医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


専門看護師・認定看護師が見えてくる

専門看護制度 理論と実践
佐藤直子 著

《書 評》兼松百合子(岩手県立大教授・看護学)

 現在わが国の看護界において最も関心と期待が寄せられているのは,専門看護師・認定看護師に関することであろう。これは長年にわたり医療を支えてきたゼネラリストとしての膨大な看護職集団が,より効果的に力を発揮できるようにするために専門分化の考え方を取り入れ,一定の経験の上に専門的な知識と技術の教育を受けて,専門家として活躍できるようにしたいというきわめて自然なそして切なる願いによるものである。わが国では日本看護協会と看護系大学協議会によりこれらの検討が重ねられ,1996年から審査が開始されたが,未だ試行の段階であるといえよう。一方,近年の看護系大学ならびに大学院の増加が専門看護制度の進展に拍車をかけていることも事実である。このような時期に本書が出版された意義は大きい。

導入の本格化へ向けて

 本書は著者がアメリカの専門看護婦の教育や活動の実際に触れ十分理解した上で,日本の専門看護師・認定看護師の認定に関わり,わが国のこれからの専門看護制度の発展のために必要と考えることのすべてをまとめたものと理解する。したがって,まず,わが国の専門看護制度について必要性の提言・検討の過程から誕生後の活動状況や問題点まで,十分な資料を付した記述があり,これは今後専門看護師・認定看護師を検討する場合のベスト資料といえる。
 次に,アメリカのクリニカル・ナース・スペシャリスト(CNS),ナース・プラクティショナー(NP)について,歴史的変遷と現状を十分な文献を伴い詳述している。そしてそれらのよって立つ概念枠組み(理論)がよく整理され述べられている。これはベテラン看護婦と専門看護師の違いを明らかにし,専門看護師の能力や教育内容を検討するのに役に立つ。そしてアメリカのCNSの実践評価の枠組みと評価の研究例が豊富に示されており,その内容からCNSの価値と実践上の大事な点を知ることができるとともに,アメリカにおいてCNSが厳しい評価の中で「人々の健康と医療の質の保証」という社会的要請に応え発展してきた過程を知ることができる。また,CNSが活躍できるための看護管理者のサポートについても述べられており,これからCNSの導入が本格化するわが国の臨床現場に大きな示唆を投げかけている。

専門看護を志す人には必読の書

 このように,本書は専門看護制度についての重要な事項をたくさん含んでおり,これから専門看護師・認定看護師をめざすものにも,その教育や受け入れを考えるものにも必読の書である。そして患者・家族にも医師にも喜ばれ役に立つ実践ができる看護専門職者が生まれることは看護職の発展であるとともに医療の充実・発展に大きく寄与すると考えられ,著者の主張に賛同するものである。これからは制度の整備とともに,わが国の専門看護婦にふさわしい教育内容を準備し,認定された人の活動を保護しながら十分に評価していくことが大切であろう。そのために本書が役立てられることを願って止まない。
A5・頁208 定価(本体3,000円+税) 医学書院


すべての医療職に共通する基礎学問

学生のための医療概論
千代豪昭,黒田研二 編集

《書 評》多田羅浩三(阪大教授・公衆衛生学)

専門化の時代に何が求められるか

 「SCIENCE」という言葉は,今は「科学」と訳されるが,当初は「分科学」と訳されたといわれている。まさに科学は,「分科」を基本に発展してきたといえるであろう。特に現代の医療では,専門分化がますます急速に進んでいる。阪大医学部の教授の数がここ数年の間にほとんど倍増しているという状況にも,それは表れている。
 また一方では社会の高齢化に伴い,人々の健康状態は年々その多様性を増している。平均寿命世界一の社会は,世界一多様な健康状態の人たちが生活する社会である。このような社会においては,多様な医療専門職によって,全体としての医療が担われるのは明らかである。
 医療が専門化を前提として進むものであるとすれば,医師や看護婦はもちろん,各専門職の連携は不可欠であり,互いの連帯感が何にも増して大切なはずである。にもかかわらず,近年の医療の現場は,そのような期待に必ずしも応えているようには見えない。むしろ,専門技術の独自性が強調されるあまり,連携を進めるという考えが軽視されているようにすら思える。
 このような中,千代豪昭先生と黒田研二先生の編集になる『学生のための医療概論』が出版され,『医療概論』というコンセプトが提起されたことの意味は,きわめて大きい。編者がいわれる通り,「医療の高度な発達を背景に,医療を支える専門職にとって共通する基礎学問を学ぶ必要が出てきた」のであり,その必要性は非常に高いのではないだろうか。

