医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸疾患に携わるすべての医師必携の1冊

大腸癌診療マニュアル 小西文雄 著

《書 評》多田正大(京都がん協会副所長)

 本書の著者・小西文雄先生は私が最も尊敬する外科医の1人である。私が消化器の手術を受けるとすれば,迷うことなく小西先生に執刀をお願いしたい……,そのような先生である。外科医としての卓越した腕を持ち,しかも時代の最先端をいく研究で学会を主導しており,まさに“今が旬”のリーダーである。
 小西先生は大腸疾患の病理と臨床のメッカとして名高い英国St. Mark's病院で研鑽したご経験があるが,その影響もあってか,特に大腸癌や炎症性腸疾患に関する豊富な手術実績と研究を継続している。その成果に対して,内外できわめて高く評価されているのは周知の通りである。それだけに本書は小西先生の得意の分野を,自らの経験に基づいて企画・構成しており,充実した内容になっている。大腸癌や関連疾患の診療にあたっての基本的な手技,諸注意事項やポイント,最近の話題に至るまでを要領よく解説した書籍であり,多忙な実地医家,短期間に多くを学ばなければならない研修医にとってありがたい手引書,入門書である。

大腸癌診療のアラカルトが満載

 本書は診察のコツ,便潜血検査から始まって,内視鏡治療,外科治療はもちろん,予後に至るまでの大腸癌診療のアラカルトがこのコンパクトな書籍に満載されており,もちろん消化器科専門医にとっても便利な参考書である。注腸X線検査や内視鏡検査の項は頁数の関係で縮小せざるを得なかったようであるが,治療と予後の項は大著に負けないほど充実しており圧巻である。著者の外科医としての大腸癌診療にかける意気込みと情熱を表わす真骨頂であろう。
 内科医は大腸癌を発見して外科へ患者を送れば,あと(予後)は知らないことが多いが,臨床で本当に大切なことは外科治療後に患者がどうなったのか……である。本書を通読して,改めて大腸癌の予後の重要さが感じられるし,逆に早期診断の重要性についても教えられることが多い。患者のためになる診療を実践している小西先生のポリシーを知ることができる構成であり,診療マニュアルといえども,内科医ではとうてい書けないようなすばらしい内容であり,改めて感服させられる。

信頼できるハンドブック

 記述されている文章は簡潔明瞭で,難しい診療のコツが理解しやすい。他人に自分の意思を明確に伝えるにはどうすればよいか,小西先生が日頃から考え,実践している手法をそのまま文章にしたものであり,読者にとって読みやすい。しかも白衣のポケットに入るコンパクトサイズであり,診療に困ったおりに気軽に取り出して読むことのできる信頼できるハンドブックに仕上がっている。日常臨床でうっかりすると忘れがちな項目が網羅されており,専門医を標榜する医師にとっても,研修医にとっても便利な必携の本が刊行されたことを喜びたい。マニュアルとはこうあるべき……,お手本になる書籍であるから,ぜひとも多くの読者に活用してほしいヒット作である。
A5・頁168 定価(本体4,500円+税) 医学書院


臨床脳波の判読に必要な事項を101章に凝縮

脳波判読に関する101章 一條貞雄,高橋系一 著

《書 評》吉本高志(東北大教授・脳神経外科学)

 本書は簡潔かつ明瞭,随所に著者の心意気が感じられるすばらしいものであります。臨床脳波の判読に必要な事項を,タイトルの通り「101章」にまとめていますが,おのおのは見開き2頁に収まり大変に読みやすい構成です。図譜はふんだんに取り入れられており,章によっては図とその説明のみで目的を達しているほどです。章ごとの参考文献には,記述されたトピックの原典となるべき文献が,必要かつ十分に収録されております。

脳波の異常所見の判定基準を詳述

 最初の第30章は,脳波の記録方法と正常波形を扱っています。特に,これから脳波を学ぶ者にとっては,効率のよい学習が約束されています。この部分における本書の特徴は,脳波の異常所見の判定の基準について詳しく述べられている点です。基礎律動の周波数低下や振幅の左右差など,日常の臨床で頻繁に遭遇する所見を,直ちに異常と決めつけないようにと述べています。また基礎波の発生機構についても,これまでの考えを整理して解説しています。
 第31章から第54章までは,てんかんを中心に述べられています。内容は,てんかん国際連盟(IALE)による「国際分類」に準拠していますが,随所に著者自身の言葉による解説が入っております。特に,発作間歇時の棘波が頭皮上で複雑に分布することへの解説は,著者が得意とする電流双極子の位置と方向性,さらには頭部導電率の不均一性による影響まで含めた解説があり圧巻です。

