医学界新聞

 

〈連載〉

国際保健
-新しいパラダイムがはじまる-

高山義浩 国際保健研究会代表/山口大学医学部3年


〔第9回〕医学生主体の国際保健関連団体

はじめに

 近年における「国際化」の趨勢に対応するかのように,日本の医学生の「国際化」が急速に進んでいる。格安航空券を利用すれば,15万円程度の予算で東南アジア諸国の旅行は可能となり,多くの医学生が気軽に海外旅行を楽しむようになってきている。
 そうした医学生の中には,「国際保健」をキーワードとして精力的に活動している者たちも増えてきているようだ。彼らは,NGOなどが主催するスタディツアーに参加したり,独自に研修プランを作成して難民キャンプなどを見学したりしている。また,学術研究への意識も高まりをみせており,国際保健に関わる日本最大の学術集会である『日本国際保健医療学会』でも,学生による報告が目立って増えてきている。
 医学生たちの学習活動を支えているのは,もっぱら医学生ら自身によるサークル活動である。全国のほとんどの医学部には,国際保健,国際医療,あるいは熱帯医学をテーマとする学生サークルが存在しており,海外研修やエクスチェンジなどを実施している。
 このような個々の大学レベルでの活動とは別に,近年,いくつかの全国組織も生まれてきている。そこで今回は,多少新入生の視線を意識して,50名以上の会員数を有し,また継続的に,そして活発に活動している団体,「アジア医学生連絡協議会」,「国際保健学生フォーラム」,そして筆者が主宰している「国際保健研究会」の3団体を紹介したい。

アジア医学生連絡協議会

 はじめに紹介するのは,通称「AMSA(アムサ:Asian Medical Students' Association)」と呼ばれているアジア医学生連絡協議会である。
 1979年,1人の医師と2人の医学生が,カンボジア難民を救援するべくタイ-カンボジア国境を訪れた。ところが,世界各国のNGOが救援プロジェクトを大規模に進める中で,彼らは居場所もなく,技術もなく,ただ見学をして帰ってきただけだった。打ちひしがれて帰国した彼らは,国際医療協力ができる体制を作るためAMSAを設立した。その頃は,「何かしたい」という程度の意識だったようだが,彼らには確かにパワーがあった。
 翌年,彼らはタイ,インド,シンガポールの学生とともに,バンコクのラマティボディ医科大学で,『カンボジア難民救済』をテーマとした,第1回アジア医学生国際会議を開催した。
 その会議では,お互いが,医学生として国際協力を考えていくうえで,まず異なる社会的,文化的,歴史的背景を持つアジア諸国についてよく知る必要を痛感した。そして,医学生の国際交流の場を自分たちの手で作っていくことが採択された。その結果,AMSC(アジア医学生連絡会議;Asian Medical Students' Conference)が年に1回開催されることとなり,これは数年間のうちにアセアン諸国はもとより,中近東から参加を得るほどに成長していったのである。
 以来,AMSAは,アジアをはじめ海外の保健医療事情に関心を持つ日本国内の医学生が,大学の枠を越えて意見・情報を交換し合い,互いに親睦を深め,幅広いヒューマンネットワークを形成することを目的に活動している。その活動の機軸となっているのは,年1回のAMSCへの参加と年2回の国内交流会である。また,メーリングリストにおける情報交換も活発で,国際保健医療に限らずカリキュラムの話題であるとか,身近な出来事など,きわめてアットホームな会話がなされている。筆者も4年来,AMSAの活動と関わってきているが,その大きな特徴は「さまざまな医学生との出会い」に尽きると思っている。
 会員数は62人と小規模にみえるが,実はメーリングリストには240名もの登録があり,国内交流会でも参加を会員に限定していないので50人前後の参加がある。日頃,所属大学の医学部という小さなコミュニティで生活している医学生たちにとって,AMSAとは,自分の大学以外の,しかもさまざまな経験を積んできた一風変わった学生たちとの出会いの場なのである。

