医学界新聞

第53回日本消化器外科学会総会開催


 “21世紀へのかけ橋-総括と飛躍”をテーマに掲げた第53回日本消化器外科学会が,小玉正智会長(滋賀医大教授)のもとで,さる2月18-19日の両日,京都の国立京都国際会館において開催された。
 小玉会長は,「わが国の外科的治療,特に悪性腫瘍分野における今世紀の歴史を振り返ってみると,腫瘍をen blocに摘出する拡大郭清の道を辿ってきたが,その一方では,近年拡大郭清が予後と結びつくとは限らないことや,内視鏡下手術の開発による低侵襲治療の可能性の拡大から,腫瘍の進行度に応じた至適郭清や縮小手術の重要性が問われるようになってきた」と指摘。「20世紀最後の年を迎えるに当たり,われわれ外科医は,永年にわたり蓄積してきたそれらのデータをより詳細に検討することにより,QOLや予後を考慮した至適な術式を再検討すべきであると考える」と今回のテーマの意図を説明した。
 学会では会長講演「食道癌治療とともに」の他,特別講演4題,招待講演3題,シンポジウム6題,ワークショップ7題,パネルディスカッション6題,ビデオシンポジウム3題,ビデオセッションが企画された。


成人生体部分肝移植の適応と問題

脳死による臓器移植を前にして

 「高知赤十字病院に,臓器提供の意思表示カードを持つ脳死状態の患者さんがいる」と報道されたのは,同学会開催1週間後の2月25日夜のこと。その後,2度にわたる慎重な脳死判定作業を経て,心臓移植が阪大において,また肝臓移植が信州大で実施されたのは周知の通りである。医療界のみならず,広く社会的にも多くの話題を投げかけ,脚光を浴びたわが国初の「脳死者からの臓器移植」は,さまざまな波紋を投じつつも,移植医療の歴史に新たな,また記念すべき1頁を加えた。
 かつて,わが国の移植医療の第一人者とされる田中紘一氏(京大教授・移植免疫医学)は,移植医療の現状について,本紙年初の「新春インタビュー:“1999年の臓器移植”」(1月18日付,第2322号)で,「(臓器移植法が施行されてから)この1年間,1例も脳死移植はなかったものの,日本における移植医療の確立に向けて一歩も二歩も前進したことは間違いありません。(中略)欧米のような移植先進国の歴史を振り返ってみても,一朝一夕に今日の医療を実現しているわけではありません。日本における現在は,臓器移植法の精神に則って,さまざまな分野の方が,移植医療の確立のために地道な努力を重ねている段階だという認識です」と語った。
 また,「臓器移植に関わる医療者として取り組んでいくべきことは?」という問いに対して,次のように答えている。
 「私たちも地道な努力を続けるしかありません。具体的に言えば,脳死移植が実施できない以上,取り組むのは生体移植ですが,その移植医療を受けた人たちをできるだけ健康な体にして生活の場へ戻すということです。そして,その方たちがいろいろなところで活躍をする。あるいは学校で楽しい生活を送る。そういう人たちが増えれば増えるほど,社会の移植医療に対する理解は深まっていくのだと思います」

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 同学会の第1日目(2月18日)には,パネルディスカッション「成人生体部分肝移植の適応と問題」(司会=田中紘一氏,東大 幕内雅敏氏)が開かれ,奇しくも今回の移植手術を担当した施設からの演者を含めた7名のパネリスト(九大 西崎隆氏,日大 高野靖悟氏,北大 古川博之氏,東女医大 小山一郎氏,信州大 橋倉泰彦氏,東大 高山忠利氏,京大 阿曽沼克弘氏)によって,成人生体部分肝移植の適応とその諸問題が討議された。

劇症肝炎に対する肝移植

 西崎隆氏は,特に劇症肝炎患者に対する成人生体肝移植について検討し,「適応として,(1)肝性昏睡 III 度の患者1名,肝性昏睡 IV 度の患者4名が移植後,いずれも神経学的欠損なく社会復帰しており,肝性昏睡 IV 度の患者までは移植可能。(2)GV/SV比27%の患者が術後肝不全なく健在しており,肝グラフト容積の許容下限は30%以下に拡大可能」と報告。
 また,問題点として次の諸点を指摘した。
(1)レシピエントの移植適応評価とドナーの同定,評価は緊急を要し,転院前から主治医との緊密な連絡と患者を受け入れる病院側の整備が重要
(2)レシピエントの病状変化が急速なため,ドナーへの精神的負担が大きいので,精神的に不安定となる可能性のあるドナーには精神科へ早期にコンサルトし,ドナーとしての適応を評価する
(3)生体肝移植は保険適応となったが,劇症肝炎の場合は15歳以下に限られる。約1千万円負担は過大であるので,16歳以上への劇症肝炎への保険適応が望まれる
 次いで高野靖悟氏は,日大における自験例を検討し,
(1)ドナーの年齢が比較的高齢になってしまうことによるグラフト肝の再生力の問題が上げられ,脂肪肝の合併率が高かったPNF(primary non function;早期機能不全:米国ピッツバーグ大で多くの肝移植を手がけた藤堂省北大教授の今回の脳死移植に関するコメントによれば,脳死者からの移植肝臓では5-8%の確率で起こる)症例はなかったが,術後肝機能になんらかの影響を及ぼしていると考えられる
(2)グラフト肝重量の問題は拡大左葉,右葉切除で解決できる
(3)亜急性劇症肝炎は早期に肝移植を施行することが生存率の向上に重要
(4)術後の肝機能,血小板数が正常領域に復するまで時間がかかり,出血量,移植時の低いGV/BW比,グラフト肝の再生力の問題がある と問題点を述べた。

