点からスコープを絞りこんでいる点は,他に類を見ない充実ぶりであろう。その結果,各項目とも最新の話題まで加えて記載され,図や写真も多く採りいれられていて,ウイルスとウイルス感染症を同時にしかも統一的に学習できるよう工夫されている。わが国の教科書にはめずらしく,通読して大変おもしろい読み物に仕上がっているという印象である。
 ただ反面,教科書が本来持っているべき,初学者が基本的なことを系統的に学びやすくという点への配慮が,少し希薄なのではと私は心配している。用語の統一ということでは,特に7章「II.ウイルスの一般性状」での用語の使い方が気にかかった。一例をあげると,本来「ゲノム」という用語が使われるべきところに「遺伝子」という用語が使われており,しかも次の「III.ウイルスの分類」では,「ゲノム」が本来の意味で用いられている。また「ビリオン」の説明も,初学者にはかえって混乱を招く記述となっている。
 さらに,形式の統一ということでは,各論においてウイルスの性状,疾患の記述という順番でバランスよく記載されている項目が多い反面,そうでない項目があり,内容的にも臨床ウイルス学的な記載がやや不十分な項目も認められる。全体をまとめる立場の方のご努力で,次回の改訂に向けて用語の統一,形式の統一がはかられ,よりふさわしいものとなるであろう。

微生物学の進歩の現状を概観

 いま医学教育が大きく変わろうとしている。従来の講義中心の教育法から,課題学習,グループ学習を重視し,問題解決能力を追求する方向に変化し,また感染症学においても臓器別系統別の教育法が取り入れられようとしている。このような時期に,第6版において新しい教科書として生まれ変わった『標準微生物学』が,タイムリーな改訂を経て第7版として出版された。微生物学を受講する学生が何度となくひもとき,臨床医学を学ぶ時にも再びひもときたくなるような示唆に富み,豊富な内容を持つ教科書に仕上がっているということがいえる。
 また医学生のみならず,現在の微生物学の進歩の現状を概観するのに,本書はふさわしい読み物といえよう。
B5・頁570 定価(本体6,800円+税) 医学書院