医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医学生から臨床の最前線にいる医師まで

消化管エコーの診かた・考えかた 湯浅肇,井出満 著

《書 評》新海眞行(半田内科医会名誉会長)

 昭和40年代,胃集団検診の普及と白壁彦夫先生の開発による胃X線二重造影法の活用により,全国各地で早期胃癌が発見され始めていた頃,著者の湯浅肇先生は,藤枝市立志太病院内科で消化器疾患の診断と治療に励んでおられた。
 白壁先生の指名で,私が志太病院で早期胃癌のX線診断について話題提供させていただいた時,胃癌の早期発見のコツは圧迫法の活用にあると述べた。また,圧迫不能の部位の病変の描出には,二重造影法に工夫を加えた体位変換が必要とも述べた。
 この頃から,湯浅先生は急性腹症で来院の患者に超音波検査を行なっておられた。絞扼性イレウスの患者に超音波を当ててみると,腸液で緊満した腸係蹄がくっきり見えるのに驚かされ,従来から言われていた常識に疑問を持ちはじめ,病的な状態の消化管は正常では考えられないほど超音波的好条件が揃っていて,よく見えるのに気づかれたようである。圧迫の強弱によって病変の出没することも知った。
 よい画像の得られる症例を経験するにつれ,消化管エコーの臨床での有用性を信じて,25年間一貫して超音波による消化管診断の臨床応用を主張し続け,症例報告をしておられた。
 湯浅先生と井出満先生との出会いは,岸和田徳洲会病院腹部超音波室であった。著者らは,消化器科医,外科医,病理医などの協力を得て,超音波による消化管疾患の診断に打ち込む好条件に恵まれた。

日常診療で遭遇する消化管疾患を網羅

 本書では,「消化管エコーの考えかた」,「診かた(描出のテクニック)」,「消化管疾患の診かた・考えかた」,「症状からみたアプローチ」,「症例から学ぶ消化管エコーの実際」と5つの章から成り立っている。各章には典型的な疾患の画像とシェーマを添えて,検査のコツ,診断のポイントと考えかたをわかりやすく解説している。「まずは痛んでいるところに聴診器代わりに当ててみる」ことからはじめ,視点の置きかたと描出テクニックを詳述し,病変の部位と性状により,圧迫の程度の強弱を5段階に分けて圧迫法の重要性を強調している。消化管エコーは,腹部単純X線検査,CT検査と対比することで,誤診しないように細心の注意で診断すべきと述べている。また,随所に書かれた「ノート」「コーヒーブレイク」は語り口そのままの平明な文章で,読者への心配りは嬉しい。これは,長年若い医師らを教育する中で,著者らの指導経験から生まれたアイディアであると思う。著者らの地道な努力による豊富な経験症例の積み重ねが,自信にあふれた見事な説得力で読者にやさしく解説されている。日常診療で遭遇する消化管疾患のほとんどが網羅されている。いち早く消化管エコーに着目し,以来25年,多くの知見を得た著者らは,消化管エコーの分野では第一人者である。消化管エコーを開発し,普及させた著者らの地道な努力に敬意を表する。
 消化管疾患診断学の進歩はめざましく,X線二重造影法の開発にはじまり,X線と内視鏡との併用,そして今は内視鏡主役と変化して,私の医学生の頃に得た知識,その後に得た知識と今日では状況は著しく変わっている。天才肌の著者らの努力で,消化管の急性炎症性疾患の診断には消化管エコーは必須となった。したがって,救急医療を担う医師はもちろん,本書の読者対象には,臨床の最前線にいる医師のみでなく,研修医や医学生も加わるべきである。消化管エコーをきわめる者にとっては,よい教科書ができたものである。 消化器疾患を診断・治療する医療の前線にいる臨床医に一読されることを強くお勧めしたい好書である。
B5・頁198 定価(本体5,500円+税) 医学書院


日常診療の中で内科医として何が必要か

内科医の薬100
Minimum Requirement 第2版
 北原光夫,上野文昭 編

《書 評》黒川 清(東海大医学部長)

