医学界新聞

 

臨床研修の可能性を高める

羽原 隆 東京警察病院内科レジデント(現在,西東京警察病院)


 医学部を卒業すると同時に,臨床研修で医師として研鑚を積むことになりますが,医学部学生時代の実習と実際の臨床研修では,ずいぶん様子が異なります。また不安と期待の混在する時期でもあります。こうした初期臨床研修(以下,研修)について,自分自身の経験をふまえて述べてみたいと思います。研修自体は,進路によってさまざまな形で受けることになると思いますが,その内容を積極的にとらえ,自分なりに手を加えて可能性を広げていき,自分自身のキャリアアップの第一歩として,大いに楽しんでほしいと思います。

大学から離れて臨床研修病院へ

 私の場合は,大学卒業後は大学医局に籍を置かずに,市中の臨床研修病院で内科レジデントとして始めました。まったく知り合いのいない病院ですので,不安もたくさんありましたが,逆に一から始められるという気楽さもありました。
 2年間の研修スケジュールは,病院内科が循環器・消化器・呼吸器血液・腎臓代謝という4つのグループに分かれているため,これら4科と,院内の麻酔科(手術室)とICU(救急部)を合わせてローテーションするシステムで,1つの科を3か月単位でローテートしていきます。

●入院患者のマネジメント
 最初のうちは,入院中の患者さんのマネジメントと救急の初期治療の習得を重要視しました。入院中の患者さんは24時間を病院内で生活しているわけですから,なるべく患者さんのことを肌で感じることを大切にしました。朝,昼,夕,眠前と患者さんの様子を見るためのラウンド(回診)を行ないながら,検査や治療で変化する様子を自分の目で確かめることを心がけました。これは,検査結果と身体兆候との比較により,診察技術の向上になりました。また自分の指示が実行されて,その効果を確かめられることになりましたし,それだけよく患者さんと接することにより,患者さんとの関係はよくなり,一方で入院による患者さんの気持ちを感じるよい経験になりました。患者さんにとっては,よく様子を見にくる医師は好感をもたれますし,信頼してもらえます。この信頼関係は治療上,大変重要だと感じました。検査・診断・治療の実際を目にできましたし,それに伴う患者さんの気持ちを分かち合える素地になったと思います。

●手技の習得
 未熟な手技は,病棟に張りついて,先輩研修医の手技などを見学しながら,1つひとつを勉強しました。最初は点滴の穿刺から始まり,胃管挿入,尿バルーン挿入,CVカテーテル穿刺や,マルク,胸水穿刺,腹水ドレナージなど限りがありません。1つひとつ確実にしていくことが大切です。
 実際に侵襲的な手技を行なうのに,「未熟だから」という言い訳はそれを受ける患者さんに失礼ですから,事前に十分勉強することを心がけました。手技のテキストにマークして〔私は『図解日常診療手技ガイド』(文光堂)などを使いました〕,何回見学したか,うまく実施できたかどうかをチェックし,手技の習得を心がけました。特に手技の上手い先輩医師の技を盗み出すくらいの意気込みが必要です。手技に長けていることも,信頼される医師として求められる要素だと感じます。

●検査も自分で
 検体採取なども,指示により看護婦が実施することが多いですが,自分自身で採取して検査部に持参し,実際に検査を見学したり,また自分自身で行なうことも時間の許す限り行ないました。これは緊急の場面では役に立ちました。採血でも,血液ガスのほかに血算なども検査機械の使い方を覚えれば可能ですし,細菌検査もグラム染色やZiehl-Neelsen法は,細菌検査室で何回となく行ない覚えました。自分の作成した検体も,専門技師に見てもらうことで,手技も診断技術も向上したように思います。

●コンサルテーションを行なう
 もう1つ大切なことは,上級医(他科も含めて)にどんどんコンサルトすることです。そのためには,患者の病態についてきちんと把握することが大切ですし,内科の場合,他科に及ぶ疾患を合併症として抱えているケースも多く,コンサルテーションはとても重要です。私の場合,他科にコンサルトした時,患者さんがその科を受診する際にはなるべく一緒についていき,実際に専門医の話を聞きました。また,リハビリテーションも,何度かは必ず自分自身の目で確かめたりしました。検査に際してもできる限り付き添いました。これは逆に言うと,院内で各分野に精通している人はそれぞれ誰なのかを把握していないと,レジデントとしても動けません。このようなフットワークの軽さはレジデントならではでしょう。こうして院内で顔が広くなることも重要です。
 また治療には,医療チームとして動いているという認識を持つことが必要です。患者さんの経過をコンサルト先にも適宜連絡することも大切です。治療が成功して退院すれば,その喜びをみなで分かち合えますし,逆に残念ながら死亡してしまった場合にも,転帰の報告とそれまでの協力に対する労をねぎらうことにもなります。そういったスタッフ間の連携を培うことも,治療チームのリーダーを務める医師として学ぶ必要があるように思います。

●救急での研修
 救急についても工夫したことがあります。幸い私の施設では,夜間救急には複数科の医師が当直しているので,内科関連の科はもとより,他科の疾患の初期治療についても勉強する場となりました。例えば,虫垂炎などの急性腹症は外科医の意見も聞けますし,緊急手術となれば術前診断を確認でき,さらに術後の経過も勉強できます。脳血管障害〔SAH(くも膜下出血)や,慢性硬膜下血腫〕なども診断に確実性が増します。なにしろ当直時には最初から最後まで経過を追うことができるのですから。
 さらに整形外科領域など,内科当直では手にしない骨折・脱臼などの手当てや小外科的な処置を見学できます。これらは完全にdutyからはずれることになりますが,本人のやる気の問題です。勉強することは,たくさんあると思います。

初期研修を終えて

 内科の初期研修は2年間となっていますが,自分自身の印象では,1年目でどうにか医師としてのペースをつかみ,2年目で手技的に経験を重ねる時期だったと感じています。さらに自信をつかむために3年目も同じ病院での研修を継続させていただきました。その理由は,
 第1に,自分自身の習得した技術を確実にしたかったからです。手技も含めて診断と治療を実践して確認したかったのです。他施設でも可能だとは思いますが,指導してくれた医師に再確認しやすいと思ったからです。
 第2に,当院では3年目になると外来研修を1コマ持つことができるからです。救急の現場では何度となく外来患者に接してきましたが,短い時間で診察・治療をこなす,入院治療の双璧にある外来治療を勉強することができるのです。内科外来ですと,やはりかなり広い医学知識を持たないと十分な治療をなし得ないことを体験し,さらなる勉強へのモチベーションにもなりました。
 第3には,3年目になると研究枠が提供されるため,これを自分の見聞を広めるために使いたいと思ったからです。実際には,院内にないものを体験したいと思い,他院の緩和ケア病棟での実習や在宅医療を体験しました。また,精神病院では精神疾患患者と向き合いながら,心の病についての勉強を始めました。一方,病院内にいると医療側の感覚に慣れてしまいますが,医療ボランティア団体に参加しながら患者側の感覚を学び,患者本位の医療の視点を自分の診療に取り込むことを学びました。

おわりに

 大学を卒業して3年になりますが,医療は奥の深いものであり,さまざまなテーマがあります。それをいかに自分で感じて自分の糧にしていくか,臨床研修は,それこそ自分自身の責任において,学びながら成長していける場だと思います。そして,これからは医療の現場にとらわれず,広く世間のいろいろな場で活躍されている方と接しながら刺激を受けて,医師として成長していければ最高だと思っています。