医学界新聞

遺伝子研究の進歩 分子生物学の展開


アデノウイルスを酢酸ウランでネガティブ染色したもの。ウイルス粒子を壊すと,中に蛋白質の複合体として充填されていた遺伝子DNAが飛び出してくるのが観察される

疾患と関連する遺伝子の同定
 日本人のインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者におけるアミリン遺伝子のエキソン3部分のアミノ酸塩基配列。患者ではA→Gの1箇所に変異が見られる
(Sakagashira, S,他;Diabetes, Vol45, No.9, 1996)

 1980年頃から,遺伝子の組み替え技術がさまざまな対象へと応用されるようになり,その時期から,遺伝子を通して種々の医学上の問題が考慮されるようになってきた。疾患に関連する遺伝子同定がさかんに行なわれるようになり,そのために医学上の問題が遺伝子を中心に動く状態へと変化を遂げたのである。
 疾患の原因解明だけでなく,治療に関しても遺伝子までさかのぼって考えると,遺伝子そのものの操作も必要になる。遺伝子医療には倫理上の問題点の他,多数の課題が存在するが,これからの医学の非常に重要なポイントとなるだろう。
 21世紀には,遺伝子に関連する医療が具体化したものとなり,現実的な課題として浮かび上がってくる。
 遺伝子研究は,分子生物学の研究によって生まれてきたが,遺伝子の研究は生物学全般の問題であり,現在遺伝子こそが基礎となって進んでいる。分子生物学のことを遺伝子学と呼ぶ人もいるように,分子生物学がこれほど大きな役割を果たすことは,50年前には想像も及ばないことであった