内科医に必要な薬100を厳選

 『内科医の薬100-Minimum Requirement(第2版)』が出版された。内科の臨床と教育では抜群の背景と実力のある北原光夫先生と上野文昭先生の編集によるものである。本書は内科医に最低限必要なMinimum Requirement 100の薬を選んでいる。初版が出たのは4年半前であるが,この4年半を振り返って見るといろいろな新薬も出ているし,また病気の診断,治療法が変わってきた。この「Minimum 100」が内科の素晴らしい臨床家から見るとどのようになっているかをアクセスする意味からいっても大変面白い。
 初版の序にもあるように実際にわれわれの日常診療から見てみると,常に使う薬,どうしても知っていなければならない薬の数はそんなに多いものではないし,またいろいろな種類はあるにしてもそれほど多くの薬を使っている筈もない。さらにいろいろな新薬が出てきても,その新薬が従来使用されていた薬と比べて臨床上圧倒的に優れているということはむしろ少ない。多くの医師が新薬を使うインセンティブは日本の医療制度の問題と,医師も生活をしなければならないので,薬価差という問題が常に意識にあるということは否定できないであろう。経済上のことを考えずに内科医として何が必要なのかといえば「この100になる」というのがこのエキスパートの意見であり,しかも100に厳選したところに意味がある。
 そこで4年半ぶりに改訂してみたところ何が起こったか。第2版の序に書いてあるように4年や5年の経過で簡単に廃れてしまう薬剤は初版から含まれていなかったことを確認できたということであろう。いろいろな進歩や変化があったとしても,20%弱の薬剤が入れ替わったというだけであって,いわゆる「良い薬」を厳選してみれば,この辺が内科医として日常知っていて,なおかつそれを使いこなせる必要があるということである。

薬の使い方をどう考えるか

 さてそのリストを見てみると各項にはなるほどと思える薬があるし,しかもそれらを選んだ理由も,考えてみれば納得のできるものといえよう。しかもそれぞれに簡単に2,3行の薬の解説があり,さらに剤形,病態に応じた使い方,代謝・排泄,副作用や同種薬剤について簡単に要領よく表してあり,大変便利な形態になっている。文献もついている。日常の診療でそれぞれの専門も違うとして,もし総合的な内科医としてはいったい何が必要なのかということがよくわかると思う。
 最近これに似た,しかし実際は目的も内容も違う実にユニークな本として『P-drugマニュアル-WHOのすすめる医薬品適正使用』が,津谷喜一郎・別府宏圀・佐久間昭先生の翻訳により同じ医学書院から出ている。「P」とは「personal」という意味であるが,自分の使い勝手のよい薬について熟知しておくことの必要性およびその教育などについて著されている。原著は「WHO Action Programme on Essential Drug」によるという。このように2つの似たような趣旨の本が出されていることは大変に興味深い。
 現在の日本では医療経済の問題,そこでの薬価差の問題,薬価のつけ方の問題,保険医療システムの問題などから薬の使い方が純粋に医学的でない面が多くあることもかなり指摘されている。当然であろう。医師としてはどういうアプローチをすべきかという基本に返ることを改めて考えさせてくれる本として,この『内科医の薬100-Minimum Requirement』は座右に置いておきたいものであり,皆様にぜひ推薦させていただきたい本である。
B6・頁254 定価(本体3,800円+税) 医学書院


若い眼科医必読の1冊

緑内障からみたIOL手術 近藤武久 著

《書 評》永田 誠(永田眼科)

 篤学の士近藤武久博士が『緑内障からみたIOL手術』を著された。 
 きわめて読みやすい手術書であるが,その読みやすさは手術アトラスに近く,宇山教授も巻頭の推薦文で述べられているように一気に読了できるが,内容に富んだ魅力あふれる著作と思う。カラー図版は非常に美しく,簡潔なレイアウトも好感がもてる。

IOL手術と緑内障手術の問題点を網羅

 近代的なIOL手術と緑内障手術の問題点が網羅してあり,これだけの内容をこのように簡潔にまとめられたことに近藤博士の学問的,臨床的実力が伺われ,見事である。この本でも述べられているように,近代の白内障手術の進歩が眼科手術の他の領域,すなわち緑内障手術,網膜硝子体手術に与えた影響の大きさは真に計り知れぬものがある。その出発点はCCC,核分割法,無縫合切開技術の開発普及にあったが,緑内障手術もこれによって直接的,間接的に画期的とも言える変革進歩を遂げた。それまでは緑内障手術の適応決定や予後の足枷となっていた白内障手術が見違えるように洗練された手術に生まれかわったからであるが,ここに至るまでのすべてを経験された医師のみが書ける貴重な内容がこの1冊に含まれている。

手術適応の設定に至る思考過程を綿密に記述

 特に感心したのは,緑内障のいろいろな病態における手術適応の設定に至る思考過程が綿密で,しかも誰にも納得できるように懇切に書かれている点である。これが随所にわかりやすいフローチャートで図示されており,術式もなぜこの方法を選ぶかという点を読者に完全に理解させる工夫がこらされている。
 また,「私のノウハウ」や,「ワンポイントアドバイス」には長い臨床経験を経た者でないと得られない貴重な知識が惜しげもなく盛られており,これらの知識を分かち与えられることは読者のこの上ない幸せである。
 「忘れ得ぬケース」は苦い経験や,貴重な体験が述べられており,著者の謙虚な人柄や失敗を糧として成長を遂げてきた1人の優れた臨床家の歴史が感得できる。
 著者得意の分野であるUBM(超音波生体顕微鏡)の図はきわめて適切に用いられているが,できれば,これに特に関連の深い閉塞隅角緑内障の手術において重要な意味を持つ隅角癒着解離術や,これと眼内レンズ手術の併用についても触れてほしかったと感ずるのは贅沢な望みであろうか。特に眼内レンズ手術,緑内障手術の両方に関心を持つ若い眼科医必読の書として推薦する。
B5・頁140 定価(本体8,000円+税) 医学書院


