医学界新聞

 

特集 第25回日本医学会総会

パネル「21世紀の医療とマルチメディア」


 医療界において,3次元画像によるバーチャルリアリティ(以下,VR)の技術応用が進んでいる。CT,MRIからの映像を手がかりに3次元画像を再構成し,手術野へVR画像を投影するなど,新たな手術法として注目を集め,また教育手段としての利用も期待されている。  パネル「21世紀の医療とマルチメディア-バーチャルリアリティ」(司会=東医歯大難治研 田中博氏,国立がんセンター研 水島洋氏)では,21世紀に発展が期待されるマルチメディア情報技術,特に3次元画像によるVRのマルチメディアネットワーク技術が,医療の未来をいかに変化させるかをテーマに議論された。

マルチメディア情報ネットワーク

 総論として,司会の田中氏は(1)電子カルテ,(2)遠隔・在宅医療,(3)3次元画像医学分野の視点から,「医療とマルチメディア」を概説。特に(3)については,仮想手術や仮想病院をビデオで紹介し,人体の骨格・消化器などのデータベース化を進め,医療VRとしての応用の可能性を探っていることを報告した。
 続いて水島氏は,国立がんセンターの「がん診療総合支援システム」に関し,インターネットによるがんセンターの最新がん情報の提供や,全国14地方がんセンターとの「がん情報ネットワーク」での症例カンファレンスを紹介。同カンファレンスは,1997年4月からの1年間に120回開催され,コメディカルを含め1万5000人が参加,さらにはG7(先進7か国)画像レファレンスセンター(MEDIREC)を本年4月より配信していることを報告した。

バーチャルリアリティの可能性

 一方,伊関洋氏(東女医大脳神経センター)はVRの医療への応用についてコンピュータ外科の視点から発言。ナビゲーション機器,技術の発達を概説し,「3次元の合成画像により,1cm程度の腫瘍の場所が確定できるようになった。情報の可視化による支援は今後とも進む」と述べた。また,微細映像をリアルタイムで電送できるハイビジョンシステム「HivisCAS」を紹介し,年内には完成する見通しを明らかにするとともに,「職員,スタッフのアメニティ向上も必要」と説いた。
 また,小山博史氏(国立がんセンター中央病院)は,医療全般のVR応用について,(1)VR技術,(2)VRシステム概論,(3)VR医学への応用,(4)VRエシックスの4つの視点から口演。小山氏は,アメリカの最新情報をビデオで紹介し,「軍予算の中から開発されたVR技術は教育機器として利用されている」ことなどを報告した。また,脳外科手術の他,神経症,認知障害治療にも応用可能とする一方,国立がんセンターでは緩和医療にもVRを利用している状況を伝えた。その上で,「現段階では教育に使用するのが最も有効だが,実践応用にはまだ難がある」と述べた。
 最後に登壇した永田啓氏(滋賀医大)は,「医療で扱う情報は,本来マルチメディアである」とし,「現在の医療の問題点の解決法として応用できる」と述べるなど,医療におけるマルチメディアの未来を展望。永田氏は,「VRは仮想空間の中に自分が入ることで,現実の世界にインポーズさせる手段」と定義し,今後の方向性として,(1)患者を常に見ながら同時にデータを見ることが可能,(2)空間的にどこでも使用可能,(3)情報の即時性と判断材料の増加,(4)インストラクション機能を利点とする,VRの延長線上のアーギュメンテッドリアリティ(AR)を使った医療システムを呈示した。まとめにあたり永田氏は,「より人間に近く,より自然に,より優しくが,医療におけるマルチメディアの将来」と結んだ。