医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳波そのものの本質まで考えに入れた知識が身につく好書

脳波判読に関する101章 一條貞雄,高橋系一 著

《書 評》飯沼一宇(東北大教授・小児科学)

1つの章を見開き2頁にまとめて

 本書は題名のとおり,脳波判読に関するいわば教科書である。著者が序で述べているように,脳波の判読にあたって必要な知識を2頁ごとの章でまとめてある。1つひとつの章が見開き2頁にまとめられているので,読みやすく,知識の整理にも役立つように配慮されている。
 それぞれ関係のあるいくつかの章をPart1-15に分類している。各Partは「脳波とその記録方法」,「脳波波形の種類」,「律動性波形」,「睡眠脳波」,「てんかんと関連疾患の脳波」,「脳波判読に関する解剖・神経生理」,「小児・思春期の脳波」,「老年期の脳波」,「意識障害の脳波」,「薬物による脳波」,「各種疾患の脳波」,「脳波の賦活法」,「アーチファクト」,「誘発電位」,「脳電位分布と脳磁図」となっている。

難解な脳波の基本的知識をわかりやすく

 これらの中で,特に脳波を判読するに当たっての基本的知識となる記録法や波形の起源からみた考え方などは,通常の脳波の教科書では,最初の章にまとめられていて,しかも難解であることが多い。ともすると読みとばしてしまいがちな部分である。本書ではそれぞれが短く,簡潔にまとめられておりイラストも豊富で読みやすく理解しやすい。
 また随所に神経生理学の基礎的な記述があり,脳波を単にパタン認識だけに留まらせないようにする著者の意図が表れているようである。例えば,第26-27章には睡眠紡錘波の発生機構と睡眠段階による脳波波形の成立機構が解説されている。
 また,36章の中心側頭部棘を持つ小児期良性てんかんのRDの発生機構は,著者が長年にわたって主張している点だが,一読の価値がある。
 硬い文章を読んだ後のところに「サイドメモ」があるのも,一服の清涼剤のようで,ホッとするところもある。
 しかし,評者からすると,各章の並べ方にもう少し工夫があってもよかったのではないかと考えるのは言い過ぎであろうか。例えば,「各種疾患の脳波」のPartの後に「脳波の賦活法」と「アーチファクト」のPartが配されているが,通常脳波判読の手習いとするならば,もっと前で読んでおくべきことなのではないかとも思える。脳波を知り尽くした著者のことであるから,それなりの考えのもとに配慮したのであろうとは思うが。
 いずれにせよ,脳波をこれから勉強しようとする人に脳波そのものの本質まで考えに入れた,地についた知識を身につけるには好適な書であることは間違いない。
B5・頁224 定価(本体4,500円+税) 医学書院


大腸癌診療の情報を集約した時代に即したマニュアル

大腸癌診療マニュアル 小西文雄 著

《書 評》山中桓夫(自治医大附属大宮医療センター助教授・消化器内科)

 坂本賢一氏は,その著書『先端技術のゆくえ』(岩波新書)の中で技術と社会の関係についての歴史的変遷を,技術が宗教に仕える宗教の時代,そして国家(政治)の時代,経済の時代を経ていまや技術の時代に入っているとしている。ここで技術の時代の技術は,科学と技術が一体となった情報中心の,技術の技術で武装された高度先端技術であり,経済も政治もこの高度技術に奉仕する時代であるという特質を持つという。そして,次に到来すべき時代は“人間(民衆)の時代”であることを一抹の不安を抱きながら予想している。
 私の読んだこの書(第6刷)の発刊が1990年であるから,もしかすると時はすでに氏の予想された“人間の時代”に入っているかもしれない。少なくとも,医療の現場においては,“人間の時代”に到達しつつあると言えるかもしれない。例えば,カルテ開示の推進や患者に対するインフォームド・コンセントの重要性は広く認識されているところであり,またより質の高い治癒が常に求められる現状にある。未だ続いているかもしれない今世紀の“技術の時代”において医療技術も飛躍的進歩を遂げたことに異論を唱える人はいないであろう。現在,この集積された情報技術を現場の医療に反映させ,患者に対し“人間の時代”に即した質の高い医療をいかに達成するかが問われているのである。

