医学界新聞

「Hit the target for the 21st century」

第11回日本内視鏡外科学会開催


 昨(1998)年12月10-11日の両日,東京・文京区の椿山荘において,第11回日本内視鏡外科学会が,“Hit the target for the 21st century”をテーマに開催された。成毛韶夫会長(国立がんセンター中央病院副院長)のもとで行なわれた今学会では,会長講演「癌に対する内視鏡外科の現況と展望」をはじめ,Michel Gagner氏(Mt. Sinai Medical Center)と,Hani Shennib氏(The Montreal General Hospital)による招請講演や,阿部信平氏(トヨタ自動車)による特別講演「自動車生産ラインにおける自動化・Robotics」の他,「癌に対する内視鏡外科治療への挑戦」と題したシンポジウム3題や,ワークショップ6題,一般演題429題などが企画されたが,全体的にビデオを使った発表が多く見られた。


大腸癌に対する腹腔鏡下手術

 2日目に行なわれたシンポジウム「大腸癌に対する腹腔鏡下手術への挑戦」(司会=近畿大 安富正幸氏,帝京大 小平進氏)では,6名のシンポジストが大腸癌手術に関する研究を発表し,大腸癌に対する腹腔鏡下手術の有効性を示す多くの結果が提示された。以下,a:対象疾患,b:術式の特徴,c:結果,の順に示す。
1)宮島伸宜氏(帝京大附属溝口病院)
 a.進行右側大腸癌
 b.超音波外科ユニット,およびlaparoscopic coagulating shearsを有効に利用し,体腔内でのリンパ節郭清を可能にした
 c. D3郭清を行なった場合では,開腹手術より平均7日間早く退院が実現した
2)奥田準二氏(阪医大)
 a.進行大腸癌
 b.組織摘出bagの使用と,創部・腹腔内の十分な洗浄で,創部再発を抑える
 c.開腹手術より回復が早く,再発もない。教育への配慮や経済性も考慮し,手技のシステム化にも努めている
3)宗像康博氏(長野市民病院)
 a.進行結腸・直腸癌
 b.腫瘍やリンパ節はなるべく把持しない。後腹膜アプローチを活用して腹膜腔内での手術時間を短縮
 c.開腹手術と同等のリンパ節郭清が可能で,再発もない
4)宮坂裕司氏(北海道消化器科病院)
 a.進行大腸癌
 b.気腹は施行せず,つり上げ法でport site recurrenceを予防
 c.手術時間,経口開始日,入院期間,合併症の発生頻度のいずれも開腹手術より良好で,平均12か月間再発もない
5)山田英夫氏(国立佐倉病院)
 a.大腸癌
 b.前方切除術には,後腹膜腔鏡の併用と,D3郭清・腹腔内吻合を原則とし,その他には,ハンドアシストを使って腸管を受動し,直視下でのD3郭清・腹腔外吻合を原則とした
 c.個体差による影響が減り,癒着による開腹移行もなかった
6)渡邊昌彦氏(慶大)
 a.早期大腸癌
 b.鮮明な画像,細かい視点が武器。早期癌の経験を踏まえ,手技を定型化し,進行癌にも根治術を試みた
 c.早期癌では,早期経口摂取・早期退院を実現。進行癌は,部位・技術によっては有効な場合もある

進行癌に対する挑戦

 同シンポジウムの総合討論では,早期癌に対する腹腔鏡下手術の適応には十分な有効性が示されたことを確認し,その上で大腸の進行癌の対策を検討。(1)扱いにくい右側結腸,(2)器具(メスやハンドアシスト等)の選択,(3)直腸の手術,(4)port site recurrenceの問題,(5)腹腔外での作業,(6)コストパフォーマンスなどに関して,フロアも交えて多くの意見が出され,21世紀に向けた進行癌に挑戦する腹腔鏡下手術の課題と展望が語られた。

癌に挑戦する内視鏡外科の可能性

 成毛氏による会長講演「癌に対する内視鏡外科の現況と展望」では,内視鏡外科手術の急速な発展過程が紹介された後,全国221施設から集められた8326例の手術報告をもとに,内視鏡手技のいくつかの疾患に対する可能性が示された。
(1)肺癌:低侵襲,入院日数の減少,費用減などの長所が確認されているが,突然の出血への対応が困難,触診不可といった問題が残されている
(2)食道癌:内視鏡手技は少ない
(3)胃癌:高い根治性,低侵襲,大きく切除可能,病理診断が正確など,多くの長所があるが,全身麻酔の必要性などの問題も残されている
(4)大腸癌:大きく切除可能,病理診断が正確,早期回復,早期経口摂食などの長所が確認されているが,全身麻酔の必要性などの問題も残されている
 その他,肝臓癌,胆嚢癌,膵臓癌,脾癌,副腎腫瘍,腎臓癌,乳癌などの手術例や研究状況を説明し,「内視鏡下手術は,特に早期癌に適応があり,標準術式より高く評価できる。今後は症例を蓄積し,標準術式によるリンパ節郭清術との比較検討や,器具の開発,経済効果の評価を行なうとともに,手技の複雑化に伴う外科医の技量の格差を是正し,内視鏡による安全な根治手術手技の確立と普及が望まれる」と,講演を締めくくった。
 なお,次回第12回日本内視鏡外科学会は,新田澄郎会長(東女医大教授)のもと,きたる12月1-2日の両日,東京の京王プラザホテルにおいて開催される予定。