各疾患に特徴的な所見を症例とともに提示

 後半の各章は,さまざまな神経疾患ごとに出現する特徴的な脳波所見について,著者自身が経験した症例を提示しながら解説しています。初学者のみならず,ひと通りの臨床神経生理を学んだ者にとっても,知識を整理でき,また新たな発見もあるものと思われます。ここでは特に,選び抜かれた参考文献が役に立ちます。
 脳の検査法といえば,CTやMRIに代表される画像診断法を思い浮かべますが,脳波は臨床診断法として半世紀以上の歴史を持っており,機能的MRIや脳磁図などが注目される現在でも,機能検査法としての脳波の輝きは失われておりません。この時期に,臨床脳波の解説書として本書が果たす役割はきわめて大きいものと期待されます。
 著者は長年,脳波の臨床経験を積んで来られたのみならず,主に神経科学の領域で基礎から臨床研究まで幅広く勉強され,情報を収集されてきました。集めた情報を著者自身で十分に咀嚼した結果が,本書に凝縮されていると思います。
 初学者から臨床脳波の専門家,さらには神経科学に携わるさまざまな分野の諸先生に,本書を推薦いたします。
B5・頁224 定価(本体4,500円+税) 医学書院


日常診療で遭遇する不整脈症例をカンファレンス形式で

EPカンファレンス
症例から学ぶ不整脈・心臓電気生理
 宮崎利久 著

《書 評》山科 章(聖路加国際病院・内科医長)

 不整脈はとかく敬遠されがちである。不整脈の教科書をひもといても,活動電位やイオンチャンネル,リエントリーやトリガードアクティビティなどでつまづき,本題までたどりつけないのが本音であろう。筆者も研修医相手に不整脈カンファレンスを行なっているが,なかなか理解されず歯がゆい思いをすることも多い。不整脈が嫌いだから循環器をあきらめたという研修医もいた。かつては,不整脈には根治療法もなくイメージが暗いから嫌だという医師もいた。
 しかし最近では,不整脈の診断,治療も大きく変わってきた。アブレーション治療により一部の不整脈では根治が望めるようになり,植込み型除細動器により突然死を防ぐことも可能になってきた。同時に,こういった治療に必須である電気生理検査は,不整脈の発生機序の解明にさまざまな知識をもたらし,理論的かつ体系的な不整脈診断を可能にした。基本的知識さえ身につければ,初学者でもかなり複雑な不整脈の診断が可能になった。ただ,それを難しくしていたのは適切な指導者が少なく,理論的かつ明快に解説する教科書が少なかったことにある。

研修医と指導医の立場で解説

 ところが,最近そういった問題を解決してくれる本が医学書院MYWより出版された。日常臨床で遭遇しうる不整脈30症例を取りあげ,研修医と指導医という立場にたって不整脈の考え方・取り扱い方を電気生理の面から上手に解説した書である。読者はあたかも研修医になったような感じになり,指導医である著者から直接に教わっているような気にさせられる。難解な不整脈を診断し適切に治療していく間に次第に実力をつけていくような気になってくる。読者の知的好奇心をくすぐりながら進めていくため,読んでいて飽きがこない。“症例から学ぶ”とあるが,その30例は選りすぐりである。循環器科医をしばらくやっているといずれもいつかは遭遇しうる症例である。筆者もほとんどの症例は経験しているが,ここまで深く掘り下げて検討したことはなかった。読んでいくうちに著者の豊富な経験,幅広く深い知識,理論的な思考と治療戦略に触れ,学ぶことがとても多かった。エントレインメントや過剰伝導などの難解なメカニズムも症例の中で,しかもできるだけ平易に解説してあるので理解しやすい。サイドメモには各症例に関連した重要な電気生理現象や大切なポイントが解説されており,トピックスも盛り込まれている。それのみ読んでも十分なほどの価値がある。

