医学界新聞

介護保険実施への課題をめぐって論議

第3回日本在宅ケア学会が開催される


 第3回日本在宅ケア学会が,さる1月30日に,丸茂文昭会長(東医歯大)のもと,「社会政策の転換期における在宅ケアの確立」をメインテーマに,東京・千代田区の日本教育会館で開催された。
 同学会は,医療職から福祉職,行政,企業,一般市民が一堂に会し,在宅ケアの実践と理論,将来展望を討議する場として1996年に発足。現在,462名の会員のもと学術団体としての登録申請の準備を進めている。
 今学会では,午前中に58題におよぶ一般演題発表が行なわれた他,午後にはメインテーマに沿った会長講演「社会政策の転換期における在宅ケア」とシンポジウム「介護保険制度の課題と在宅ケアシステムの確立」(司会=都立保健科学大 川村佐和子氏,茨城県立医療大 大田仁史氏)が行なわれた。本号では,シンポジウムの話題をとりあげる。


情報提供が介護保険の鍵に

 「介護保険法の実施に当たっては弱者切り捨てや地域による不均衡が起こることがなく,また内容のあるサービスが行なわれるよう,積極的に要介護者,要支援者を守っていきたい」(丸茂会長)との趣旨で開催されたシンポジウムには,行政職から山崎史郎氏(厚生省老人福祉計画課),医師の立場から齋藤正身氏(霞が関南病院),看護(保健)職は堀井とよみ氏(滋賀県水口町保健センター),リハビリテーションの立場から堀川進氏(杉並区高円寺保健センター),福祉職として太田貞司氏(広島女子大)の5名が登壇。なお,今シンポジウムでは,最初から全体討論を行ない,フロアからも意見を求めながら討論を深めるという形で実施された。
 本シンポジウムで議論されたテーマは,(1)介護保険の対象者の把握について,(2)対象者が申請をする段階での問題,(3)訪問調査はどう行なうか,(4)認定審査会について,(5)介護度・ケアプラン・介護支援専門員の役割について,(6)サービス・介護報酬に関して,(7)苦情の軽減をめざしてなど。
 (1)に関して,堀井氏や堀川氏からは,積極的な情報と収集および住民啓発の必要性が強調された。また(2)に関しては,「入院している患者から,申請したらいくらもらえるのか,保険料はいくら払うのかと問われ,家族からは,もう介護をしなくてもよいのですね,と言われるなど,保険に対する認識もまちまちであり,錯覚もある」(齋藤氏),「本人の申請が必要だが,施設が代行できる(ただし本人の意思は必要)。民生委員,保健婦などが一緒になって実行してほしい」(山崎氏)などが議論され,(1),(2)ともに,住民への情報提供が大きな鍵となることが示唆された。

問われる関係者の質

 一方(3)に関しては,「調査員には,住民に不利益が生じないように教育や訓練が必要」(堀井氏),「調査される側も世間体があり,恥ずかしいから申告しないなどの姿勢もみられる。1度の調査では適正な判断は難しい」(堀川氏)の意見が出された。
 山崎氏は,要介護度の基準が変更となり,在宅での上限がこれまでの29万円から35万円に修正されたことなどを解説。また,「コンピュータがすべてを決めるのでもなく,調査員1人が決めるわけではない。合議制で変えていくのが基本で,2審制の意義の認識を持ってほしい」と訴えた。
 なお(4)の論議からは,「かかりつけ医制度」の是非論にまで発展。また,審査会への利用者の参画の必要性も議論された。
 まとめにあたっては「住宅の見直しも必要に」(太田氏),「おしつけサービスにならないためにも情報提供の仕方が大事」(齋藤氏),「家族介護から社会的介護への変革を期待」(堀井氏),「個を見る姿勢から,地域を見る姿勢へ」(堀川氏),「介護保険にも限界がある。予防に力をそそぐことも必要」(山崎氏)と各シンポジストから述べられた他,司会の川村氏は「介護保険がすべてではない。対象とならない人たちへのサービスをどう構築していくのかも課題となろう」と結んだ。