医学界新聞

横浜市大病院「手術患者取り違え事故」に,
日本看護協会がいち早い対応


 さる1月11日に発生した,横浜市立大学医学部附属病院での「手術患者取り違え事故」に関し,日本看護協会(見藤隆子会長)は,「人命尊重の点からも起こってはならない医療事故」,「事故およびその後の報道は,看護にとって重い問題を含んでいる」との観点から,看護職能団体としての見解(下記文書(1))を発表した。また,全国の会員の看護管理者宛に,事故防止のための文書(下記文書(2))を送付した。


(文書(1))

1999年1月25日

手術患者取り違え事故について

(社)日本看護協会会長 見藤隆子

 1月11日に横浜市立大学医学部附属病院で起きた手術患者の取り違え事故は,起こってはならない医療事故であり,人命尊重の点からも誠に遺憾である。
 今回の事故については病院当局の発表をもとに,患者を搬送した看護婦の患者取り違えミスとした報道が多かったが,病院全体の管理体制・システム等の原因も看過できない。
 まず,看護婦1人で複数の患者を搬送したことや,手術が実施されるまでの間,患者を確認する複数の機会があったにもかかわらず見過ごされ,そのまま手術につながったということは,手術に関わる医療チーム全体の管理体制の問題であるといわざるをえない。

 本会としては,従来より事故防止対策や看護業務に関わる各種の指針を作成し会員への普及に努めてきたが,今回,再度会員に業務点検や安全管理を徹底し,事故防止に努めていく。


(文書(2))

1999年1月25日

横浜市立大学医学部附属病院における手術患者取り違え事故について

(社)日本看護協会会長 見藤隆子

 1月11日に横浜市立大学医学部附属病院で起きた手術患者取り違え事故の報道には,看護管理者のみなさまは大変ショックを受けられたことと思います。
 病院当局から最初に出された「患者を搬送した看護婦の単純ミス」という報道には,納得できないものを感じられたことと思います。主治医,麻酔医,手術室看護婦などと患者の識別ができる立場の者が,誰もそのことに気づかなかったということが重要な問題であり,なぜそのようなことになったのか明らかにしたいと思います。しかし,現状では警察が入っているため現場から直接情報を得ることができません。新聞報道から知り得た状況は別紙に添えました(編集室削除)。
 日本看護協会は新聞やテレビでこの事故を知った一般市民に,看護職能団体としての見解やこれからの取り組みを伝える必要があると考え,同封のコメント(文書(1))をマスコミに届けました。
 同じような事件が1993年2月に九州で起きているのに,その教訓が十分生かされず再度起こったことは大変残念です。各病院・診療所の管理者の方々は,これを機会に患者の安全を保証できる体制を整えるためにすでに対策をとっていることと思いますが,再度次のようなことを点検し新たな取り組みを始められるようお願いいたします。
1.病院全体の管理システムの見直し
 ●手術室への患者搬送や受け渡しの手順の見直し
 ●患者識別のための方法―例えばリストバンド使用など
2.勤務体制,看護業務指針の再点検
 ●その日の状況に見合った柔軟な勤務体制が取れるような仕組みができているか
 ●業務指針の内容の見直し
3.事故防止対策の周知,職員への啓発

 看護職員のみなさまが従来にも増して患者の安全に心がけ,看護専門職者の責務を果たすようにいたしましょう。


〔編集室より〕
 なお,2月には京大医学部附属病院での輸血事故が明らかになり,医療事故は相変わらず続発している。「看護学雑誌」(医学書院発行)では,これからの医療事故の防止・予防にはシステマチックな対策が必要との観点から,新しい事故予防の方法論としての“リスクマネジメント”の考え方に関する特集「変わる医療事故の概念とその対策」を62巻12号(1998年12月号)に掲載。さらに本年1月号(63巻1号)からは,(1)データに基づいたアプローチをする,(2)事故の原因を組織,システム,環境といった視点からも検討する,(3)事故防止をシステムで考える,(4)組織で取り組むなどをリスクマネジメントのポイントとする新連載「今日からのリスクマネジメント実践講座」を掲載(全7回予定)している。