医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


細胞診を学ぶ者に大いに役立つ

細胞診セルフアセスメント 坂本穆彦,都竹正文 編集

《書 評》長村義之(東海大教授・病態診断系病理学)

 細胞診は現在までに大きな進歩を遂げてきている。特に,穿刺吸引細胞診が積極的に行なわれるようになって以来,多くの細胞診指導医,細胞検査士の研鑽により,多種多様な腫瘍,病変の細胞像が明らかにされている。また,細胞診は癌細胞のスクリーニングのみに止まらず,臓器によっては生検の代用になり,細胞診の結果により摘出術が行なわれる場合も少なくない。このような細胞診断学の発展に伴い,よりハイレベルな診断能力が要求されるようになってきた。

判定能力や知識の自己評価に

 このような状況の中で『細胞診を学ぶ人のために』の姉妹編として,坂本穆彦医学博士,都竹正文氏の編集による『細胞診セルフアセスメント』が同時刊行される運びとなった。『細胞診を学ぶ人のために』は広く世に知られており,細胞診をはじめる人のバイブルとなっている。「細胞診セルフアセスメント」は,カラースライド問題240題,学科問題240題が5肢択一形式で構成されており,まさに細胞診の判定能力,知識のセルフアセスメント(自己評価)に適した構成であろう。
 本書を手にして,何よりも目を見張るのは,クオリティの高い美しいカラースライドである。240症例,480枚の美しい細胞像は類書を圧倒する。症例は厳選された典型的細胞像が示されており,また,第一線で活躍する指導医,細胞検査士による解説は,丁寧でわかりやすく,その詳細な細胞所見,鑑別点の記述は具体的かつ理論的である。初心者には典型像の把握に,熟練者には生涯的なテキストとして相応しい内容が盛り込まれており,細胞診を学ぶ者に大いに役立つと確信する。
B5・頁248 定価(本体7,000円+税) 医学書院


21世紀の保健・医療・福祉システムの核心をつく1冊

保健・医療・福祉複合体 全国調査と将来予測 二木 立 著

《書 評》江見康一(一橋大名誉教授)

 本書の題名は,医療関係に携わっている人にとっても聞きなれない感じを持つ向きが多いかもしれない。「複合」とは「2種以上のものが合わさって1つとなること」であり,したがって,医療施設がなんらかの保健・福祉施設の両方を開設して,「保健・医療・福祉サービスを一体的に提供しているグループ」のことを「複合体」と名づけている。
 著者は,以前から私的大病院を中心とする系列的活動の拡がりを「病院チェーン化」として捉え,その実態を明らかにしたが,本書はその実績を踏まえ,現に医療施設が向かいつつある保健・福祉施設との複合化による関連サービスの立体化について,それを理論と実証の両面から明らかにしようとする野心的な著作といえる。
 それが野心的であるゆえんは,本書の「まえがき」において明らかであり,このような「複合体」への指向は,21世紀の保健・医療・複祉システムのあるべき姿を予測するうえでの核心部分であり,著者はこの課題に初めて挑戦したからである。

介護保険が複合体化を加速する

 しかも注目すべきは,2000年度に創設される介護保険が,これら「複合体」化の流れを加速するという証言である。
 著者はこれらのことを実証するために,全体を第Ⅰ部=「複合体」の全体像の提示,第Ⅱ部=「複合体」を6種類に分けた全国調査による分析,第Ⅲ部=全私立医大病院と500床以上の全私的病院の横断分析と時系列分析による病院チェーン化と「複合体」化の分析,という3部を用意し,周到に自説を裏づける努力を行なっている。
 二木教授の著作について,評者がつねづね敬服している点は,著者が自らに課した手堅い分析手法であり,それは第Ⅰ部の見出しの並べ方によって明らかであろう。すなわち,(1)用語の定義と調査対象の限定,(2)調査方法,(3)調査結果,(4)考察。
 この4段階の手続きをきちっと踏んでいることである。「はしがき」で分析目的が示され,また(4)の考察の中からは「将来予測」へのヒントや「政策提言」も引き出されるであろう。
 これらの分析を進めるうえで,著者は膨大な文献,統計調査資料に駆使しているが,その場合既存の縦割りの官庁統計を用いるだけでは,全体像に接近できないとして,行政上の業務統計に依存する分析の弱さが,具体的に指摘される。
 本書は全体を通じて,著者の気迫が随所に漲っており,分析の展開が稠密かつコンパクトであるので,評者にとっても新発見が多く,それらについて特に異論はない。強いていえば,全体がフィジカルな面に焦点を当てたものなので,資金面や保険財政との関連を顕在的に持ち込んだ時に,著者の分析にどういう説明が新たに加えられるかが知りたいところである。いずれにしても本書は介護保険の導入や,医療保険の改革を検討している方々にとっても,その審議が統計的基礎によって支持されねばならないことを知る上で警世の書といえよう。
A5・頁336 定価(本体3,600円+税) 医学書院


てんかんの最新の臨床的知識を得るのに格好の書

てんかんハンドブック
T.R. Browne,G.L. Holmes 著/松浦雅人 監訳

《書 評》小島卓也(日大教授・精神神経科学)

 近年,てんかんの診断・治療が大きく進歩している。本書は教室の松浦雅人助教授が若い人たちと一緒になり,苦労して訳したてんかんの実用書である。これは,ボストン大学医学部神経学のThomas R. Browne博士とハーバード大学医学部臨床神経生理およびてんかん部門のGregory L. Holmes博士が1997年に出版した『Handbook of Epilepsy』を翻訳したものである。

これ1冊で診療に不自由しない

 本書はてんかんの基礎,診断,治療について簡潔にまとめられていて大変使いやすい。小型の本であるが内容は非常に充実していて,並みの教科書を越えるくらいのものを含んでいる。臨床に必要な最新の情報が厳選されており,これを1冊持っていればてんかんの診療には不自由しないと思う。
 具体的な特徴を述べると,その1つはてんかん症候群を年代別に分けて,症候,鑑別診断を詳しく述べており,目の前の患者の年代のところを引けば自然に診断・鑑別診断ができるようになっている。中でも,臨床症候の記載が非常に詳しく的確に述べられているのが印象的である。またさまざまな鑑別診断が非常に詳しく記載されており,臨床の深い敬虔が生かされていると感じた。このほかさらに詳しい情報を知りたい時のために,要所要所に文中に最新の文献が紹介されていて,すぐ引けるようになっていることも特徴であろう。
 治療についても,最新の方法が記載されている。例えば薬物治療における単剤治療の重要性,それが効果がない場合の2剤目の薬の使い方,1剤目の薬の減らし方,2剤併用で効く場合があるのでその見極め方,多剤使用の場合の手順,多剤併用の場合の副作用,薬物相互作用の知識,血中濃度測定による薬物の管理,難治性てんかんの定義,その場合に主治医のとるべき方向性,画像診断による脳内構造物の異常の発見,発作焦点の検索と脳外科治療の適応に対する判断,等が詳しく描かれている。

治療のタイムテーブル

 その他,てんかん重責状態については強直間代発重責の病理が述べられ,「治療に推奨されるタイムテーブル」の表が紹介されており,分刻みにやることが記されている。また使用される薬剤による効果の比較がなされており,データに基づいての治療法が示されている。
 わが国においては日本てんかん学会が中心になり,てんかん診療の質の向上をめざしてさまざまな努力がなされており,間もなく臨床専門医制度が作られようとしている。本書はてんかんの最新の臨床的知識を得るのには格好の書物となろう。
A5変・頁232 定価(本体4,200円+税) MEDSi