「概論」の名に恥じぬ格調

 「概論」という言葉には,一般に2つの意味が込められていると思われる。1つは「専門性を超えた,より広い視点からの論述」であり,もう1つは「考え方や制度の背景,歴史を重視した論述」というものである。本書は,「第1章 医療システムを理解しよう」,「第2章 健康とは何だろう」,「第3章 医療がたどってきた道と未来への展望」,「第4章 医療は誰のものか」,「第5章 情報活用の仕方を身につけよう」,という構成になっている。こうして「広い視点から」,今日の医療に関連した課題について非常にわかりやすく論述されている上に,事項や制度の羅列に終わることなく,「考え方や制度の背景,歴史を重視」した筆者の生の声が聞こえてきそうな文章でつづられていて,「概論」の名に恥じない格調を有しているのが,本書のユニークな特徴だと思う。
 また,文章が「である調」ではなく「ですます調」で,話しかけるように記述されていることで,親しみやすく理解しやすいだけでなく,かえって論旨に説得力が増していると感じられる。
 多数の資料がわかりやすく整理されているので,座右の書として備えておけば便利であろうと思うし,学校の教科書には最適であろう。
 時代の改革期に,次代を担う「学生のため」に,このような意欲的な教科書が刊行されたことに敬意を表したい。1人でも多くの学生,医療関係者に読んでいただくよう推薦したいと思う。
B5・頁232 定価(本体2,500円+税) 医学書院


人生の終焉までのサービス開発を提言

高齢者機能評価ハンドブック
ジョセフ・J・ガロ,他 著/岡本祐三 監訳

《書 評》前川厚子(名大助教授・地域在宅看護学)

 このたび,医学書院より『高齢者機能評価ハンドブック-医療・看護・福祉の多面的アセスメント技法』が翻訳出版された。原書は米国のJoseph J.Galloら3人によって執筆された“HANDBOOK OF GERIATRIC ASSESSMENT 2nd Edition”(1995)である。患者・障害者の人権,アドボカシー,リビングウイルなどの問題を正面から取り扱い,多くの示唆を与えてくれる。看護系では類書が少なく,待望の書にやっと出会えたというインパクトの強いテキストである。表紙の濃緑に浮き出る白抜きタイトルのデザインも洗練されている。
 訳者は米国の高齢者ケアの実情と医療背景を熟知されている岡本祐三氏,輪湖史子氏,佐貫淳子氏と笹鹿美帆子氏であり,流暢な日本語に置換されている。
 本書は約300頁,10章に区分されており,図や表がふんだんに取り入れられている。さらに,高齢者の健康関連情報やIADL,痴呆,不安やうつ状態の尺度,高齢者虐待,家族のアプガースコアなど信頼性,妥当性の高い30種類以上の評価ツールが適切な和文に置き換えられて紹介されている。高齢者看護と介護業務に対する学際的なバックボーンを築き,責任と根拠のある技術を進めるために活用していきたい“五重まる”の書籍である。

ライフサポートの重要性

 さて,高齢者の「日常生活機能」における臨床評価を進める上では,精神的・機能的・社会的・価値観的・経済的な側面を複合的に捉え,ライフサポート課題を的確に評価し,人生の終焉までのサービス開発を提言することが不可欠となってきた。
 それに加え,介護に携わる介護者や家族システムの評価も不可欠である。本書は,『介護者の権利宣言(p133):Rzentelny,Mellor-(1)自分の人生を生きる権利,(2)ケアの計画を選択する権利,(3)ケアの計画を選択するに際し,いかなる経済的,法的強制も受けない権利,(4)自らが家族の安定のために不可欠の存在として認められる権利』を紹介している。
 近年,介護負担についての研究は数多くなされてきているが,権利の視点から考察されたものは稀少であり,今後重要な概念として発展することが予測される。家族とケアを受ける患者には,逃げ場のない負担がのしかかり,緊張感の高い,孤独な生活を強いられることが多い。そこで,本書に学びながら人権擁護を尊重した専門的な関わりを構築していくことが課題である。
 本書は,そのような問題意識を激しく呼び覚ますのである。
A5・頁312 定価(本体3,500円+税) 医学書院


