医学界新聞

老年看護学の研究をめぐって論議

第3回日本老年看護学会開催


 第3回日本老年看護学会が,昨年11月21-22日の両日,七田恵子会長(東海大教授)のもと,東京・渋谷区の東海大学代々木校舎で開催された。
 今学会では,「老年看護学研究の現状と展望」をテーマとした会長講演や,シンポジウム「老年期に起こりやすい問題とケア研究の方向性」(座長=高知女子大 井上郁氏,都老研 永田久美子氏)が企画された他,(1)介護者・家族,(2)施設ケア,(3)在宅ケア,(4)痴呆など11分野での一般演題63題の発表が行なわれた。

実践現場の研究をもとに

 シンポジウムでは,高齢者に起こりやすい健康上の問題として,(1)失禁,(2)転倒・骨折,(3)寝たきり・ADL低下,(4)痴呆に焦点をあて,これらの看護ケアに関する研究を進めている4人のシンポジストから,ケアの方法,技術研究の現状と課題,面白さや難しさについての発言があった。
 最初に登壇した小松浩子氏(聖路加看護大)は,尿失禁クリニックでの実践を基に「失禁とケア」を口演。
 小松氏は,「高齢者にとっては『知られたくない,触れられたくない』現象である“失禁”を客観的に調査するのは難しい」と述べ,失禁の現象を科学的・研究的に捉えることの困難さを強調。また,「患者・家族介護者を含めて,尿失禁に対する懸念を払拭する日頃の接触」の重要性をあげるとともに,今後の老年看護学の方向性については,「高齢者の生理学的探究には,臨床的治験が必要」と述べた。
 鈴木みずえ氏(浜松医大)は,転倒から寝たきりとなる患者の例をあげ,浜松市で実施した介入研究をベースに「転倒・骨折の予防に関するケア研究」を口演。転倒のリスク要因として,(1)75歳以上の高齢,(2)過去の転倒経験者,(3)老化による機能低下,(4)循環器障害,(5)筋・骨格系障害,(6)認知障害などをあげ,ADL支援や自立援助が効果的であることを指摘した。
 さらに,浜松市における「転倒防止に関する介入研究」の試みについても解説し,市民を対象とした健康教育講座には,毎回参加者が60名あることなどを述べた。

老年看護研究の課題と可能性を討議

 一方「寝たきり・ADL低下」については,地域リハビリテーションの視点から深谷安子氏(東海大)が,「さまざまな職種がかかわる地域リハビリテーションの中では,今後リハビリテーション看護の確立が重要な課題となる」と指摘。また,高齢者にとっての達成可能な目標の設定,「老い」を衰退と捉えない認識,高齢者にできるADLの把握,第3者による家族関係の調整などが必要とし,今後はリハビリテーション行動を捉えるためのスケールと予測モデル開発の必要性を強調した。
 また,川島和代氏(金沢大)は,「痴呆性老人の看護は教科書通りにいかない」とし,「痴呆」に関して発言。「痴呆性老人に安定した環境を作りだす」など,痴呆性老人への看護ケアのポイントを解説した。また,今後の研究の方向性については,臨床の場を重視した経験知を研究に生かすこととし,「よい看護をもらたしている看護・介護の構造を,何がよいのか,何が有効なのかを平易な言葉で明らかにした上で臨床とかかわることで,より洗練された実践の質の向上がめざせる」と指摘した。
 また総合ディスカッションでは,フロアを交えて,ケア開発や看護介入方法に関する研究の課題や可能性をめぐる論議とともに,「看護に関する研究費の増加」を望む意見や,再現性,妥当性の科学としての「看護学」の確立へ向けた意見など,活発な討論が行なわれた。