All in oneの超高性能小型ノートパソコンのような充実感

 消化器疾患においても種々の,まさに驚愕すべき医療情報技術の進歩が展開されている。この急速に進歩変容する情報技術を的確に身につける最良の方法は,優れた専門医による成書を熟読することであろう。この度,大学における教育者であると同時にきわめて優れた臨床医である小西文雄博士によって『大腸癌診療マニュアル』が上梓された。一読するにまさに時代に即した素晴らしい内容が,わずかA5判110項の小著に集約されていることに驚嘆の念を禁じ得ない。一言で表現するのは難しいが,言わば“All in oneの超高性能小型ノートパソコン”を手にしたような充実感があった。
 具体的には,全体の構成が「大腸癌診断の手順」に始まり,「術後follow upのスケジュール」「血行性転移,再発癌の治療」に至るまで臨床および病理学的観点から大腸癌診断において必要な事項が完全に網羅されていること。記述が箇条書きで知りたいポイントが素早く見出せ,しかも,最新情報がOne-point Lectureとして要領よくつとめられており,錯綜する最近の種々の情報を整理して理解できること。必要にして最小限の関連文献が文中に示されていることなどが特徴としてあげられる。

手放せない1冊に

 さらに特筆すべきことは,博士が自治医大消化器一般外科において長年集積した独自のデータが随所に示されており,そのデータに基づく記述には自ずと迫力と説得性がある。そして,そのデータが全国集計データと対比され,常にグローバルな視点から解説されていることも内容の信頼性を高めている。博士の学問に対する真摯な態度と明晰な頭脳が汲み取れる。“序”において,「一般外科の修練課程にある若い外科医を対象に」本書を上梓したと述べられているが,むしろ,消化器に興味を持つすべての医師に奨めたい。事実,本書を手にしてわずか1か月たらずの期間に外来や病棟などに白衣のポケットにねじ込んで持ち歩き,折りに触れてアンダーライン,書き込みなどをしたため,すでに手垢に汚れているが,内科医の私にとっても手放せない1冊となっている。
A5・頁168 定価(本体4,500円+税) 医学書院


解剖学に重点をおいた頭頸部画像診断テキスト

頭頸部画像診断ハンドブック
断層解剖から学ぶ鑑別診断
 H.リック ハーンズバーガー 著/多田信平 監訳

《書 評》蜂屋順一(杏林大教授・放射線科学)

 人類が現在使用している言語は優に3000種を超えるというが,これらの言語に共通の最大の特徴は,互いに翻訳可能なことである。人間の言語である限り,どんな外国語でも日本語に翻訳できないことはない。しかし,実際に翻訳の作業をしてみると,その過程で実にいろいろな困難が生じ,訳者は苦しむ。正確で読みやすい翻訳をめざすほどその苦しみは大きい。本書の監訳者である多田信平教授は「翻訳は1度経験すると,2度とやらないと思いながらまた手を染めてしまう作業のようである」と述懐している。
 しかし,本書において監訳者とその訳者陣はきわめて質の高い翻訳テキストを完成させた。これは1つには,訳者がいずれも頭頸部の解剖と画像診断を熟知した専門家であること,また1つには監訳者が言語表現に関しては人も知る厳格派で,“semantic radiologist”の最右翼とされる多田氏なるがゆえと思われる。訳語には細部にわたって慎重な吟味が加えられており感心させられる。例えば鼻副鼻腔の病態および画像の理解に,最近では“ostiomeatal unit”の概念が用いられるようになってきたが,その日本語訳には今まで適切なものがなかった。本書ではこれに「洞口鼻道系」と正確にして巧妙な訳が与えられている。またparapharyngeal spaceなどの「para-」は「傍」ではなくて「旁」であるという。その根拠も述べられている。

日常の画像診断業務にすぐ役立つ

 原著者ハーンズバーガーのねらいは,日常の画像診断業務においてすぐに役立つ実用書であること,通常の知識よりもう少し突っ込んで調べたい時のよきガイドとなること,いかなる画像診断手法を用いるとも決して変わることのない基礎である解剖そのものに重点をおくこと,のようである。この企図は訳本においても十分に配慮され工夫がなされている。
 A5変型のコンパクトサイズで,鮮明なシェーマと要点をまとめた表が多数用いられており,全544頁のQ&Aスタイルである。本書は4部20章から構成されている。第1部は計242頁をあてて最も長く,「舌骨上,舌骨下頸部の画像診断」が詳述されている。第2部はユニークで「原発性扁平上皮癌とそのリンパ節転移の画像診断」として咽頭,口腔,喉頭,副鼻腔の癌をまとめて取り扱っている。第3部は「顔面の画像診断」として眼窩,副鼻腔炎,そして第4部が「頭蓋底と脳神経の画像診断」で頭蓋底,側頭骨,脳神経,感音性難聴について解説されている。
 通常の教科書と異なり,本書には画像写真が1枚も使用されておらず,すべてシェーマであり,しかもそのほとんどは正常解剖を示すものである。したがって本書は正規の画像診断テキストの代用となるものではなく,その補助的性格のものであるが,頭頸部の画像診断に際し座右に備えて活用すれば,実に有益な書物であることは疑いをいれない。外科医,耳鼻科医,放射線診断医,放射線治療医などこの領域に関連のあるすべての医師に自信をもって推薦したい。
A5変・頁544 定価(本体9,400円+税) 医学書院MYW


