医学界新聞

 

第39回日本呼吸器学会開催


 さる3月25-27日,横浜・パシフィコ横浜において第39回日本呼吸器学会が,大田保世会長(東海大教授)のもと開催された。今学会では,J.B.ウエスト氏(カリフォルニア大)らによる特別講演,招請講演,シンポジウムなどに加えて,一般演題1195題など多彩な内容で企画され,多くの参加者を集めた。また総会では,COPD(肺気腫・慢性気管支炎)と肺炎(来年発表予定)の治療ガイドライン作成が報告された。
 「ガス交換の研究小史-私の通奏低音から」と題した会長講演では,太田会長は体調不良のため,代役として同教室の桑平一郎氏(東海大助教授)が原稿をもとに講演を行ない,会長自身は傍らで聞くという形で進められた。氏は自身の呼吸器研究を振り返り,多くの哲学者,医学研究者らの箴言を引用し,「21世紀の医学は細分化という偏向から再び統合をめざすべき」として講演を結んだ。
 本紙ではシンポジウム「国の各種呼吸器疾患の疫学と対策」(司会=京大大学院 泉孝英氏,日大 工藤翔二氏)を中心に報告したい。

日本の呼吸器疾患の疫学と対策

 冒頭に司会の泉氏から,「戦後50年で日本社会の急激な変化と同様に,呼吸器疾患領域も大きな変貌を遂げた。本シンポでは医学的問題だけでなく,医療費を含めた呼吸器疾患対策までをお話しいただきたい」との導入がなされた。最初に河野茂氏(長崎大)が「呼吸器感染症」を考える上で抗菌薬と分離菌の推移が重要と位置づけて報告を進めた。肺炎の分離菌では入院患者では黄色ブドウ球菌(MRSA)が,外来患者ではインフルエンザ菌や肺炎球菌が多いことを示し,また耐性菌の問題についてはペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)などの耐性菌が確実に増加しており,さらにカルバペネムなど新たに発見された耐性菌も今後増加が見込まれると危惧を呈した。呼吸器感染症の疫学をもとに新しい治療指針ととして,日本でも肺炎などのガイドライン作成が進められていることを報告した。
 続いて,坂谷光則氏(国療近畿中央病院)が肺結核について,登録者は1997年に42,715人,菌陽性肺結核者数は1975年以降1万9千人台と横ばい状態だが,その半数は入院せず,また年間828億円の医療費が支払われていることを示唆。現状と問題点として,若年罹患者の増加,免疫を有する人口減少,市民教育や医学教育の欠如,保健所など行政側の対応不足,耐性菌,治療の不徹底,院内感染などをあげた。また院内感染は1980年以降に増加し,特に一般病院,精神科での発生が目立つことを指摘した。

喫煙対策の充実を

 司会の泉氏から「医療費の面からみて喘息は呼吸器領域最大の難題」との言葉を受けて,大田健氏(帝京大)が気管支喘息について,13年前に調査した静岡県藤枝市にて再調査を実施し,その結果から(1)有病率,(2)臨床像,(3)対策の視点から報告。(1)では,小児は確実に増加,成人では増加傾向にあり,(2)では患者の64%がアレルギー疾患を合併し,患者の半数がペットを有し,小児発症患者ではアトピー型が,成人発症では感染型が多いことが示唆された。予後は外来患者数が増加,喘息死は1995年で5-34歳10万人あたり0.72人で男性が多いことを示唆した。喘息には不可逆性の部分があることからリモデリングの存在を指摘し,これに対する十分な対応が今後の治療戦略に関わると指摘した。
 COPDについては,木田厚瑞氏(都老人医療センター)が口演。日本では,慢性気管支炎患者は15.5万人,肺気腫が6.5万人,高齢男性に多いのが特徴で年間2000億円の医療費が支払われている(在宅酸素療法を含む)。都老人医療センターの20年間の剖検4,579例のうち肺気腫はその22.6%で,中等度以上の肺気腫でありながら臨床診断がなされていない例が多いことを指摘。危険因子は喫煙,気道過敏,ダスト,ビタミン摂取不足などがあげられ,特に喫煙は女性の喫煙・低年齢化が顕著と述べた。COPDの統計上の問題として,(1)診断率が低いこと,(2)COPDサブタイプが多いこと,(3)死因の多様性,をあげた。
 サルコイドーシス・肺線維症については長井苑子氏(京大大学院)が報告。サルコイドーシスは自然寛解例と難治化例とで明らかに病状が異なり,初診時に高齢発症,ステロイド治療歴などを有する症例に予後不良例が見られること,厚生省の統計でも有病率は1972年から1995年で増加傾向を示すことを述べた。また長井氏は,日本における特質性間質性肺炎の多施設共同研究の必要性を指摘して口演を結んだ。
 最後に肺癌は原信之氏(九大)が,1996年統計で年間死亡数4万8000人で,日本では喫煙対策の遅れから今後さらに増加が予測されると述べた。さらに自験例から,75歳以上の高齢者発症,組織型での腺癌の増加,早期発見例増加などの特徴がみられることを示唆した。検診について,米国の無作為比較試験で有効性が否定されたものの,日本では早期発見症例の増加など有効性が報告され,いまだコンセンサスは得られていないことを指摘した。