医学界新聞

将来のアレルギー治療戦略

「免疫・アレルギー週間連合学会」の話題から


I 型アレルギー疾患を中心に

 第48回日本アレルギー学会(免疫・アレルギー週間連合学会,関連記事)で,シンポジウム「将来のアレルギー治療戦略」(司会=阪大 末村正樹氏,国立相模原病院 柳原行義氏)が企画され,特に I 型アレルギー疾患における治療の新たな可能性を提示する機会となった。
 まず最初に,「DNAワクチンによるアレルギー治療」と題して佐藤由紀夫氏(福島医大)が登壇。アレルギー性炎症にはアレルゲン特異的Th2細胞が産生するIL-4,IL-5が関与することから,Th2細胞抑制を目的にTh1細胞誘導を検討。IL-12産生を介してTh1細胞を誘導するImmunostimulatory DNA Sequence(ISS)を有するプラスミドベクターDNAを用いたDNAワクチン注射によりアレルギー反応抑制が可能なことから,DNAワクチンによるIgE抗体産生を抑制できると報告した。また,欧米では臨床試験が進行しており,安全性がクリアできれば,新たな治療法となる可能性が高いことを示唆した。

インターロイキンをターゲットに

 続く出原賢治氏(九大)は,IL-4によるシグナル伝達の阻害を検討し,IL-4受容体α鎖がアトピーの原因遺伝子の1つであることを発見したと発表。特にIL-4受容体α鎖50番目のアミノ酸のバリンとイソロイシンの遺伝的多型に着目し,イソロイシン型のほうが高いIgE産生を示すなど,アトピーと関係することが明らかになった。今後,このような遺伝的多型と疾患の関係を明らかにすることで新しい治療が期待されるとし,ゲノム医療への展望を述べた。続いて田中敏郎氏(阪大)は,I 型アレルギー疾患におけるIgE抗体の過剰産生などにIL-4が中心的な役割を果たすことから,IL-4の作用を抑制する化合物をスクリーニングし,非ペプチド性低分子化合物(#8921)を見出したことを報告。この物質がマウスのIgE産生を特異的,用量依存的に抑制し,さらにIL-4で誘導されるCε germline transcriptの発現も抑制するなどの効果を示した。さらにヒトでも同様の現象が認められたことを明らかにし,#8921が新しいタイプの抗アレルギー化合物であることを証明した。
 さらに中西憲司氏(兵庫医大)は,IL-18にIFNγ産生誘導作用があり,IL-12とともに作用すると大量のIFNγを産生することに着目。またT細胞,B細胞も両者で刺激すると,IL-12の作用でIL-18受容体を発現し,IL-18の作用でIFNγを産生することが認められている。抗CD3抗体の存在下でT細胞をIL-12とIL-18で刺激すると,Th1細胞に分化しIFNγを産生することから,両者を組合せることでIgE産生を強力に抑制することが可能であることを示した。

ヒト型化抗体の可能性

 海外からはロバート・フィック氏(Genentech)がヒト型モノクローナル抗体(rhuMAb-E25)を用いたアレルギー性T喘息の治療について,アメリカにおける臨床試験の成績を踏まえて報告した。続いて羅智靖氏(順大)は,IgE-IgE受容体(FcεRI)結合とマスト細胞の活性化がアレルギー炎症の根本的な病態であるとし,IgE-FcεRI抗体結合の阻害について2つの研究を報告。1つは,可溶化ヒトFcεRI鎖(solubule α)をIgEと同時または前投与することで,IgEによるマスト細胞活性化を抑制でき,またIgEを特異的に抑制することを明らかにした。もう1つはヒト型化抗FcεRIα鎖抗体を作成し,優れた抗アレルギー作用があることを報告した。
 喘息の病態でもある平滑筋収縮にCa2+が関わることから,Ca2+感受性増強効果(Ca2+sensitaizaion)が注目されている。この点に着目した飯塚邦彦氏(群馬大)は,Ca2+感受性増強効果にrho蛋白質が関与することを明らかにし,ROCK(Rho-associated coiled forming protein kinase)がCa2+感受性増強効果を惹起する可能性から,初めて見出されたROCK阻害剤Y-27632を用いて検討。この結果,rho/ROCK系の情報伝達の遮断が,気道拡張効果と炎症抑制作用を有することから,気管支喘息治療の可能性を示唆した。