医学界新聞

 

移植医療
話題となった脳死臓器移植第1例

パネル「脳死と臓器移植」


 パネル「脳死と臓器移植」(司会=あいち健康の森・健康科学総合センター 井形昭弘氏,杏林大 竹内一夫氏)では,本年2月28日に臓器移植法施行後初の脳死臓器移植が実施されたことを受け,パネリストが講演内容を変更したり,脳死移植第1例について特別にコメントするなど,「1例目」を強く意識した内容となった。

誤解を生んだ「臨床的脳死」

 まず,「脳死をめぐる諸問題」を口演した武下浩氏(宇部短大)は,脳死移植第1例をめぐる報道を受けて「『臨床的脳死』という言葉が誤解を生んだ」と指摘。「臨床的脳死とは,竹内基準のうち,自発的呼吸の不可逆的消失以外の項目が満たされた状態のことだが,正確な報道がされたとはいいがたい」と述べるとともに,「脳死」に関する用語を整理する必要性を強調した。また,「移植と関係しない時の脳死状態を人の死とするかどうかが曖昧なままであり,脳死の基本的な問題として残っている」との考えを述べた。
 続いて,日本移植学会理事長,日本臓器移植ネットワーク副理事長などの立場で移植医療の推進に取り組んできた野本亀久雄氏(九大)が登壇。「健全な移植医療をめざして」と題して口演した。野本氏は,臓器移植法成立までの道のりを概略した上で,現時点の問題点(およびその解決方法)として,(1)ドナー候補の不足(意思表示カードの普及),(2)地域による格差(ブロックごとの再編成),(3)医療界の不一致(医学会主導の再編成),(4)移植医療の体験不足(全方位型支援体制)をあげた。 
 一方,腎移植の先進地域として知られる愛知県で移植医療の第一線に立つ大島伸一氏(名大)は,「腎移植の展開」を口演。腎移植における課題の推移を,
70年代:生存率・生着率の向上
80年代:生着率の向上(免疫抑制剤の使用法の改善で死亡率激減)
90年代:長期生着率の向上
と概略。
 その上で,腎移植は,その治療後に「妊娠・出産も可能なQOLの高い治療法」であると強調した。現在,腎移植の症例数は年間600例(生体腎400例,死体腎200例)前後に推移しているが,大島氏は「日本は治療成績もよく,患者さんの希望も多いにもかかわらず,米国の年間12000例と比べるとあまりに移植数が少ない。腎移植の最大の課題は医学的問題ではなく,移植数を増やすことにある」と指摘した。

国民の移植医療への理解

 また,心臓の脳死移植実施施設として選定されている東女医大心臓外科の小柳仁氏は移植医の立場から口演。渡航移植を支援してきた経験から「日本における心臓移植の現況」を報告した。なお,小柳氏はこの中で脳死移植の本邦第1例に触れ,「システムが適切に機能した。日本の移植医療の発展のためにいいスタートが切れたのではないか」と評価すると同時に,「メディアを通して多くの青少年が移植医療に触れた」ことから,「国民の移植医療への理解が深まったのではないか」と期待する言葉を述べた。
 最後に司会の井形氏は「他国は医療が先にあり,法ができたが,日本は逆」と日本の特殊性を指摘しつつも,「今回,ドナーが出た意義は大きい。日本でも献血と同じようなものとして移植への理解が進んでいってほしい」と移植医療の進展に大きな期待を表明し,パネルの幕を閉じた。