9つのテーマレクチャー

 症例カンファレンスを補う形で9つのテーマがレクチャーとして巻末にまとめられている。動悸や失神の鑑別診断,各種治療のガイドライン,不整脈のメカニズムと薬物療法,不整脈と自律神経などであるが,最新の知識が折り込まれていて読みがいのある総説である。
 しいて難をあげれば,本書を読み込むには,ある程度の臨床電気生理の素地が要求され,初学者や多少の経験しかない者には少し難解である点であろう。臨床心臓電気生理のよい教科書がない現状では,いきなり心臓電気生理検査や心内心電図が出ると理解しづらい。できれば一章分を割いて,心臓電気生理検査の基礎,心内心電図の読み方,などが解説されていればさらに理解を深めるものと思う。
 いずれにしても,本書は内容の優れた書であり,不整脈についてもう少し勉強したいという研修医,内科医に自信を持って推薦できる良書である。さらに循環器科医を志す人には必読の書として推薦する次第である。
B5・頁296 定価(本体7,000円+税) 医学書院MYW


眼科日常臨床のよきパートナー

眼科診療データブック 増田寛次郎 編集

《書 評》澤口昭一(琉球大教授・眼科学)

コンパクトな「辞書」

 前東京大学教授増田寛次郎先生が編集された本である。それぞれの分野の眼科臨床,眼科研究の一線で活躍されている7名の専門家が分担で執筆されている。一読するまでもなくこれは教科書や専門書ではなく,非常にコンパクトにまとめられた辞書であることが容易に理解される。序に述べられているように,本誌のコンセプトは日進月歩の眼科学において,これまでに新たにつけ加えられた最新のデータ,知識を,日常臨床ですぐに知りたい時にすぐそこに手を伸ばすと届く距離に置いて利用でき,しかも利用しやすいという目的で書かれた本であるということは使ってみてすぐに納得できる。
 実際,書評を頼まれて本書が届いてから,ほとんど外来のテーブルの上に置いておいた。医局員に使い勝手を含めた評価をときおり聞いてみたところ,コンパクトに,しかも見たい項目がほとんど網羅されていること,さらに目次が項目ごとに明快でわかりやすく配列していること等々,非常に好評であった。またポリクリで回ってきた学生に,外来でショートレクチャーをする場合など,こちらの知識がややおぼつかない時にも本書はきわめて有用である(これまでは「嘘を言うこともあるから,後で必ず確認しておくこと」と言って煙に巻いていたが,もうその必要はない)。

外来でちょっと困った時にも便利

 細かな数値,鑑別診断,症候学,眼の解剖など項目ごとにコンパクトに読みやすく記載されており,編集諸氏の細かな配慮が伝わってくる。わがままを言わせてもらえば,ポケットに入るサイズ程度の大きさで同じようなものができれば,もっと携帯に便利かなと思ってしまうくらい日常臨床で役にたつこと請け合いである。
 内容については,図表はほとんどの場合その出典が記載されており,後にさらに詳しく検索する場合に役立つようになっているというきめの細かさもある。緑内障については専門と思っているので,その章はさらに少しばかり注意しながら読んでみた。この限られた頁数でよくこれだけと思うほど多くの数値,図表がぎっしり詰まっている(余白さえある)。
 欲を言わせてもらえば視神経乳頭の緑内障性変化,薬物治療からレーザー治療,さらに手術治療まで一貫してこの項目で取り扱ってもらえたらと思うのは望みすぎか(別の項目で述べられているが)。
 いずれにしろ外来でちょっと困った時にそのありがたさ,有用性がすぐに実感できる本であり,日常臨床のよきパートナーとなってくれること疑いなしである。
B5・頁344 定価(本体7,000円+税) 医学書院


リウマチリ・ハビリテーションの実践的ガイドブック

図説 リウマチの物理療法
病院での治療から自宅療法まで
 竹内二士夫 編集

《書 評》粕川禮司(福島医大教授・内科学)

 『図説 リウマチの物理療法-病院での治療から自宅療法まで』を読ませていただいた。

家庭で行なう運動療法,温熱療法

 本書が扱う慢性関節リウマチ患者は全国で50万人おり,関節の破壊と変形により身体障害を起こしやすい病気です。治療法としては服薬や注射などの薬物療法が中心ですが,温熱療法やマッサージ,体操などのリハビリテーションも大事な治療法です。時には手術療法も必要になる総合治療が行なわれます。リハビリテーションは病院で行なうばかりでなく,自宅で毎日行なうことが大切であり,より効果があるものです。このような家庭で行なう運動療法や温熱療法について書かれた書物は意外と少ないのです。
 本書は,東大病院の内科物理療法学科で関節リウマチ患者のリハビリテーションに直接当たっている理学療法士の粕谷大智氏と患者の看護を担当している佐々木清子看護婦長,およびリハビリテーションを指導している竹内二士夫医師との共著になる実践的ガイドブックです。