国際保健学生フォーラム

 医学生たちにとって,「どこに国際保健を学ぶ機会があるのか」ということは重要なテーマである。そして,「他の医学生はどのような活動をし,どのような理解をしているのだろうか」ということにも高い関心を有している。こうしたニーズに応えようと,「国際保健学生フォーラム」が1996年より活動を開始している。この団体の主たる目的は,国際保健をテーマとした学生の情報交換とネットワーク形成である。
 1996年12月,神戸大学医学部において,「日本国際保健医療学生フォーラム第1回全国会」が開催された。同大会には,各大学の学生サークルや,AMDA, SHAREなどNGOの学生団体ら25団体が参加し,参加総数213名の大規模な会議となった。同大会の主旨は,要約すると「会おう,話そう,つなげてみよう」であり,活動の裾野を広げていこうとするもの。および,「学生として何ができるか」という行動方針の検討であった。
 以後,毎年秋に全国会を開催し,多くの参加者を集めている。この大会は,試行錯誤している医学生たちの情報交換の場として大きな役割を担っており,参加した学生たちにも,「国際保健のイメージが深まった」,「どのような活動ができるのか可能性が見えた」という声が少なくない。
 国際保健学生フォーラムは,まだまだ組織されて間もない団体である。そのため,組織運営自体の試行錯誤も少なくないようだ。しかし,最近は定期的な勉強会も軌道に乗りつつある。今後とも,国際保健学生フォーラムは国際保健に関心を抱く学生たちにとって,活動報告の場として,あるいは情報収集,交流の場としてセンター的な役割を担いつづけ,発展していくものと思われる。

国際保健研究会

 「国際保健研究会」とは,国際保健を基軸として,国際協力をテーマに調査,研究,発表を続けている研究団体である。
 約100名の会員を有し,規模的には最大である。また,そのバックグラウンドは多様性に富み,35大学にもわたる学生が活動し,NGOスタッフ,医師,大学教官,ジャーナリスト,作家など多岐にわたる社会人が支えている。
 会の主な活動は,月刊誌「国際保健通信」の発行,年2回の研修旅行の企画,年1回の「国際協力ワークショップ」という報告会の開催である。
 「国際保健通信」は,会員の投稿による情報発信の場として提供されており,その内容のほとんどが海外における活動報告と考察で占められている。研修旅行は,後で紹介する長期観察地の訪問である。そして,国際協力ワークショップは会員の活動による知見をディスカッションする場である。
 国際保健研究会がこのような活動を始めるに至ったきっかけは,1992年のカンボジア訪問にさかのぼる。筆者を含む学生3名が,カンボジアの教育大臣の協力を得て,プノンペン大学留学のビザを発行してもらった。そして,まだ復興の足取りもままならぬカンボジアの,プノンペン大学の学生と交流し,英語書籍の援助を行なったのである。しかし,関心はやがてNGO活動へと移り,その評価を試みようと考えるようになる。
 「プロジェクトを推進している村や病院の入院患者にとって,NGO活動が効果的であることに異論はない。けれども,その恩恵に与かっている人々は,カンボジア人の中ではごく一部にすぎない。それでは,一般のカンボジア人にはどのような影響があるのだろうか」
 そのような思いから,カンボジア農村をフィールドに村落調査が始められたのである。現在,国際保健研究会は3つの長期観察地を指定し,調査を繰り返しながら,観察地それぞれのテーマを追究している。
 カンボジアのコンポンスプー県プノムスロイ郡にあるテインスララウ村では,国際保健研究会が1994年にはじめて訪れて以来,帰還難民,水衛生などをキーワードに観察を続けている。また,同村ではNGOが直接活動していないため,都市や近郊における援助活動が間接的にどのような影響を及ぼしているのかを評価することも行なっている。
 ネパールのブータン難民キャンプに隣接するウラワリ村でも調査が続けられている。ここでは,物価,失業率などの経済的指標を足がかりに,難民キャンプが地域住民に与える影響をテーマとしている。
 ラオス北西部のメコン河沿いの交易中継地点のウラワリ村は,ダム開発予定地として注目されていた。東南アジア全体が経済不安にあるため,今後の開発計画の行く末は不明確だが,ラオスが鎖国状態から開放近代化の道筋にある限り,この村は大きくゆれつづけることだろう。国際保健研究会では,とりわけ保健医療の立場から,ダム開発や近代化が地域住民にどのような影響を与えるのかを,ここで観察を続けている。
 国際保健研究会の主たる目的は,ひとことで言って「国際保健のビジョンを提案する」ことである。国際協力の盛り上がりの中,筆者らは学生として,その支援活動の状況を学習し,評価していくことこそが課せられた使命だと考えている。

カンボジアにて(筆者撮影)
調査対象の村で,水浴びをする子どもたち(左)とカンボジアの少年兵(右)
 内戦は子どもたちをも動員する。この平和に見える村の子どもたちもいつの日か戦火にさらされるかもしれない

医学生主体の国際保健関連団体
設立 会員数 
アジア医学生連絡協議会 1979年 62人
  http://square.umin.ac.jp/amsaj/
国際保健研究会     1979年 103人
  http://square.umin.ac.jp/ihf/
国際保健学生フォーラム 1996年 56人
  http://square.umin.ac.jp/forum/
(1999年3月1日現在)