21世紀の臨床検査技師に必要な知識と実践内容を網羅

臨床検査技術学 微生物学・臨床微生物学
菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》立脇憲一(滋賀医大附属病院・検査部)

 本書を開けると,まずカラー口絵と称したアトラスが目に飛び込んでくる。臨床微生物検査で遭遇する代表的な起炎菌の分離培地上の集落と,その染色標本顕微鏡像である。経験がある方なら実物を目の前にしたときの感触が蘇り,培養菌が放つ臭気すら感じられることであろう。未経験の方なら,将来本物を目にした時に,このカラーアトラスがいかに実物に近いものであったかを実感するであろう。
 本文は,「微生物学」,「臨床微生物学」,「実習」の3部に分けて構成されている。「1.微生物学」では,臨床微生物学を学ぶ上で基本となる事柄について,簡潔にわかりやすくまとめられている。
 次の「2.臨床微生物学」では,細菌・ウイルス・真菌検査を実践する上で,必要かつ不可欠な基本となる事項について,各菌群・属ごとに最新の知見,臨床との関連性も含めて学習しやすくまとめられている。
 「3.実習」は,微生物学実習と臨床微生物学実習から構成されている。本項は,わが国を代表する経験豊富でかつ検査の現場を知りつくした尊敬するお2人の技師によって,実践に即した内容で書き上げられている。
 微生物学実習では,実習に必要な基本的な事柄について具体的にまとめられている。臨床微生物学実習では,感染部位から採取される各種検査材料別に,材料採取から塗抹標本の作製,培養,同定,薬剤感受性検査,報告など検査室での実践に即して明解に記載されている。特に,標本の作製と検鏡のポイント,集落が発育した分離培地を前にどのように考え進めていくか,得られた検査結果をどのように医師に伝えるかなど,それぞれの場面での重要なポイントが要領よくまとめられている。また,嫌気性菌・抗酸菌検査法,同定の進め方,薬剤感受性検査法など最新の知見を基に,検査の実際に即した内容となっている。

微生物検査実践の現場に有用

 本書は,冒頭の言葉に「21世紀に向かっての臨床検査技師の教育に必要な深い経験を持ちながら,斬新さを持ち合わせた専門家が執筆され,技師として必須の知識と実践を可能とする内容で,レイアウトも「キーワード」,「学習の要点」などを配し学習しやすくし,さらに臨床との関連をも重視し,実際の現場で役立つ有用な検査技術内容になるよう工夫し,充実した内容になった」と記載してある。真に本書は,私ども検査技師にとって,微生物検査実践の現場での座右の書として非常に有用な内容で,微生物学検査を学ぶ学生あるいは卒後研修に大いに役立つであろうと思う。
B5・頁408 定価(本体6,000円+税) 医学書院


最新の魅力的な医寄生虫学・医動物学の教科書

標準医動物学 第2版 石井明,他 編集

《書 評》多田 功(九大教授・寄生虫学)

最近の進歩と世界情勢を合わせ編集

 このほど医学書院から『標準医動物学』の第2版が上梓された。これは10年ぶりの改訂で,執筆者も大幅に変えての出版であり,最近のこの分野の進歩と世界情勢に合わせて編集されている点が評価される。今回の改訂版で特徴的だと考えられるのは次の諸点であり,順序を立てずに述べてみる。
(1)見出しに工夫がなされ,関連した写真が楽しい。例えば原虫類では「C.Chagasの肖像の入ったブラジルの紙幣」とか,蠕虫類では「片山記」,臨床検査では「沖縄のマラリア制圧記念切手」といった具合で,読者のイマジネーションをかき立てる
(2)総論に医動物学の歴史が表になっている。記載不足の感は免れないが,この学問領域でどのような事柄が起こって,現在に至ったかを知ることができる
(3)当然のことながら治療や疫学について最新の状況に基づいた知見が述べられていて,数人の専門家による分担執筆の成果は特にマラリアの項で著しい。そこで予防内服の問題からワクチンに至るマラリア学を十分勉強できる
(4)寄生虫ごとに「学習のポイント」の項がまとめて示されており,医学生の学習に役立ちそうである。詳しい勉強をめざしての参考書の記載も有用である
(5)写真は口絵を除いて白黒であるが,いずれも鮮明で,理解を助けやすい
(6)口絵カラーも美麗であるが,もう少しサイズを大きくし,ポイントとなる箇所に矢印を入れるなどして説明がほしかったという感もある
 いずれにせよ最新の医寄生虫学・医動物学の教科書として魅力的であり,ここに推薦する次第である。
B5・頁336 定価(本体7,000円+税) 医学書院