医学界新聞

1・9・9・9
新春随想

“The greatest plane ever built”

小山秀夫(国立医療・病院管理研究所)


 “The greatest plane ever built”
 この言葉は,サンデイエゴ航空宇宙博物館のMitsubishi A6M Zeroの解説文中にある称賛である。零式艦上戦闘機またはゼロ戦は,太平洋戦争開始時点で世界最優秀の戦闘機であり,1万400機以上が生産された。このうち現在確認されているのは,国内で復元保存されているもの1機,残骸として原型のまま保存されているもの1機,海外で復元保存されているもの12機(このうち2機は,なんと飛行可能)の計17機である。
 最近出版されたパスカル・ローズの「ゼロ戦」(鈴村靖爾訳,集英社)という本の訳者あとがきに,Zeroの文字を綴りかえるとRoseとなるということが書いてある。ゼロ戦はこの国で73年前に咲いた真紅のバラであった。そして,今はほんのわずかなドライフラワーが残っているだけなのかもしれないと思ったら,いとおしい。
 こんなふうに思うのは,僕が小学生のころからゼロ戦に興味を持ち続けているからだ。幼少のころは少年雑誌の記事やマンガが手がかりだったが,海軍パイロット坂井三郎氏や,設計者堀越二郎氏のことを知り,なにか心を打つものがあった。これまでにゼロ戦に関係するノンフィクションやフィクションは多数出版されているが,このうちの100冊以上は読んだことがある。
 僕の夢は,ゼロ戦に関する研究論文を書くことと,現存するすべてのゼロ戦を観ることである。こんなことを書くと,女性から「この軍国主義者!」などと呼ばれそうだが,僕の場合はいたって平和主義なオタクにすぎない。
 佐々木譲氏の「ベルリン飛行指令」(新潮文庫)という冒険小説がいちばんのお気に入りで,すごいと思う。この小説は,1940年11月27日に出発して,12月7日にベルリンにゼロ戦が到着したという壮大な物語であり,オタクたちに楽しみを与えてくれる。
 ゼロ戦は特攻と分けがたく結びついており,この意味では太平洋戦争当時の日本を象徴したと考えてもよい。しかし,軍需産業の技術者たちにより戦後の再建やモータリゼーションが起こったことも事実で,ゼロ戦を軸に戦前,戦中,戦後の歴史を読み直すこともできると思う。
 そのためにも,わずか17機のすべてを目に焼きつけておきたい。国内にあるゼロ戦は,復元されてはいるものの,地上に展示されているだけで,そこに置いてあるといってもよい。これに対して,例えばスミソニアン博物館のゼロ戦は天井から吊り下げられている。ただ,近くに風船爆弾の展示もあり,暗い雰囲気がある。サンデイエゴのゼロ戦も吊り下げられてはいるものの,ライバルであったF6F戦闘機とともにアメリカ空母の大型パネルのコーナーに展示されており,その型の美しさに加えて,多くの人々によって大切に保存されていることがわかる。
 最近になって,ニュージーランドのオークランド博物館に,非常に程度のよいゼロ戦があることを知った。「何とかニュージーランドへ」というのが,今の僕の気持ちである。
 このほか,ジャカルタのインドネシア空軍博物館にも展示されていることや,キャンベラにあるオーストラリア戦争博物館も所有されていることが確認できている。ただ後者は倉庫内に保管されており,見せてもらえないので残念である。いずれにせよ,今年も夢を見続けていたいと思っている。