リウマチ体操や温熱療法の実際を図解で示す

 タイトルに“図説”とあるように,リウマチ体操や温熱療法の実際の図解で示されていて,わかりやすく書かれています。本書の特徴は,関節リウマチを4つの病期,初期・早期・進行期・晩期に分けて,ホットパックの使い方やマッサージの部位,リウマチ体操の仕方などが,手・膝などおかされた部位ごとに,ていねいに書かれていることです。それも2週間単位のメニューとして治療計画が組まれているので,患者さんやその家族も,まず2週間はやってみようという気になります。リハビリテーションは,やろうとする気持ちを持つことと,それを続けることが大切です。このあたりに著者らの意図がうかがわれます。
 リウマチ体操やマッサージは,1回何時間で1日何回やったらよいか,ホットパックを温める鍋湯の温度は何度がよいかなど,すぐに実行できるよう粕谷療法が加わり具体的に書かれているのも利用しやすい点です。
 膝が腫れていて,その場所に熱がある時に,冷やしたほうがよいか温めたほうがよいか,温熱療法はやったほうがよいか止めるか,首に痛みがある場合,頸の体操はどうするかなど治療法に迷った時のアドバイスを竹内医師が注意点として書かれています。保温のための服装やサポーターの選び方,食事,入浴,履物,適度の運動,自助具など佐々木婦長の記述は患者自身や家庭での介護者に役立つ内容です。
 このような内容から,本書は,患者とその家族,理学療法士,作業療法士,鍼灸・マッサージ師,看護婦,保健婦,リウマチ診療医など多くの方々に一読をすすめることができる1冊です。
B5・頁128 定価(本体3,500円+税) 医学書院


コンピュータを中心に情報学の最新技法を盛り込んだテキスト

臨床検査技術学(15) 情報科学概論 第2版 菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》神辺眞之(広島大教授・臨床検査医学)

 臨床検査医学分野の情報学のリーダーである松田信義教授が,臨床検査技師を主にした教科書,『臨床検査技術学』シリーズの『情報科学概論』の改訂版を出版された。
 初版に比べると,情報科学概論と医用工学概論とがそれぞれ独立した点がまず特徴としてあげられる。

コンピュータ通信機能の最新技術

 次に,検査情報システム,医療情報システム構築に関する基本理論を充実され,それらのシステムに利用されるコンピュータの,特に最近発展してきた通信機能(ネットワーク)の最新技術を紹介されている。
 インターネット,イントラネット,特に松田教授が推進されているマルチメディア通信は将来への夢を抱かせる情報処理技術であろう。
 松田教授から,私が引き継いだ日本臨床病理学会学術委員会の臨床検査情報学専門部会でも,“臨床検査情報の電子化と標準化”を目標に研究をしているので,本著は大変参考になる。
 特に,臨床検査情報システムのコンピュータと自動分析装置の接続に関するプロトコルの標準化について,アメリカで開発された“ASTM”を参考に国内版を検討中なので,本著のデータ通信の理論は学生だけでなく,私たち実際に検査現場を受け持つ者にも役立っている。また臨床検査情報システムも含む,医療情報システムの標準化は国際的な広がりを見せており,“HL7標準規約”を私たちの専門部会でも研究しょうとしているが,本著を勉強しておれば,“HL7標準規約”の理解も容易であろうと考えている。

実習編を新たに加筆

 特筆すべきは,実際に実習を担当されている共著者の岸本光代先生による「実習編」が加筆されている点であろう。
 Windows 95の特徴と基本操作,キーボードの操作練習,マウスの操作,Windows 95の起動と終了など,コンピュータ・マニュアルがわりに利用できる。
 コンピュータは,論より証拠,実際に使えなければならないが,コンピュータの初心者でも,この「実習編」を一読すれば,コンピュータで自分の望む計算結果などを実現でき,コンピュータが好きになりそうである。
 松田教授は長年,臨床検査情報の解析方法について私たちを指導してくださっているが,その成果は上述の専門部会の研究発表として,『臨床病理』の誌面や,インターネットのホームページに「臨床検査のコンサルテーション」としてまとめて報告しているので,参考にしてほしい。
 本著は,臨床検査技師を志す学生のみならず,医学生の情報学に関する教科書にも利用されればよいと思う。
B5・頁110 定価(本体2,000円+税) 医学書院