医学界新聞

第24回国際内科学会総会印象記
総合性の確立へ向けて

井形昭弘(あいち健康の森・健康科学総合センター長 国際内科学会理事長)


全世界の内科医が参集

 第24回国際内科学会総会は1998年11月3日より7日にかけてペルーのリマで盛大に開催された。
 この国際内科学会は戦後ヨーロッパで生まれ,やがて世界に広がり,今や世界の53か国の各内科学会が加盟する世界連合に発展したもので,2年ごとに世界各地で総会が開催されている。第17回総会が京都で開催されたことはご存じの方も多いであろう。
 さて,今回は当初イスラエルでの開催予定がキャンセルになり,その代わりとして,数年前テロ事件で開催を断念したペルーが再度立候補し,理事会で議論の末開催が決定した経緯によるものであった。本総会は準備期間が短かったにもかかわらず,全世界からは約1500名,ペルーから約2000名の内科医が参加し,盛り上がりの中で大きな成果をあげた。会長はC.Battilana教授で,ペルー内科学会が総力をあげて準備し完成したその努力は高く評価されよう。ちなみに,アメリカ内科学会(American College of Physicians)がかなりテコ入れをしたことも成功に導いた一因をなした。
 開会式は3日夕刻,由緒あるサンフランシスコ大教会で荘重な奏楽で始まった。ちなみに,フジモリ大統領も出席の予定であったが,公務のため急遽代理出席となった。
 奏楽で始まる荘重なセレモニーの後,中世の時代を彷彿とさせる同教会中庭でレセプションが行なわれた。

クローズアップされた「内科の総合性」

 学会は4日から7日まで内科のすべての領域を網羅する多くのテーマについて討議が行なわれた。数多くの特別講演の中ではインカ時代を含めて「古代ペルーの医学」の話が特に興味深かった。また,笹川-日野原レクチャー(日本の基金で行なわれている特別講演)には黒川清教授(東海大医学部長)が指名され,「高血圧,腎臓と人類文化」と題する壮大なテーマの講演は大きな評価を得たが,講演の一部をスペイン語で話され絶賛を浴びた。私は会長(理事長)講演として「内科の将来」と題し,種々の経験から内科の分化の流れの中にあって再統合が不可欠であることを強調した。
 「21世紀をめざしての医学教育」には私も参加し,アメリカ内科学会での改革案を中心に,日本の最近の医学教育の動きをも報告,議論が行なわれた。
 その他内科全領域をカバーする多数のシンポジウムがもたれ,その中で特に注目されたのはEvidence-Based Medicineで,内科のあり方と関連して活発な議論があった。また,漢方ではないがHarb Medicine in Major Countries and its Economical Impactが多くの聴衆を集めていた。抗レトロウイルス剤,高齢者外来の問題点,うつ状態の内科からのアプローチ,エイズ,微量栄養素,感染症の変遷と未来,老化,旅行に伴う疾患などのシンポジウムでは,それぞれ南米の特徴が報告され世界との比較が検討され,本学会が南米で開催された意義がよく理解できた。公用語は英語であったが重要な講演ではスペイン語との同時通訳が行なわれ,ペルーの方が参加しやすい工夫がなされていた。
 近年内科領域でも縦割り専門化の傾向が強く,総合学会には若干関心が薄れている傾向があるが,本総会では内科の総合性がクローズアップされ,倫理,Evidence-Based Medicine,内科の社会的側面などに注目が集まり,大きな意義があったといえる。

平和を取り戻したペルー

 以上,南米ペルーで行なわれた本学会は統合をめざす内科の未来を考える上で多くの学ぶ点があり,輝かしい成果をあげた。
 ただ,日本大使公邸事件の記憶も新しいため,日本からの参加者は少なく,黒川教授,糖尿病のシンポジウムに招聘された姫井孟岡山日赤病院内科部長など数名の出席に留まった。しかし,ペルーは今年日本移民100周年を迎え,フジモリ大統領に象徴されるように多くの日系の方が活躍しており,その歴史を振り返ると戦争を挟んでの苦労の歴史が改めて胸に迫って感無量であった。また,リマ市民もわれわれには非常に友好的で数日の滞在を楽しく満喫できた。事件のあった日本大使公邸は既に取り壊されており何事もなかったのごとくで,われわれを震撼させた事件がそこであったのかと疑うほどの平和の中にあった。

2002年の日本での開催へ向けて

 ちなみに,約30年前ミュンヘンで本総会がビュルツブルグ大学内科教授E.ボルハイム会長のもとに開催され,当時同内科教室に在籍していた私は総会開催のお手伝いをした経緯がある。その後,同教授のお薦めもあって総会には毎回出席しており,本学会には特別の愛着があり,その中で力強く発展してきた内科学の成果を身をもって実感している。
 本総会はアメリカ,アジア,ヨーロッパと持ち回りで開催されており,次回は2000年にメキシコのカンクンで,次々回は2002年に日本内科学会が担当して日本で開催されることが決定している(会長=黒川清教授)。ここに改めて関係各位のご理解とご支援を切に希望する次第である。以上,ペルーで開催された国際内科学会の報告に代えたい。