医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病因から画像を解釈するMRI診断学を

頭部MRI診断学 安里令人 著

《書 評》松谷雅生(埼玉医大教授・脳神経外科)

 わが国のMRI診断学のパイオニアの1人である安里令人博士(京大)が,『頭部MRI診断学』を著された。800頁にわたる大著である。

MRI画像は病理組織変化をどこまでとらえるか

 本書の特徴の第1は,各種疾患の病理組織変化を,MRI画像がどこまでとらえられるかの追求である。MRI診断学は,MRI画像をイメージ感覚でとらえるのではなく,鑑別すべき疾患の病因を理解したうえで読影すべきとの著者の理念が明確にうち出されている。病態の記述だけでも,教科書としての価値はある。
 第2の特徴は,構成のユニークさであろう。読者がMRI画像の理解を早く得られる配慮がなされている。第1章でまず,MRI画像がとらえ得る病理組織変化を論じている。MRI画像は,水および脂質のプロトン(水素原子核)のNMR信号によって画像が構成される。この両者のNMR上の位置の相違(化学シフト)が,MRI画像診断でいかに重要であるかが詳しく述べられている。さらに,これら内因性のプロトンに影響を与える常磁性物質である金属イオン塩や,金属イオンと有機化合物との錯体についても詳述している。
 具体的な疾患論(各論)の最初(第2章)に傍鞍部病変を採り上げている。傍鞍部には,直径がmm単位の小構造物(下垂体後葉,下垂体茎,視神経など)が,これもたかだか直径1cm前後のトルコ鞍や海綿静脈洞などに含まれたり接している。これらの微小組織を鑑別するのはMRI画像の真骨頂である。さらにこの部位には,各々その起源を異にする腫瘍,血管障害,炎症などが発生する。MRI画像がX線CT画像より優れている微小構造物の描出性と内因性プロトン変化による診断精度の高さを強調し,MRI画像の基礎理解を求める著者の企画は,きわめて明解で理解しやすい。
 第4章の脳血管障害では,循環障害による組織破壊(出血も含む)の程度とMRI画像の構成が述べられている。虚血に伴って生じる細胞腫大→細胞死,および髄鞘崩壊→組織壊死の多くの画像は,脳のすべての組織破壊性病変を画像解析する基礎である。この章と第3章の中枢神経変性疾患および,第6章の髄鞘破壊性病変と代謝障害をまとめて読むと,組織変性破壊の画像がよく理解できる。
 第5章の脳腫瘍では,MRI画像の特徴を腫瘍組織型別に記述するのではなく,発生部位別に記している。実際の診断業務に適した配列であろう。

病因から画像を理解する診断学

 第7章の発生障害と先天奇形でも,著者は各疾患の発生機序とMRI画像との関連性をあくなく追求している。冒頭に述べたように,単なるイメージ学習ではなく,病因から画像を解釈する診断学の確立を求めている。
 このように,本書は,学生,研修医はもとより,放射線医学,脳神経外科学,神経内科学を学ぶ者にとって学ぶことの多い書である。
B5・頁800 定価(本体24,000円+税) 医学書院