本邦初の本格的な植込み型除細動器の参考書

植込み型除細動器の臨床
日本心臓ペーシング・電気生理学会 植込み型除細動器調査委員会 編集

《書 評》上田慶二(都多摩老人医療センター院長)

 心室細動(VF),心室頻拍(VT)による心臓突然死を瞬時にして救いうる植込み型除細動器(ICD)は,医学とMEの協力による賞賛すべき近代治療学の進歩の1つである。
 1960年代に友人を心臓突然死にて失った米国・ジョンホプキンス病院のDr.Mirowskiが体内に電気的除細動器を植込むことを発案して以来,約30年の期間に植込み装置の改良と臨床経験が積み重ねられ,ICDは重症心室性不整脈を対象とする比較試験においてアミオダロンなどの抗不整脈治療より優れているとする成績がみられ,今日VT/VFによる突然死予防の最終的治療法と位置づけられている。
 しかし,現在第4世代を迎えたICDも未だ開発途上にあり,植込み適応の決定,植込み術の手技,ICDの条件設定ならびに術後フォローアップなどの各段階においてなお問題が山積し,その実施には十分な知識と習熟を必要とする。そのためわが国では1996年にICDに対して健康保険適応を認め,ICD植込み医療機関の要件を定めるとともにICD植込み医について研修の受講を義務づけている。
 日本心臓ペーシング・電気生理学会はICD植込み療法の健全な発展と適正な利用,普及を目的として研修制度を発足させ,定期的に本法に対する講習会を開催し,ICDに関する基礎知識とその応用に関する講習を継続している。

ICDのノウハウを詳述

 本書は同学会ICD調査委員会が企画し,これらの講習会の講師を務める斯界の第一人者である10人の著者が,これらの講習会のテキストに基づきICDの「ノウハウ」を詳述したもので,わが国では他に類をみない初めての有益なICDの参考書である。今後新たにICDとその植込み術の学習を計画している医師にとってはもちろんのこと,すでにICD植込み術の経験のある医師にとっても必見の書として推奨する。
B5・頁186 定価(本体4,000円+税) 医学書院


第1級の写真を集めた消化器内視鏡アトラス

Atlas of Gastroenterologic Endoscopy
by High-Resolution Video-Endoscope
 長廻紘,他 編

《書 評》鈴木 茂(東女医大教授・消化器内視鏡科学)

時代が要求する書

 医学の領域でも,その時代が要求している斬新な書物を作るということは大変重要であるし,大変難しいことでもあります。ことに英文の学術書を出版することは並大抵のことではできません。この度,藤盛孝博,星原芳雄,田淵正文の3先生と共同編集でAtlasを出版された長廻紘先生は,この仕事をいとも簡単に,そして的確に成し遂げる素晴らしい才能をお持ちの方だと,いつも感嘆しております。だから先生の出版される書物は,時宜を得た簡潔なもので,多くの読者に歓迎されるのです。

美しい内視鏡写真をふんだんに

 本書も先生のこの哲学のような思想から作り出された,大変簡略で,わかりやすいアトラスであります。ここには食道から大腸までの高解像(high-resolution)内視鏡写真が美しく,実に鮮明に大きく印刷され,英文の解説はあくまで簡略に,必要最低限ですましているのは何ともありがたいものです。医学書のアトラスというものは,何といっても,そこにあげられている写真が生命であります。本書の内視鏡写真は見事なものばかりです。そもそも,通常の拡大内視鏡の写真はコマ全面が焦点よく,求めるものが的確に捕らえられているものが少なく,大きく引き伸ばしても満足できるものを撮るのに大変苦労することは,多くの内視鏡医が経験していることです。
 わが国の消化器内視鏡学のレベルは世界のトップにあり,それが日本国内のどこに行っても高く維持されているということはご承知の通りです。しかし,このことが必ずしも諸外国に正当に評価されているとは限りません。それは,現在の消化器内視鏡学にたずさわる私ども内視鏡医の責任でもあります。そこには言語という大きな障壁があるからであります。本書のような学術書がより多く出版されることで,この障壁が消え,欧米の臨床家にわが国のレベルを正当に評価していただくことができるのです。
 一方,拡大内視鏡は消化管粘膜の病態を病理の顕微鏡観察に近い水準で,表面からとらえようとするものでありますし,走査電顕像とをつなぐ役目も果たすものであると理解されます。その意味では,今後ますます発展する領域でもあります。そして,これを支えるのは解像力の優れた高解像内視鏡を提供してくださるメーカーの技術であります。私どもは幸いにもこの優れた機械とそれを使いこなす技術が身近にあることに感謝しなければなりません。
 本書をじっくり読んで,高解像内視鏡とは何かをこれからの若き内視鏡医に学んでほしいと思います。
A4・頁170 定価(本体15,000円+税) 医学書院