成人生体肝移植の必要性

 古川博之氏は,まず日米における次の具体的な数値を示して「成人生体肝移植の必要性」を指摘し,北大の肝移植に対する方針を,
(1)脳死肝移植を推進すること
(2)相補的に生体肝移植,特に成人生体肝移植を安全に行なう方法論を構築すること
(3)肝移植の本来の目的である,あらゆる末期肝疾患患者の救命をはかること
と紹介した。

 アメリカ日本
年間肝臓病死10,00040,000
年間ドナー数
 脳死 5,5000
 生体   60以上150
症例数
 小児15%80%
 成人85%20%

 北大で1997年以降に行なわれた生体肝移植は次の10例([レシピエントの]年齢,性別,疾患名,[ドナーの]関係,年齢の順)。
(1)22歳,男,劇症肝炎,父,55歳
(2)47歳,女,原発性硬化性胆管炎,妹,43歳
(3)53歳,女,肝硬変(原因不明),息子,30歳
(4)55歳,女,C型肝炎,娘,31歳
(5)20歳,男,先天性胆道閉鎖症,父,51歳
(6)41歳,女,劇症肝炎,姉,46歳
(7)56歳,女,劇症肝炎,息子,25歳
(8)16歳,男,先天性胆道閉鎖症,姉,23歳
(9)43歳,女,原発性胆汁性肝硬変,夫,44歳
(10)57歳,女,原発性胆汁性肝硬変,娘,31歳
 古川氏は,上記の中で「APOLT(auxiliary partial orthotopic liver transplantation:補助的局所性生体部分肝移植)」を行なった亜急性劇症肝炎3例についても言及し,「術後経過も良好であり,全例社会復帰している」と報告した。

成人と小児の比較

 小山一郎氏は,1995年4月から1998年12月までの間に東女医大で施行した生体肝移植例49例を対象として,成人群(14例)と小児群(35例)の2群間における(1)生存率,(2)グラフトサイズ,(3)腹水(補正用血漿分画製剤使用量),(4)総ビリルビン値,(5)在院日数(手術日より退院日まで),(6)レシピエントに要した医療費(術前から退院時まで),(7)死因,などの点を比較して,以下のように報告した(成人群は19歳から53歳[平均38.6歳],性別は男性4例,女性10例,平均体重50.0kg)。
(1)生存率は成人群73%,小児群80%
(2)グラフトサイズは,成人群33.8%(生存例35.6%,死亡例29.8%)
(3)死因は,成人群では劇症肝不全,原因不明の肝硬変,小児群では重傷感染症,早期移植肝機能不全,出血性脳梗塞,肝炎再発,腹腔内出血など
(4)在院日数は,成人群85.6日,小児群57.4日
(5)医療費は,全体で1035万余円。成人群で1600万円弱,小児群は864万円余
 その結果を小山氏は,「(1)生存率においては両者間に有意な差を認めず,顕著な差を認めたのはむしろ疾患別であり,中でも劇症肝不全症例が不良であった。(2)グラフトサイズは体重比として成人間では有意に低値であり,術後8日目の総ビリルビン値および腹水の補正に要した血漿分画製剤の使用量に明らかな差を認めた。(3)在院日数および医療費はいずれも成人群が小児群を大幅に上回った。(4)主な死因を比較すると,両群とも全身性の感染症を高頻度に合併していた」と報告し,「成人群では投与薬剤量が多く,特に腹水補正用の血液製剤を大量に必要とし,経済的な面からも検討が必要」と付け加えた。