画期的な教育支援ソフト

シム・ナーシング 看護診断シミュレータ
中村恵子 監修,日本電気株式会社 著作・制作

《書 評》竹股喜代子(亀田総合病院看護部長)

自己流に陥らずに学習するには

 看護診断を臨床現場において活用することは,あわただしい日常業務の中で看護の視点は違えずに看護過程を踏んでいくための1つの方法として有効であると確信している。そのような有用性にも関わらず,看護診断導入の最大の問題はその活用の困難さであろう。特に看護の基礎教育の段階で,看護診断の教育を受けてこなかった新人を抱えると,多大な労力をかけて1から教育をしなければならない。
 当院においても看護診断導入を決めてこの3年あまり,1からの教育にエネルギーを費やしてきた。系統的な教育は限られた人的資源では困難を極めるため,外部の力を借りて何とか現在に至っている。学習手段は,部門の現任教育委員会で企画する教育と,各セッションで勉強会形式で行なう教育の2本立てであるが,問題は個々の看護婦たちが,日常の中で自己流でなく学習する機会と方法である。
 今回,医学書院から発売された『シム・ナーシング』は,看護診断を効果的に学ぶための支援用ソフトである。CD-ROMという大容量の記憶媒体を使い,実際の患者に対するのと同じような感覚で看護診断の演習をすることができる。従来も,例えば看護過程を教える際には,ペーパー・ペイシェントなど,臨床での実感を体得しながら学習できるような工夫はなされていた。しかし,こうした手法の欠点は,学習者の働きかけに対して反応しないという点である。

CD-ROMの中に患者がいる

 この『シム・ナーシング』の最大の特徴は,適切な看護診断を行なえば,患者の状態は経時的によくなり,逆に不適切な看護診断を行なうと患者の状態が悪化していくという疑似体験ができる点にある。まるで,CD-ROMの中に患者がいるような錯覚を覚えさせ,実際の患者に対しているような気分になれる。
 操作の流れは,情報収集から始まり→看護診断→患者目標と看護計画→評価,というように臨床の流れに沿って構成され,各画面に自分でデータを入力した後シミュレータを実行すれば患者の容体が画面上で変化する。また,時間経過を早くして,24時間後の変化を即座に知ることも可能である。操作も比較的簡単なので,アセスメントもせず適当に遊んでいるうちに流れが理解できるようになる。
 仕組みの中身は不明だが,試みに操作した限りでは,結果として看護診断の適切度に応じた反応が得られるようになっている。看護診断をこれから導入しようという病院や,グループで看護診断を学ぼうとする人たち(学生も含め)が,一緒にわいわい言いながら学ぶにはうってつけのソフトであろう。
 ただ,あえて要望を述べれば次のような点であろう。まず画面構成の問題。1つの画面に多くのファクターが入れ込まれており,画面中のボタンをクリックしつつ進行していくことになる。このような行きつ戻りつの操作はどうしても思考を中断する要因になる。もう少し画面を単純化し,操作法を簡便にできないだろうか。
 さらに構造上の問題。本当の初心者は「看護診断」とはどういうものかをまず勉強してから始めなければならない。そのためにわざわざ「看護過程と看護診断」という解説が用意されているのだが,これがシミュレータ操作とリンクされていないのである。この解説部分が,実際のシミュレータではどうなっているかをつなげて理解できるようにしてあれば,まったくの初心者でも看護診断を学べるはずである。
 改良してほしい部分はいろいろあるが,看護領域にもこうした教育支援用のソフトが出てきたことを高く評価したい。看護診断の導入で頭を悩めている人や,パソコンを導入したので何とか教育に使えないかと考えている先生方は,ぜひ試してみてはいかがだろう。
CD-ROM for Windows 定価(本体20,000円+税) 医学書院