医学界新聞

 

第7回総合診療研究会開催される


  さる2月27-28日,東京・文京区の順大有山記念館講堂,他において,松本孝夫会長(順大助教授)のもと,第7回総合診療研究会が開催された。
 松本氏は会の冒頭に,「現在,高度に分化した専門医療だけでは対処できない事態が起こっており,今まさに『総合診療』が求められている。しかし,他の専門診療部門からの理解は十分ではない。対外的な評価を得る努力をしなければならず,そのためにも総合診療における研究の分野や方法論を確立しなければならない。このような学問的背景の確立が急務との認識のもとに,今回は研究の方法に関するテーマに重点を置いた」とし,今研究会の趣旨を語った。
 研究会は,Rober Brain Haynes氏(マクマスター大)による特別講演,Setsuko Hosoda氏(ワシントン大)による「Family Medicine Training in the United State」と題した講演をはじめ,「臨床疫学・臨床決断」,「臨床教育」,「卒前教育」,「終末期医療」,「医師患者関係」,「総合診療」,「救急医療」,「臨床」の8つのテーマに基づいた55題の一般演題が発表され,また16の施設紹介が行なわれた。


臨床決断を現場に生かす

 一般演題「臨床決断」では,八森淳氏(青森県国保百石病院)がN-of-1 Trial(single patient randomized controlled trial)を入眠障害,中途覚醒伴う慢性的不眠患者に施行。brotizolamとestazolamを比較検討して治療決定を試み,brotizolamが有効との結果に対して,実際に患者や他医の同意を得て治療に反映させた症例を報告した。
 また永田志津子氏(京大)は,専門的知識を持たない一般医が臨床決断分析を行なうことを目的に,京大,ベイラー大等により開発された臨床決断サポートシステム「WEDS」(Web and Evidence-based Clinical Decision Support System)について紹介。これは利用者がインターネット上で,Decision Analysis by TreeAge(DATA)で作製された決断分析モデルにデータを送ると,指定した解析を行なった結果が利用者のブラウザー上に表示されるもの。このシステムにより,簡便かつ迅速に決断分析が可能になることから,日常診療における臨床決断の新しい可能性を示唆した。
 一方「臨床教育」では,黒川健氏(北大)が,地域医療の実践に役立つ公衆衛生教育システムで国際的に有名なタイ・マヒドン大大学院で「プライマリ・ヘルス・ケア」を学んだ経験を,さらに浅井篤氏(京大)はオーストラリア・モナッシュ大学生命倫理学センター大学院で「生命倫理」の修士課程を取得した経験をそれぞれ報告。かねてから日本の医学教育に欠けていると指摘されてきたこの2領域について,両氏はそれぞれ日本における教育システムの確立を訴えた。

研究の方法論確立に向けて

 松本氏の言葉を受けて,参加者全員が少人数のグループに分かれて行なわれるワークショップでは,総合診療における研究を進める上で必要となる研究手法をテーマとした3題と,総合診療部門においてその役割が期待されている臨床研修をテーマに1題が企画された。各テーマは以下のとおり(かっこ内はコーディネーター)。
(1)リサーチネットワークの構築(京大 福井次矢氏)
(2)Qualitative Research-定性的研究(自治医大 五十嵐正紘氏)
(3)健康状態や医療の質を測定する質問表のつくり方(佐賀医大 山城清二氏)
(4)臨床研修に役立つ学習方略(佐賀医大 小泉俊三氏)
 (1)(リサーチネットワーク)とは,多数の医師が,研究テーマの発案からプロトコルの作成,データ収集・解析,論文作成までの各段階で役割を分担することで,さまざまな診療の場の患者を対象に,迅速にデータを収集できるというメリットを提供する場として,インターネット(メーリングリスト)を介して協力し合うことを目的に,前回(第6回)提案されたもの。福井氏はこの1年間に浮上したさまざまな問題を参加者に投げかけた。そして,このリサーチネットワークの役割について,会員の研究の関心領域,施設・教室の特色,規模などの情報をオープンにし検索可能にすること,また研究テーマを発案する際には,発案者は情報・データ収集の時点で参加者,協力者を募るようにするなどの,大きく2つの方向性が確認された。
 総合診療領域では,患者の健康状態や医療の質を測定する質問表(questionarre)を用いての臨床研究が多く行なわれるが,(3)では,その基本的な考え方,作成法について,コーディネーターの山城氏が概説した。