医学界新聞

 

会頭講演
医学・医療の進歩は市民のために

高久史麿氏(自治医大学長)

「社会とともにあゆむ医学」


 総会のメインテーマを標題に掲げた会頭講演で高久氏は,「このメインテーマの根底にあるものは,“医学・医療は市民のためにある”という考えで,21世紀を迎えて医学は大きく進歩し,医療を取り巻く環境も大きく変わりつつあるが,医学の進歩の恩恵を享受するのも,そのための費用を負担するのも,医療環境の変化の影響を受けるのも市民である」と強調した。
 また,世界的に大きな話題を提供したクローン技術,ES細胞(胚性幹細胞)の臨床応用,ヒトゲノム計画,細胞移植,精神疾患の遺伝子診断などの先端医療に触れ,「高度先進医療の導入が生命倫理の問題を提起し,また医療費の増大などの経済的な問題をもたらす一因ともなっている。臓器移植法施行後初めての移植手術は成功したが,情報公開とプライバシー保護の問題などの課題を残した」と指摘。
 さらに,「人間の遺伝情報の解読が急速に進み,その成果が疾患の予防・診断・治療に役立てられるだろうが,遺伝情報に基づく差別への懸念,個人の遺伝情報の保護の問題も生じる。医師と患者の信頼関係が崩れれば先進医療は混乱を起こしかねない。また,インフォームド・コンセントが有効に行なわれるためには,医療者側が情報の公開を積極的に行ない,専門医療職として先端医療をわかりやすく紹介するとともに,市民の側も医学・医療に関心を持ち,その情報を吸収する必要がある」と指摘。今回の日本医学会総会に,いわゆる“生活習慣病"などを中心として30題におよぶ「テーマシリーズ」を設け,「市民公開講座」を大幅に増やした意図がそこにあることを重ねてを説明し,“医の心”の重要性を強調して会頭講演をしめくくった。