医学界新聞

 Nurse's Essay

 「宇宙日和」を見て

 八谷量子


 先日,「宇宙日和」という演劇を観た。脚本は,本業が落語家の立川志らく,演出は村木藤志郎という無名に近いコンビであるが,60人も入れば満員の小屋は通路に人があふれ,立ち見が出るほどの大入りであった。会場には某大物映画監督やマスコミ関係者もいて,予想以上に世間の関心が高いことをうかがわせた。
 ストーリーは,人類滅亡の危機を救うために3人娘の1人を嫁がせるという,荒唐無稽なドタバタ喜劇である。笑いが下品にならず好感が持てたのは,テーマが一貫して「家族愛」を主張していたからである。
 時にホームドラマ風で,劇画タッチの展開ながら,どことなく懐かしく,既視感を感じさせるのは,小津安二郎のパロディが基底にあるからだろう。それゆえに,この劇の登場人物たちはみんな平凡で,典型的な日本人たちである。父親は頑固で,母親はやさしく愚か,子どもたちは親に反発はするが,羽目を外さない範囲でのよい子たちという図式もできあがっている。
 観客の大半は20代前後の若者たちであるが,古風とさえ思われる登場人物たちに共感し,同情し,時には涙を流して悲しみ,劇を堪能していた。私にとっては劇そのものより,若者たちの反応のほうがおもしろく,興味が持てた。日頃,無関心,無感動,自己中心的と言われる世代が,案外人間に関心を持ち,「愛」という言葉に素直に反応する姿をみて,今どきの若者もまんざら捨てたものじゃないと認識を改めた。
 不況が言われ,進歩という概念が根本的に見直されようとしている。そんな不透明な時代ではあるが,家族を愛し,自分の身の丈に合った生活を守り,自分らしく生きることの大切さを教えてくれるのは,宗教でも哲学でもなく,案外繁華街の外れにある小劇場の空間なのかもしれない。