臨床医が精神症状を持つ患者さんと向き合う時に

内科医のためのうつ病診療 野村総一郎 著

《書 評》高木 誠(済生会中央病院・内科)

 最近,内科医を対象とした精神医学の解説書がつぎつぎと発刊されている。私にとっての精神医学の勉強は,数年前に浜田晋先生の『一般外来における精神症状のみかた』(医学書院)を読んだ時に始まった。この本を読み終えた時の衝撃は今でも忘れられない。内科医も精神症状や精神疾患を持つ患者さんに対し,もっと真剣に取り組むべきことをつくづく思い知らされた。続いて宮岡等先生の『内科医のための精神症状の見方と対応』(医学書院)を読んだ。この本は,身体医学の思考過程に馴染んだ内科医にとってわかりにくい精神症状の理解を,内科医向けに理路整然とした形で提示してくれた。そしてこの度,医学書院からこのシリーズの第3弾ともいえる,防衛医大精神科の野村総一郎教授による『内科医のためのうつ病診療』が上梓された。本書は前2書からさらに突っ込んで,日常診療の中でみられる精神疾患の中でも,最も臨床的に重要性が高いうつ病に的をしぼった解説書である。

うつ病とはどのような疾患か

 内科医向けに精神医学の解説書が多く発刊される理由は,著者の指摘するように,うつ病をはじめ多くの精神疾患の患者さんが,まず内科を受診することが多いにもかかわらず,診療するわれわれ内科医は,精神症状の見方や精神疾患についてのきちんとした臨床教育を受けていないという点にある。これは内科医の立場からみても,残念ながら認めざるを得ない指摘である。たしかに身体的異常がみつからない患者さんに対して,「何でもない。気のせいです」という応対で終わったり,著者が戒めているような「自律神経失調症」という低レベルの診断名をつけて安心したりしている状況がある。しかし,この中に「治る病気」であるが,放置すれば「死に至る病気」であるうつ病が隠されているとしたら内科医としての責任は重大である。内科の初診患者の6.0%はうつ病であったという報告は驚きであるが,全人口の約15%は生涯に1度はうつ病にかかるとすると,この数字は決して誇張されたものではあるまい。内科医はもっともっとうつ病の診断と治療に関心を持たなければならない。
 内科におけるうつ病の診断は身体疾患が否定的である時に,まずうつ病ではないかという「あたりをつける」ことから始まる。そして次に「積極的な探り」を入れていく。本書では,内科の診療の現場でうつ病の診断をどのように進めていくべきか,どのような時に精神科医にコンサルトするべきかなどの具体的な点が懇切丁寧に解説されている。決して難解な精神医学の用語を用いることなしに,わかりやすい言葉で書かれている点が,何よりも読みやすく嬉しいところである。

精神科医にコンサルトする時

 また,著者はうつ病の診断がついたら,すぐに精神科医に回すのではなく,ある程度は内科医も治療を行なってみるべきであるという立場をとっており,治療の始め方や抗うつ薬の使い方についても解説を加えている。これは内科医にとってもありがたいことで,どんな疾患でも診断だけでなく,治療効果を身をもって経験することが,さらにその疾患に対する関心を高めることにつながるからである。しかし,同時に「うつ病侮るべからず」と,内科医にとっての治療の限界,精神科医へ紹介すべき状況についてもきちんと述べられている。また,本書の最後には余録として,うつ病の病因論の章があり,この問題についての筆者の考え方が述べられているが,門外漢にとってはうつ病とはどんな病気かを理解する上で大変参考になった。
 本書の内容は内科医だけでなく,広くプライマリケアの第一線で診療されている先生方の参考になることは間違いない。ぜひご一読をお勧めしたい。
A5・頁140 定価(本体2,500円+税) 医学書院