医学界新聞

入院期間規制は何をもたらしたか

野々村典子(茨城県立医療大学教授・同附属病院看護部長)


予想を超える反響

 昨年9月に本紙(2307号)に掲載された記事「リハビリテーション医療に看護は不要なのか」への反響は筆者の予想を超えた。看護関係者からは「同感」という意見を多く寄せていただいた。その中に,患者とその家族が,入院期間規制にどのように反応しているかを知りたいというものもあった。
 規制前後について,月別平均入院日数の推移をリハビリテーション専門病院である本院の成人病床90床について見ると(下図参照),6月から8月が極端に下がっていることがわかる。その反動の如く,10月,11月は急激に上昇している。この理由は,看護ケア度で入院層をコントロールしたからである。
 従来,私たちは,重度で重複した障害のある患者(看護度C,Dランク:私たちは,疾病だけでなく障害の種類や合併障害の数で看護ケア度を4段階に分けている。C,Dは全介助に加えて特別な処置や配慮が必要)を積極的に受け入れてきた。そのような患者層(疾病ではない!)に対して,総力をあげてチーム医療を進めてきたが,平均入院期間は4月が103.4日であり,5月は117.9日であった。
 新看護3.5:1を取るためには,Bランクより比較的ケア度が低く,院内でのADL自立度の高い患者(看護度Aランク)を多く受け入れざるを得なかった。それはC,Dランクの患者を少なくしたのではなく,A,Bを多くしたということである。図でC,Dランクの患者層は変わっていないことに注目してほしい。

退院のことがすぐに話題に

 7月に入る頃から,C,Dランクの入院申し込みが目立って増えてきた。周囲の病院が調節に本腰を入れていることが実感された。この頃から,患者や家族の声として,「この病院は3か月しかいられないと聞いてきたが,このところ,どこの病院の担当の人も,退院のことをすぐ話題にする。なんとなく落ち着かない」と苦情が聞かれるようになった。「期間,先にありき」が先行しすぎると,重度障害者の場合には「どうせ半端で追い出される」と訓練意欲に影響する。もちろんリハビリテーションの効果にも影響する。

急務となる専門看護師の教育

 疾病の亜急性期は一般的には,救急対応(診断・処置等)後の疾病の病理学的治癒期間を言う。これに準ずれば,障害の亜急性期には機能形態障害,能力障害の改善を対応させるべきで,疾病のそれより遅くはじまり,一般的にその期間も長い。
 頸髄・頸椎損傷の自律神経系の再調整には1年以上かかるし,いくら専門的な対応をしても能力改善には1年余りを要することは医学的常識である。脳卒中という疾病は2週間もすれば亜急性期を脱するが,片マヒや失語症,失認症,前頭葉症状などの障害や当人の能力の改善には半年や1年では足らないことも多い。リハビリテーション医療には,疾病の治療より長い一定の入院日数が必要である。
 効果をあげながら,できるだけ入院期間を短縮するためには,重度の重複障害を有する患者の専門的な看護が不可欠である。有資格看護婦の配置基準がせめて2.5:1であることを切望する。そのために,質の高い専門的なケアのできるリハビリテーション専門看護師(CNS)の教育が急務であることは言を待たない。