原疾患とその適応

 橋倉泰彦氏は,信州大学における成人生体肝移植の自験例をもとにその原疾患と適応との関係を次のようにまとめた。
(1)原発性胆汁性肝硬変=6か月以内予想死亡率:53.7%-99.7%[中央値:94.9%]
(2)家族性アミロイドポリニューロパシー=遺伝子検査+腹壁脂肪組織診
(3)シルトリン血症=肝組織酵素(ASA)定量
(4)劇症肝不全=亜急性型+内科的治療に反応しない
(5)原発性硬化性胆管炎=メイヨ・クリニックのリスク・スコアを参考
(6)胆道閉鎖症=成長障害,肝肺症候群
(7)糖原病(I a型)=成長障害+日常生活の阻害
 また,成人生体肝移植における葛藤として,(1)生体肝移植(ドナー・リスク),(2)成人生体肝移植(グラフト容積の限度),(3)左葉+尾状葉グラフト(尾状葉静脈),(4)右葉グラフト(ドナー・リスクの増大),(5)APOLT(残存肝vsグラフト)を指摘した。

尾状葉加左葉および右葉グラフト導入

 高山忠利氏は,レシピエントの要求に見合ったグラフト容積が得られ難いという成人生体肝移植の適応上の問題点について,「移植が成功するためのグラフト肝最小容積は,経験上レシピエント標準肝容積の“33%”である」として,尾状葉を付加した左葉をグラフトに用いる東大の新しい術式を紹介。これは,全左葉(中肝静脈を含む)に左側尾状葉(S-I+S-LX左半)を付加したグラフトを移植するもので,「尾状葉加左葉による成人生体肝移植は,左葉グラフト/レシピエントの“境界型サイズマッチング”を克服し,ドナーにも安全な新術式である」と報告した。
 また阿曽沼克弘氏は,京大における4年間の成人生体肝移植約50例をもとに右葉グラフトの導入を検討。
 成人症例には,グラフト肝のサイズマッチングや,血液型不適合間の移植,ドナー選択の複雑性など小児症例とは異なった特殊な状況にあることを改めて指摘し,「右葉グラフトを用いることによって,成人の生体肝移植の適応が拡大され,その成績も向上した。成人の生体肝移植のドナーは多様であり,複雑な家族関係を有している場合や,また緊急の移植などにおいて短時間で移植の決断をしなければならない場面もあり,ドナーの決定,術前術後のケアにもきめ細かな配慮が必要である」と強調して発表を締めくくった。
 同法第2条では,「臨床工学技士とは,医師の指示の下に,生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体への接続,または身体からの除去であって,政令に定めるものを含む),および保守点検を行なうことを業とする者」と規定。また,同法施行規則第32条では,「生命維持管理装置の操作」を,「(1)身体への血液,気体または薬剤の注入,(2)身体からの血液または気体の抜き取り(採血を含む),(3)身体への電気的刺激の負荷」としている。

記念シンポジウムの開催

 施行後10年を経た現在,臨床工学技士の有資格者は1万1千名を数えるに至ったが,同シンポの主催者は,「医療の中で,高度先端医療の一翼を担う臨床工学技士が,輝く医療職の1人として21世紀へと羽ばたく重要な時期であり,臨床工学技士の進べき道を模索したい」と述べ,「10年先を展望し,資質の向上に努めながら,医療機器の専門職として,機器の安全対策を推進し,経済性と高い安全性を兼ね備えた合理的な医療機器管理システムの構築を考えたい」と開催の意義を語る。
 同法成立当時の行政担当者であった阿部正俊氏(参議院議員・元厚生省保健福祉局長)の特別講演「日本の医療はどう変わる」に続いて,渡辺敏氏(北里大教授)と川崎忠行氏の司会のもとに開かれたシンポジウムでは,各種の医療関係者が以下のようなテーマを発表。その後の総合討論では,臨床工学技士をめぐる諸問題が論議された。
(1)シンポジウムの開催にあたり(厚生省健康政策局医事課長 松谷有希雄氏)
(2)手術室領域から(東大名誉教授・国際医療福祉大教授 都築正和氏)
(3)血液浄化療法と臨床工学技士(自治医大教授 浅野泰氏)
(4)高気圧環境治療と臨床工学技士(千葉大助教授 古山信明氏)
(5)麻酔科領域から(順大教授 釘宮豊城氏)
(6)医療機器管理諸制度と臨床工学技士((財)医療機器センター理事長 長谷川慧重氏)
(7)臨床工学技士養成校から(日本臨床工学技士教育施設協議会会長 橋本勝信氏)
(8)追加発言:臨床工学技士の業務実態と今後のあり方-(1)血液浄化領域から(日本血液浄化技術研究会副会長 山家敏彦氏),(2)人口心肺領域から(日本体外循環技術研究会副会長 武田正則氏),(3)医療機器管理領域から(日本ME学会,CE安全研究会幹事 加納隆氏),(4)呼吸器領域から(チーム医療CE研究会副会長 深澤伸慈氏)