医学界新聞

 

「看護ケアシステム(仮称)」の導入と
看護診断に対応した標準看護計画の作成

鎮目美代子・飯沼智恵・松田美紀子
(慶應義塾大学病院看護部・看護介入分類プロジェクト)


看護診断に対応した標準看護計画作成の目的

疾患別から看護診断別へ

 当院では,1990年より,看護診断の導入,標準看護計画による看護行為の共通言語化を図っている。1993年に「“疾患別”標準看護計画」を作成し,現在,看護診断に対応した標準看護計画(以後,“看護診断別”標準看護計画)の作成に取り組んでいる。
 標準看護計画の「疾患別」から「看護診断別」への移行の目的は,看護診断に対応する看護過程の展開を行なうことである。看護診断に対し有効な看護行為を分類,整理し,共通した表現にすることで
1)看護行為の院内での共通言語化
2)看護ケアを過不足なく記述する
3)患者への情報開示を含めた看護介入のシステム化が図れる
をねらいとしている。

3段階からの作成

 「“看護診断別”標準看護計画」の作成は,
1)看護診断ラベルの選択
2)選択した看護診断ラベルの要因,看護介入の洗い出しと検討
3)標準看護計画の作成
の3段階で行なった。

看護診断ラベルの選択
 看護診断ラベルは,1996年に行なった実態調査(下記)結果から上位10ラベルを選択した。以下にその10ラベルを記す。
(1)安楽の変調:疼痛
(2)感染のリスク状態
(3)セルフケアの不足
(4)無効な気道クリアランス
(5)皮膚損傷のリスク状況
(6)損傷のリスク状態
(7)便秘
(8)身体可動性の障害
(9)不安
(10)ボディイメージの障害

実態調査の内容
目的:看護上の問題表記の実態
期間:1996年7月15日-8月14日
対象:入院患者1562症例の看護記録
結果:看護上の問題の表記は3818件であった。これらは看護診断ラベルで66種類に分類され,上記の上位10ラベルが全体の70%を占めていた。
 上記調査の結果から,上位10ラベルの標準看護計画を作成することで,院内で実践している看護行為の約70%の共通言語化につながると考えた。

要因と看護介入の洗い出し
 選択した看護診断ラベルごとに,「“疾患別”標準看護計画」に掲載されている要因と看護介入,実践している看護介入を洗い出し,検討を行なった。この段階での作業の結果,「“疾患別”標準看護計画」では次のような問題点があげられた。
1)「“疾患別”標準看護計画」の活用が少ない
2)記載上の問題として,次の5点があがった
(1)患者の問題状況が抽象的である
(2)要因の表現が整理されていない
(3)看護介入の裏づけや目的が不明確である
(4)標準看護計画にはない新しい看護介入方法が取り入れられている
(5)看護介入に医学介入(薬物療法)が含まれている
 以上のことから,現在使用している「“疾患別”標準看護計画」は,疾患別であるがために掲載されていない疾患には用いられにくいこと,また作成後3年が経過し,新しい介入方法が取り入れられているために,変化に対応しにくいことが考えられた。

標準看護計画の作成
 上記の問題を解決するため,以下の4点を視野に入れた「標準看護計画」の作成に至った。すなわち,
(1)問題状況を具体的に表現する
(2)要因は科学的裏づけがわかるように分類 する
(3)看護介入は目的を明記する
(4)看護介入方法は時代の変化に対応する
の4点である。

“看護診断別”標準看護計画の構成とシステム

NANDAを基本とした看護計画概要

 「“看護診断別”標準看護計画」は,概要と看護計画で構成される。概要は,「定義」「要因」「診断指標」「看護介入のポイント」「使用上の留意点」で構成しており,看護診断ラベル,定義,要因,診断指標は,これまでと同様にNANDA(北米看護診断学会)の『看護診断の定義と分類1997-1998』を用いた。

上位要因と下位要因

 要因は,上位と下位に区別。上位の要因としては,看護診断の科学的根拠を明確にするため,(1)生物学的因子,(2)化学的因子,(3)物理的因子,(4)心理的因子,(5)社会的因子の5つに分類した。下位要因は,上位の要因によって起きた生体の反応として発生する状況とし,看護介入ができる内容とした。
 上位および下位要因の関係については,「疼痛」の要因を例にあげ図示(図1)したので参照されたい。

看護計画

 看護計画は,「“疾患別”標準看護計画」に記載されている看護計画と,現在各部署で実践されている看護介入を洗い出し,整理した。洗い出された看護介入は,下位要因に沿って整理した。さらに看護介入は,下位要因に対応させ,介入目的を示した。内容は,「観察(Object Plan)・援助(Treatment Plan)・教育(Education Plan)」に区別し,目的を示した看護介入は,下位に具体的な介入方法を示した。
 看護介入方法は,院内の専門領域である緩和ケア,WOC(創傷・オストミー・失禁看護),感染およびリハビリテーション,ST(言語聴覚士)や医師等の他部門の協力を得て,院内で統一した看護介入ができるものにまとめた。これは,「看護ケアシステム(仮称)」とし,標準看護計画とは別のシステムと考えている(図2)。
 下表の「疼痛の標準看護計画一覧表」で,要因と看護介入および看護ケアシステム(仮称)の関連を示す。

“看護診断別”標準看護計画のシステム

 「“看護診断別”標準看護計画」は,将来,患者への開示を含めた方向でコンピュータ化を考慮。看護介入を患者に開示し,患者の目標に合わせて,患者とともに選択する方法を指向している。患者の状況に合わせた要因の特定と看護介入を選択することにより,患者の個別性が引き出せると考えるからである。

看護ケアシステム(仮称)の導入

 患者の状況に合わせた個別性のある看護介入を選択することと,時代の変化に対応した看護介入を行なうことを目的に,各援助に対応した看護介入方法を具体的に示す「看護ケアシステム(仮称)」を設定し,「標準看護計画」とは別のシステムに位置づけた。「看護ケアシステム(仮称)」は,「看護介入の手引き」「看護手順」「プロトコール」「教育」等で構成されているが,これらは随時追加修正される。また「“看護診断別”標準看護計画」に対応した形でコンピュータ化を図り,システムの中から看護介入方法を選択でき,患者の問題状況と看護介入の目的に合わせるような標準看護計画とリンクさせていきたいと考えている(図2参照)。

おわりに

 今回,「“看護診断別”標準看護計画」の作成にあたり,要因に対する看護介入の分類を行なった。今後は,看護介入の標準化の妥当性を高めていくとともに,看護国際分類(ICNP)の細分化原理を用いて看護行為を分類し,患者の問題状況に合わせた個別性のある看護介入方法の選択ができることを目標に,看護介入を再構築したいと考えている。