医学界新聞

1・9・9・9
新春随想

消化器画像診断をめぐって

有山 嚢(順天堂大学教授・内科)


 消化器病学では現在,分子生物学,遺伝子診断と治療,免疫学などがトピックスとなっており,学会や研究会で主題として取り上げられることが多い。将来的にこれらの研究が重要であることは明らかである。しかし,現状で消化器疾患の診断と治療にもっとも役立っているのは画像診断である。

機器の進歩

 消化器画像診断の進歩には機器の開発改良が大きな比重を占める。特にUS,CT,MRIなどでは古い機器では診断できなかった病変が新しい機器で明瞭に描出される場合をよく経験する。
 例えば,日本住血吸虫症でみられる肝の網目状構造は古いUSでは描出できなかったし,小さな肝腫瘤性病変は現在のUSでは3mm前後のものが検出可能で,CT,MRIでは高速スキャンができるようになり,空間分解能が大幅に改良された結果,小さな肝腫瘤の存在診断だけでなく,内部血流の状態までわかるようになって質的診断もできるようになった。
 内視鏡も取扱いが容易になり,視野が大きくなり,治療用の器具が改良されて安全に施行できて,検査時間が短縮され,患者の苦痛が軽減された。また,血管造影もカテーテル,ガイドワイヤーが改良され,以前は困難であった小さな動静脈の分枝にカテーテルを容易に挿入できるようになり,診断と治療の精度がよくなった。

画像診断の研修

 日本では世界でもトップクラスの画像診断機器が使用できる恵まれた環境にある。しかし,最近では画像診断を突き詰めて研究しようとする人が少なくなったように思われる。
 画像診断を学問として成立させるためには,解剖学的,病理学的所見を忠実に描出して,臨床的効果を上げる高度のレベルが要求される。画像診断は『自分はしたい,できる,やった』というだけでは臨床的意義は少ない。
 例えば,USを行なう際は臓器をくまなく走査する技術と小さな病変を見逃さない鋭い目を習得すること,臨床検査所見から想定される肝胆膵疾患について幅広い知識を持つこと,多岐にわたる画像診断所見に通暁すること,病理組織所見と画像診断所見の対比の基礎的研究が要求される。
 検査を行なうにあたっては集中力が必要である。特に内視鏡,血管造影などの侵襲的な検査では集中力がないと,思わぬ合併症が発生する危険がある。検査がうまくできない時には,どこで撤退するかを考えておかなければならない。合併症の発生は巌に戒めるべきである。CT,MRIなどの機器に依存するところが多い検査も,流れ作業的に行なえば診断能は低下する。
 われわれは最近,MRCP(MR cholangiopancreatography)を始めた。
 MRCPは強いT2強調画像を撮像することによって,静止液体である膵液・胆汁が高信号に描出され2次元,3次元で再構成することによって従来の膵胆道造影と同じ画像が無侵襲に得られる画期的な方法である。
 MRCPを行なう場合に膵胆道造影の経験が豊富な医師が立会って,再構成された画像をチェックして,不適当な時にはシークエンスや撮像断面を変えることが診断に役立つ画像を得るために大切なことがわかった。画像診断は人任せでは駄目で,自ら立会って行なうことが必要である。
 画像診断は実務的でいわゆる『研究』の対象にならないと思っている人もいるかもしれないが,奥が深いのである。今は何時でも,どこでも,だれでもできる方法がもてはやされる時代であるが,画像診断を深く追及するには職人的な気質が要求される。

画像診断の将来の展望

 画像診断の究極の目的は病変を早期発見して,適切な治療法を選択して治癒せしめることである。
 病変の診断についてはいろいろな新しい方法が試みられている。
 USでは造影剤の開発,ハーモニックイメージング,プローブの改良が行なわれている。CTでは現在のものより1000倍の感度がある機器の研究が進行している。MRIは最も将来性があると考えられ,CTを凌駕している領域が多く,肝臓が2秒でスキャンできる時代である。MRCP,MR angiographyによって診断的なERCP(内視鏡的膵胆道造影)や血管造影の件数は減少しつつある。
 治療面では病変と周囲組織の関係が3次元で表示できるようになり,手術やinterventionが容易に行なえるようになった。病変の早期発見によって縮小手術が可能になり,術後のQOLが改善される症例が増加している。
 画像診断が進歩すればきわめて小さな病変の組織診断まで可能になり,内科で治療できるようになって,外科や病理がいらなくなる時代がくるかもしれない。